2010年3月 vol.1
エネルギー分野の革新的素材、「ナノスケルトン」宇宙実験進行中。
2月11日、日本、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダの宇宙機関長が東京・六本木に集まり、国際宇宙ステーション(ISS)の運用を5年間延長して2020年まで利用する方針で一致、各国政府に正式に働きかけていくことになった。では一体、ISSではどんな実験が行われているのだろうか。最近、日本は基礎的な研究に加えて「地上のくらしに役立つ」研究や実験を打ち出している。たとえば現在、日本実験棟「きぼう」で行われている「ナノスケルトン」という材料は、新型の太陽電池や光触媒に使われるなど、環境やエネルギー問題に大きな貢献をする「革新的ナノ材料」なのだ。
ナノスケルトン材料、チタニア(酸化チタン)系光触媒。矢印がさす穴はナノレベル。微細な穴を宇宙で5~15ナノメートルにすることが目標(提供:JAXA)
「ナノスケルトン」ってなんだろう。ナノ(10億分の一メートル)サイズの多数の穴を持ちつつ骨格のある新材料の名称だ。ナノサイズの微細な「穴」がたくさんあいていることで表面積が大きい。さらにしっかりした結晶性の「骨格」を持つことで、穴の中に入れる物質と相互作用して飛躍的に性能が向上するという。「穴」+「骨格」が鍵なのだ。ナノスケルトンは、たとえば光触媒として空気中の有害物質除去材料、重油をガソリンに変える触媒、そして色素増感太陽電池への活用などが期待されている。
たとえば色素増感太陽電池は材料費が安く、製造プロセスも容易で大量生産が可能なことから、エネルギー問題に貢献すると注目を集めている。ただしエネルギーの変換効率が現状10%とシリコンの約半分であることから、大幅な改善が必要だ。ナノスケルトンではナノサイズの穴が大きくなるほど光エネルギー変換に使う色素を細孔内に大量に入れることができて、変換効率の約1割アップが期待される。色素変換太陽電池は色もカラフルにできるし、基盤の材料をプラスチックに変えればフレキシブルになるので、ファッショナブルにエコ生活ができそう。実現すれば環境問題の救世主となるかもしれない。
「きぼう」内の野口飛行士。3月2日にナノスケルトン実験を開始。仕事もTwitterも次々こなしてます。(提供:NASA)
さて、このナノスケルトン実験、既にこの3月2日の野口飛行士が実験を開始している。ナノスケルトンが最初にターゲットにするのはチタニア光触媒。(1)水+界面活性剤+油と(2)酸化硫酸チタン水溶液を混合させてナノスケルトンを形成させる。実験期間は3日または10日。重力、対流のない宇宙空間で大きく均一な穴をもつ結晶性ナノスケルトンの形成が期待できる。地上では穴の直径が2~3ナノメートルのところを5~15ナノメートルの大口径にすることが目標である。
宇宙実験で作られたナノスケルトン試料は、4月にISSにドッキングする山崎直子飛行士らが持ち帰る予定。実はこの実験、地上に持ち帰った後が非常に重要である。宇宙で作られた結晶になるべく近いものを地上で製造することを目的に「計算化学シミュレーション」を行い、地上実験と組み合わせて地上での生成条件を導き出そうというものだ。だが無重力の宇宙で作った材料を、重力のある地上で同じように作ることができるのだろうか。プロジェクトメンバーの東京理科大学の酒井秀樹准教授は「水と油の選定条件を設定したり、地上で模擬無重力状態を作り出すクリノスタットを組み合わせたりすることで実現できると考えている」とのこと。
3月12日、野口飛行士はナノスケルトン実験のサンプルを回収した。果たしてどんな材料ができたのか。シャトル帰還後の解析は5月頃には明らかになるかもしれないとのこと。結果が楽しみである。
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※ 当記事に掲載されている研究素材は三菱電機(株)と直接関連するものではありません。