2010年4月 vol.1
「祝福された」打ち上げ。NASA現地リポート特別編
バナナクリークから見た打ち上げ(提供:NASA)
2010年4月5日午前6時21分(現地時間)、夜明け前の空を一瞬のうちに黄金色にそめて、スペースシャトル・ディスカバリー号は、天頂を目指し、まっすぐに上昇して行った。その打ち上げは、一言で言うなら「祝福された打ち上げ」。満天の星空、発射直前にきら星の如く通り抜けていった宇宙ステーション、そして打ち上げ後に出現したハート形の噴煙。「これ以上は望めない演出」と涙ぐんでしまうほど。
1回1回打ちあげの風景は異なり、だからこそ病みつきになる。
実は、打ちあげ直前の午前4時頃まで、どこでその瞬間を迎えようか、私は迷っていた。打ち上げを取材できる場所は何カ所かある。(1)プレス席。発射台から南の方角。(2)VIP席があるバナナクリーク(BANANA CREEK)は発射台の西側。(1)も(2)も距離は5キロほど。(3)アストロナット通り(ASTRONAUT RD)は(2)に近いが小高い丘の上にあり、水面に写るシャトルや噴煙の眺めが美しいと聞く。そして(4)コーズウェイ(NASA CAUSEWAY)。距離は10キロ以上と遠いが、発射台上のディスカバリーを見られる唯一の場所(他の場所からは整備棟に隠れて見えない)であり、一般客も入れる場所だから盛り上がることは間違いない。
結局、色々な人の意見を聞いて、プレス席で見ることに決めた。去年見た(2)とは異なる角度で、できるだけ間近で長く打ちあげを楽しみたいと思ったからだ。(3)も心惹かれたが、NASAのエスコート(引率)が必要で、発射後はすぐにプレスサイトに戻らないといけないため、打ち上げ後の余韻にひたれないと聞いて止めた。そしてその選択は正解だった。
今回の打ちあげが奇跡的だったのは、発射直前に国際宇宙ステーション(ISS)がケネディ宇宙センター上空を通ったこと。6時過ぎ、ISSは南の空から表れ、一等星ほどの明るさで煌めきながら、ゆっくりと半月を突っ切り、その後発射台上空を通り抜けていった。先に宇宙に滞在している野口飛行士が「ここで待ってるからね~」と呼びかけるかのように。
打ち上げ後に表れた「ハート形の雲」遠くに見えるのが発射台。プレスサイトから
そして打ち上げ。私はプレス席で最も水辺に近い場所にいた。カウントダウンの時計も見えず音も聞こえない、カメラのシャッター音だけが聞こえる静寂の場所。突然、白い噴煙がもくもくと広がり、ディスカバリー号からぴかっとオレンジ色の閃光が。夜空も水面も一瞬のうちに黄金色の神々しい光に包まれた。真っ直ぐ天を目指すシャトル。カメラマンからも「ウォー」「すごい」という呟きがもれる。
その後がさらにドラマチックだった。シャトルが地上に残した噴煙が徐々にハート形になり、さらに時間が経つと朝焼けの光に照らされてピンク色になった。まるで、「おめでとう!」と打ち上げを祝福しているかのようだ。横で見ていた実験担当の女性と「できすぎの演出だよね~。」とお互いに涙声で見とれていた。
そして日の出・・・何事もなかったかのように朝がやってきた。鳥がさえずり、入り江に魚が跳ねる。ここケネディ宇宙センターがある地域は野生動物保護区になっている。帰り道の駐車場には、打ちあげの光や音に驚いたのか、どこからか亀が表れてアスファルトの上をのっそり歩いていた。
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NASAからレポート 山崎直子飛行士宇宙へ!
http://www.mitsubishielectric.co.jp/dspace/nasa_report/