宇宙を電波で観測!? アンテナが望遠鏡!? なんでこんなに大きくて、何を調べているのだろう? 45m電波望遠鏡の秘密を 久野(くの)准教授に聞いてきました。
45m電波望遠鏡、もちろん望遠鏡なのですよね? どう見てもアンテナに見えます…。例えば、すばる望遠鏡などとはどう違うのですか?
久野:実は、どちらも同じものなのです。宇宙から届く光や電波、どちらも電磁波ですが、それらを反射して1箇所に集めます。この望遠鏡は、電波をアンテナで反射して集めていて、すばるの場合は、光を鏡で反射をして集めています。
同じ電磁波でも光と電波は波長はちがっていて、光と比べた場合は、電波は波長が長いわけです。だから、すばるのように鏡のような反射面は必要ないので、アンテナで大丈夫なのです。
この望遠鏡のアンテナは、とにかく巨大です。一番高いところは地上から50mの高さで、動く部分の重さはおよそ700トンもあるそうですね。なぜこんなに大きいのですか?
久野:望遠鏡の性能は口径が大きい方がより細かいものを見ることができるのです、より細かいものを見るためにできるだけ大きい望遠鏡になってきているんですよ。
ミリ波という波長の電波を観測する望遠鏡として日本はもちろん世界最大で、単一鏡として日本国内で次に大きいのが名古屋大学の4mです。
2位が4m! 国内ミリ波では一人勝ちですね。世界最大と聞くと、その姿もりりしく見えてきます。でも、大きくするのって大変そうですね?
久野:ミリ波は波長が短いので、アンテナの表面のでこぼこを電波の波長よりも十分に小さくする必要があるのです。それに、アンテナが大きくなると、見える範囲が小さくなります。すると、アンテナを精度よく見たい方向に向けないといけないので、その精度も求められますね。
すなわち、望遠鏡を大きくするには、見たい方向にアンテナの向きを正確に向けることができるという性能が同時に必要になるのです。
ただ大きくするのも大変そうなのに、大きさとは逆の細やかさも同時に求められるとは!
精度も兼ね備えていないと「大きいということが意味をもたなくなってしまう」ということなのですね…。
久野:大きくて、精度がいい望遠鏡を作るのは、とても難しいのですが、この45m望遠鏡はどちらも兼ね備えたとても優秀な望遠鏡なんですよ。
精度・大きさとも世界水準の性能を持ったこの望遠鏡は、何を見ることができるのですか?
久野:この望遠鏡は電波で観測しています。
星の場合は何千度、何万度と温度が高いので直接光で見ることができますが、光とは違って、電波の場合は、星と星の間にあるガス(気体)である「星間ガス」が観測できるのです。ガスがある場所っていうのは、実は、星が生まれる場所なんですね。
星や銀河が生まれる場所や現場は、まだ光り始めていないから電波望遠鏡でしかわからないのです。宇宙って、たくさんの星から成り立っているのですが、どうやって、このような星たちが生まれてくるのかは、まだわかっていないのですよ。
45m電波望遠鏡を使った観測というのは、何をするのでしょうか?
久野:まず天空のある1点のデータを測ることからスタートします。そして、アンテナを少しずつずらしながら次の点、その次の点というように、メッシュ型に観測をしていきます。測った点を全部あわせると地図の等高線ができるように電波写真ができあがるのです。
できあがった絵をじっとながめて、その絵が意味しているのは何なのかを考えたり、推理を働かせたり、理論的な研究と比較したりして、わかったことを論文にまとめて発表します。
電波望遠鏡だけではなくて、すばるや光やX線など他の波長で観測したデータと照らし合わせたりして総合的に意味を探ったりもしています。
とても楽しそうです。45m望遠鏡の自慢というとなんでしょうか?
久野:昔は1点ずつを観測していました。この望遠鏡では、5×5=25点を一度に測ることができます。もちろん効率は25倍です。これは、電波望遠鏡では世界最大なんですよ。
昔は1点1点での観測ですが、今はアンテナを振りながらスキャナのように観測をするのです。アンテナの動かし方としてもきつい動かし方になっていると思いますが、それにたえられるものになっています。
今までは銀河1つで精一杯だったのが、今では銀河をたくさん撮って銀河40個のカタログまでできていしまっています。この画像は野辺山のウェブサイトで公開されていて、専門家が論文を書くために自由にダウンロードができます。
この望遠鏡、すごい発見もしていそうですね?
久野:銀河の中心に巨大なブラックホールを発見しました。
もともと、野辺山の所長さんだった筑波大の中井直正教授が見つけたんですが、中井教授は、わたしたちのいる銀河系の外にある、うずまき銀河の中心から水の分子が出している電波の強度を観測していました。
そうしたら、偶然なのですが、分子が秒速1000kmで運動していることがわかったのです。アメリカの望遠鏡で詳しく調べた後、その現象が起きている真ん中の重さを計算してみたら、ある重さで、ぴたー!っと計算が合ったのです。そのときの重さが太陽の3900万倍。しかもすごく小さい範囲の中にそれだけの重さのものが詰まっていないと計算が合わなかったのです。
えー!!!!! ブラックホールですか!?
久野:そうなんです、そういうものを説明するにはブラックホールしかないのです。この発見は今もブラックホールの存在としては最も確かな発見とされています。この発見によって、中井教授は「日本学士院賞」といって日本の学術研究で最も権威ある賞をもらっています。
そんな大発見もしてしまう45m望遠鏡ですが、この45m望遠鏡を使う1番の醍醐味というのは何でしょうか?
久野:偶然観測をしていて宝のようなものを発見するような楽しみがあるということは大きいですよね。大発見というのはなかなかないのですが、いままで見られなかったものが45m望遠鏡という優れた望遠鏡で見えるようになって、限界を超えていくことができます。ぼやけていたものがはっきりしたり、今まで何もないと思っていたところに何かがあったり。
そういう世界最高の性能を使って観測できるということが、この45m望遠鏡を使う醍醐味ではないでしょうか。
宇宙を電波で観測!? アンテナが望遠鏡!?
最初はよく分からなかったり、全く知らなかったことが見えてきて、とても有意義な1日でした。電波は、いままで目に見えなかった宇宙を見せてくれたのでした。
年に1回の特別公開日でしか見られない場所や体験できないイベントもありますが、野辺山観測所は年末年始休業を除いて、毎日見学することもできます。
国立天文台 野辺山観測所
http://www.nro.nao.ac.jp/visitors/index.html