2020年10月8日に発売した、国内向け標準形機械室レス・エレベーター
「AXIEZ-LINKs(アクシーズ・リンクス)」。
複数ビルのエレベーターを一括管理する
「街とつながる機能」、エレベーターと
ビル内設備が連携する「建物とつながる機能」、
運行効率や快適性を向上する
「人とつながる機能」をリンクさせることで、
スマートビルの実現を見据えたエレベーターの
新たな価値を具現化している。
そんなAXIEZ-LINKsの産みの親ともいえる4人の
キーマンに、開発の舞台裏や、
それぞれが直面した苦労、
機能面にとどまらない
こだわり、そして、さらなる未来へとつながる
展望を語ってもらった。
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技術や機能の提供ではなくソリューションの提案を
アクシーズ・リンクスの仕様検討チームが発足したのは2017年夏。その当初から参画していたのが、チームリーダーの二條と企画・販売および開発への橋渡し役を担当した須永。二條がプロジェクト発足当時を振り返る。
新たなニーズを
生み出していくものに三菱電機(株)ビル事業部
昇降機営業技術部
営業技術第一課二條 孝博
「エンドユーザー、ゼネコン、設計事務所、そしてビルオーナーなどとセグメントごとにエレベーターに対する要求が異なるなかで、最も市場に受け入れられるものは何なのか──その検討をメンバーとともに繰り返し協議しました。そしてたどり着いたのが"私たちの思い描く未来のエレベーターを形にする"ということ。開発者のシーズ志向に陥ってはいけないけれど、未来を見据えて未だ市場に顕在化していないニーズをも生み出していくようなものにしようと」。
数多くのアイテムを
カテゴライズして三菱電機(株)ビル事業部
ビル計画部
昇降機マーケティング課須永 現太
須永が補足する。
「そして、それを当社の標準形のエレベーターであるアクシーズで実現することに意味があると考えました。少しでも多くの場所で利用していただけるもの。その利便性と快適性を一人でも多くの人に届けていくことを目指したのです」。
新製品の方向性を定めたプロジェクトチームは、具体的なコンセプトの策定に取り掛かった。
「ビル統合ソリューションのビルユニティーや、かご内を清潔・快適に保つヘルスエアー®、さらにはロボット連携技術など、たくさんのアイテムがあるなかで、それらをどうお客様へ訴求できるものに仕上げていくか。私たちは、数多くのアイテムをカテゴライズし、そのカテゴリーごとにメリットを訴求できる商品にしていったらどうかと考えました。つまり、単に個々の技術や機能ではなく、各シーンにおけるソリューション提案として組み立てていくのです」。
エレベーターの新たなソリューションとして定められたのが『セキュリティー』『モビリティー』『エネルギー』『ビルマネジメント』の4カテゴリー。モビリティーにはロボット連携が、エネルギーにはBCP対策に向けたマルチ電源が、ビルマネジメントにはビルユニティーによるクラウドサービスやWebサービスが、そしてセキュリティーはそれらの連動によるソリューションが当てはまる。
さらに、そこから全体のキーワードを導き出した。それが、製品名の由来ともなった「つながる」。カテゴライズされた4つのソリューションを、さらにわかりやすく『街とつながる』『建物とつながる』『人とつながる』と定義づけすることで、ソリューションのコンセプトが一気に明確化された。
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三菱独自のロボット移動支援サービスにより実現
2019年に入ると、本格的な開発が始まった。2020年4月からロボット連携の技術開発を担当した小出に、その仕組みを尋ねた。
「エレベーターとロボットの連携を実現したのが、三菱電機のスマートシティ・ビルソリューションVille-feuille™(ヴィルフィーユ)※です。このIoTプラットフォームにより、ロボットからのリクエストに応えてエレベーターを配車し、ロボットを乗せ、目的階へと運びます」。
その開発において、小出は"エレベーターとロボットの連携"という未知の分野で根本的な課題と向き合うことに。
「ロボット連携の設計当初から、人とロボットを同じ扱いにするかどうかが大きな課題でした。ロボットと人が同乗した際にロボットが転倒するなどして人の安全を阻害してはいけませんし、ロボットが乗るために待ち時間を増やして快適性を損なってもいけません。結果、ロボットには専用号機を設け、人との同乗はさせないことに決まりました。また、ロボットも扉に挟まれたら壊れてしまいます。さまざまなシチュエーションを想定し、エレベーターを到着させた際に扉をどれくらいの時間開けておけば問題ないかなどを検証しました」と小出。
さらには、故障やメンテナンスによりエレベーターを止める際にロボット専用号機の扱いをどうするのかという課題が。
「たとえば2台のエレベーターのうち1台が故障してしまった場合に専用運転が解除され、ロボットがエレベーターで立ち往生しないように、残り1台となった場合でも専用運転可能な設計としました。しかし、建物毎にエレベーターの台数などによっても最適な運用方法は異なりますので、お客様のご要望を伺いながら柔軟に対応していければと考えています」。
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常に普通の暮らしを維持できるという価値を提供
限られた試験の機会に
高まる緊張感三菱電機(株)稲沢製作所
エレベーター開発部
制御システム開発課木暮 秀聡
ロボット連携と並ぶもうひとつのトピックが、ビルのBCP対策に貢献するマルチ電源。2019年10月から開発に参画した木暮が、その概要を説明する。
「不測の事態で通常のAC電源が使えなくなってしまった際、太陽光、電気自動車、蓄電池などビル側が持つ非常時用電源からエレベーターに電力を供給するシステムです。通常は小型バッテリーが制御盤内にあり、停電が起きた場合などは最寄階までそのバッテリーで走行し、乗客を降ろしたあとは電源が復旧するまでサービスを停止していました。今後はビル内の非常時用電源により、必要最低限のサービスを継続することができます」。
木暮が頭を悩ませたのは、電気自動車や太陽光発電システムのバッテリーから得られる電源の安定性。
「例えば、電気自動車の車種によってバッテリーの容量が違うため、どこまで使用できるか予想できない部分があります。AC電源から切り替わったものの、バッテリーが空になって急停止するようなことがあっては大変ですからね。そこで、バッテリーの残量がある一定のレベルになったら近くの階で乗客を降ろすというようなエレベーターの動きを設計し、バッテリーの状態や種類に依存しないシステムづくりを行いました。また、電気自動車や太陽光発電システムのバッテリーはAC電源に比べて出力が劣りますので、バッテリーから電力を供給しているときは速度を落とし、少しでも安定してサービスを継続できる設計にしています。日本の電力網は非常に優秀で停電は滅多に発生しませんが、台風や大地震による不測の事態では復旧に時間がかかるということも考えられます。このマルチ電源によって"常に普通の暮らしを維持できる"という価値を提供できるのではないでしょうか」。
さらに「マルチ電源に関しては試験も一苦労でした」と木暮。
「電源側のシステムを構築しないと試験ができないので、電気自動車や太陽光発電システムなどを稲沢製作所まで持ち込んで変換器とエレベーターをつなぎ、電気の波形を調べたり、悪影響がないことを検証しています。従来の開発とは異なり何度も試験環境を構築できるわけではないので、その検証の場における緊張感やプレッシャーは非常に大きなものでした」と、当時の苦労を振り返った。
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意匠面を含めたエレベーターとしての総合力が向上
『街とつながる』『建物とつながる』『人とつながる』というわかりやすいキーワードで、エレベーターの新たな価値を具現化したアクシーズ・リンクス。その進化はロボット連携、マルチ電源をはじめとする機能面だけではなかった。使う人の利便性、乗る人の感性に訴える意匠など"エレベーターとしての総合力"が、従来のアクシーズに比べ大幅に向上しているのである。「とことんこだわりました」いうそれらのポイントを二條が熱弁する。
「お客様や関係者から機能面に負けないくらい高い評価をいただいたものが意匠面です。たとえば、車椅子利用者向けの操作盤はこれまでの縦長のデザインを改め、ご要望の多い横長のデザインを標準に。また、手すりのデザインや太さもミリ単位の綿密な検証を重ね、よりスタイリッシュで握りやすい仕様にしています。天井のLED照明にもこだわりました。デザインはもちろん、照明の見え方、反射の仕方、面材への映り具合など、あらゆる視点からの配慮が行き届いています」。
そこまで意匠にこだわった理由を「お客様の心ともつながりたかった」という二條。その言葉に須永が頷く。
「アクシーズ・リンクスは、カタログの見せ方もガラッと変えました。これまでアクシーズシリーズのカタログの表紙に写真を用いたことはなかったのですが、今回は鮮やかな都市の夜景を採用しています。製品説明会で上映するコンセプトムービーもそう。これまでは機能の紹介がメインでしたが、今回はストーリー仕立ての見応えのある動画にしています」。
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そして"私たちの思い描く未来のエレベーター"を
人とロボットの扱いを
同じにするのか三菱電機(株)稲沢製作所
エレベーター開発部
管理システム開発課小出 和諒
より安全に、より便利に、より快適に。そして、より美しいエレベーターとして誕生したアクシーズ・リンクス。今後への展望を4人に語ってもらった。
- 小出:
- 現状はまだ、エレベーターと実際に連携しているロボットは限られています。今後はいろいろなロボットメーカーとの提携を通じて、ロボットとエレベーターの双方が進化していくことを願っています。そして、より多彩なデバイスとの連携を実現し"つながる"世界を広げていけたらうれしいですね。
- 木暮:
- 今回のプロジェクトで建築分野の電源について知見が広がったことは大きな収穫です。それをエレベーターの開発にもしっかりと活かしながら、アクシーズ・リンクスのさらなるバージョンアップと機能拡充につなげていきたいと考えています。
- 須永:
- 今後はロボット連携やエネルギーマネジメントに欠かせないスマートシティ・ビルIoTプラットフォーム「Ville-feuille™(ヴィルフィーユ)」にもっと寄り添っていくべきかと。その拡充につながるのが、アクシーズ・リンクスです。エレベーターは納入されてからがスタートですので、ここからも気を抜かずお客様により一層満足いただけるよう頑張っていきたいと思います。
- 二條:
- このプロジェクトに初期段階から参画できたことは光栄ですし、稲沢製作所、デザイン研究所、情報技術総合研究所などさまざまなセクションとひとつの目標を共有できたことは貴重な経験になりました。しかし、アクシーズ・リンクスの開発ストーリーは、まだ第一章です。こらからもお客様と開発部門の橋渡し役としてさらなるアップグレードに貢献し、1日も早く"私たちの思い描く未来のエレベーター"を実現したいですね。
AXIEZ-LINKsを動画で見る
当ページでご紹介した「ミッション遂行の軌跡」は
情報誌eleVol.22に掲載されています。
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