ターゲットは60℃温風。
~過酷な低外気温下への挑戦と見えてきた光。
高能力実現の前に立ち塞がったのは『外気温』の壁だった。
エアコンは外気の熱を集めて、暖房エネルギーとして利用し、室内の温度を上げる。だから、少ない電力消費で室内を暖められ省エネにもつながっている。しかし、外気温が低いほど条件は厳しくなる。-15℃もの低外気温になると冷媒回路内の圧力が下がり、冷媒の密度が低下、循環量が減る。熱を運ぶ冷媒が減れば、暖める能力も落ちてしまうのだ。低外気温でも冷媒循環量を上げるためのアイディアが必要になった。
開発は難航を極めた。そんな時、山下は社内で研究が進んでいたある技術に着目する。それはエアコンにおけるエンジンともいえるコンプレッサーのシリンダ(冷媒を圧縮するメカ部)とシェル(圧縮機全体を密閉する容器)の接合に『熱カシメ』を使うというもの。それまでのアーク溶接に比べ、加工時のシェル変形を小さくできるこの接合技術を採用することで、シェルの外径を変えずにシリンダ容積の拡大に成功した。上下はコンパクトながら冷媒の循環流量を増やせる、この高性能コンプレッサーの導入を決定した。新型コンプレッサーを能力拡大のキーとし、さらに、空気との熱交換効率をアップするために、従来より1列多い「3列熱交換器」も採用。細かい要素改善により、さらなる能力アップを目指していった。
この結果、暖房能力は飛躍的に向上。そして開発開始から数ヶ月、試験室のベンチテストで、ついに目標値をクリアした。現地に乗り込む時が近づいていた。
すごく暖かい。ずっと暖かい。
~高能力の次は連続運転へのトライ。
『暖める力』の次に必要となるのは『暖かさのキープ』だった。
従来のエアコンは、一定時間かつ室外熱交換器の温度が一定温度以下になると自動的に霜取り* に入る設定だった。しかし、これでは“暖房が効き始めたら停止して霜取り” の繰り返しで、暖かさが長持ちしない。北国ではこの暖房停止時間が致命的で、「まったく部屋が暖まらない」といわれる原因だった。そこで、新商品では“温度は低いが霜が無い” 時に起きていた『霜取りの空運転』の防止を考えた。トライしたのは室外熱交換器の温度を絶対値ではなく時系列で見ること。
霜取りについて
エアコンは、室外機に付着した霜を溶かすために、暖房運転を停止し霜取りをする必要があります。霧ヶ峰ではあらかじめ室温を上げることで、霜取り中の室温低下を抑制する室温キープシステムを採用しています。
*(グラフはZDシリーズにおける制御イメージ。FDシリーズには「急速Wヒート」はありません)
着霜により熱交換器に急激な温度低下が起きる状態を捉え、その温度下降カーブを拾う制御を取り入れたのだ。新たな制御方式により、霜取りの空運転はなくなり、長時間連続暖房が可能になった。
『すごく暖かい』『ずっと暖かい』を手に入れた寒冷地エアコン・プロトタイプ(試作品)。いよいよ、フィールドテストに乗り込む準備が整った。