コラム
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2008年 3月分 vol.2
異例の早さで進む「きぼう」の作業。そのワケは?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


「きぼう」船内保管室の中で宙返りする土井飛行士。四方に実験ラックが並び、人が動けるスペースは、約2m四方。感覚的には四畳半。下の図のように、上に蛍光灯、下にバーをとりつけて上下関係を作っている他、人間工学に基づき色で識別しやすいように設計。(提供:NASA、JAXA)  土井飛行士たちのミラクルな技で、日本実験棟「きぼう」の作業は「異例な早さ」で前倒しで進んでいる。ロボットアーム操作も完璧で、「きぼう」船内保管室を難なく宇宙ステーション(ISS)に取りつけ、「きぼう」入室も予定より3時間早まった。この早さはJAXA関係者も想定外だ。「きぼう」に入る瞬間を、つくばの管制室で取材しようと高速道路で運転中、私の携帯にJAXA広報から「もう入るから早く!」と連絡が入り、アクセル全開でギリギリ間に合ったほどだ。

 「きぼう」は約20年も前に開発が始まって、当時の技術者の中には異動したりリタイアされた方もいる。「日本初の有人施設」、本当に大丈夫?  という声が聞かれたりすることもあった。なのに、この本番のスムーズさはなんだろう。

 長谷川プロジェクトマネージャー(2008年2月「NASAも欲しがる「きぼう」プロマネの自作模型。」コラム参照)曰く、「日本の物づくりはしっかりしている」とのこと。開発中、不具合が出るとなぜそうなるのか、徹底的に中身を洗い、最終的にはNASAや米国大手メーカーが「なぜそこまで気づく?」という点まで不安要素をつぶした。「『日本人は決めたことは手を抜かない』と、NASAの信用を得ています」(長谷川プロマネ)。

フライトディレクターの松浦真弓さん。ブレザーの下に白いベストを着用。「アポロ13のジーン・クランツが白いベストを着ていたと知人が贈ってくれた」。トラブルなくてよかったですね。  つくばの運用管制チームが作った「手順書」も完璧だった。管制官達の仕事の多くは、宇宙飛行士と地上管制側の作業分担やトラブル対策を盛り込んだ手順書作り。さらにトラブルを想定したシミュレーション訓練を約1年間繰り返した。が、本番は拍子抜けするほど順調。宇宙での作業が手順書通りなら、ほとんど地上と交信をする必要もないのだが、フライトディレクターの松浦真弓さん曰く「土井さんは私たちに気を利かせて、『きぼう』の様子を積極的に知らせてくれた。」とのこと。

 そして、ISSの女性船長ペギー・ウィットソンの采配ぶり。彼女は初飛行で、いきなり2002年に第5次国際宇宙ステーション長期滞在クルーとして186日間宇宙に滞在している。今回が2回目の長期滞在。その間、2007年10月に、ドッキングポート「ハーモ二―」の結合、2008年2月にヨーロッパ実験棟「コロンバス」の結合と、今回と同様の作業を既に2回もこなしている。結合作業は「お手の物」なのだ。だから「次は何? どんどんやるわよー」と、次々と作業を地上側に要求してくるのだそうだ。カッコいいなぁ。

 もちろん、土井飛行士の自然体で落ち着いた作業が完璧であることは言うまでもない。たとえば貨物室から「きぼう」を取り出すときは約8cmのすき間しかない。慎重な操作が求められる難易度の高い作業を次々クリア。その後も、膨大な収納品を荷ほどきして、次のミッションに備えて準備するという地道な作業を行いつつ、「きぼう」に入室する時はちゃんと日本製「ふだん着」を着てくれたり、ブーメランを飛ばしたり、休みの日もフル稼働。(絵を描いたり、星を見る時間があるのか、心配なほど)

 さて、今回とりつけた「きぼう」船内保管室。5月に打ち上げ予定の、船内実験室の上に乗せ「倉庫」の役割を果たすのだが、隠れ家的スペースとしてもはや各国から注目を集めているとか。「ISSの中は地上からモニターされている場所が多くリラックスできない。瞑想する場所としていいらしい」(長谷川プロマネ)。実験ラックなどを取り出せば結構広いスペースになるようで、こっそりお昼寝したり、茶室なんて使い方もアリかもしれませんね。