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読む宇宙旅行

2010年5月 vol.1

「日々を積み重ねて」。ツイッター王・野口さんが語る宇宙生活

記者会見中の野口飛行士。6月2日に着陸後、すぐに家族の待つ米国テキサス州ヒューストンに戻りリハビリに入る予定だ。

記者会見中の野口飛行士。6月2日に着陸後、すぐに家族の待つ米国テキサス州ヒューストンに戻りリハビリに入る予定だ。

 「King of Twitter(ツイッター王)」。5月23日に宇宙と地上を結んだ記者会見で、海外メディアから、そう命名されてしまった野口聡一宇宙飛行士。今や、世界中の24万のフォロワーが野口さんが宇宙から撮影する「今の地球」に反応し、歓喜の声を寄せる。野口さんも「こんなに世界の人に共感されるとは想像していなかった。ウレシイ驚きです」と語っている。

野口さんなら、宇宙で何か「新しいうねり」を生み出してくれると思っていた。盛り上げ上手、楽しみ上手だから。でも記者会見で話してみて、それらの「お楽しみ」も着実に仕事を積み重ねる日々のベースがあってこそと実感した。会見で「5ヶ月を振り返って」の問いに「あっという間」と答えた野口さん。「一番きつかったのはいつ?」とあえて聞いてみると、宇宙に行って最初の1週間だったと答えてくれた。「無重力に体調が慣れるまでが大変だったが、確実に任務に集中して、一日一日を積み重ねていくことを心がけた」と。

野口さんが5月22日に撮影、ツイッターにアップした月・オーロラ・きぼう・アトテンティス(提供:NASA)

野口さんが5月22日に撮影、ツイッターにアップした月・オーロラ・きぼう・アトテンティス(提供:NASA)

 「150日間の長期滞在も1日1日の繰り返しです。残りの約10日間も変に気負わずに、確実に健康に過ごしていきたい」。野口さんの回答には「積み重ね」「確実に」「気負わず」というキーワードがよく出てくる。ここが簡単なようで凡人との差だなぁといつも感じる。大きな仕事も毎日の積み重ね。一つ一つの仕事を丁寧に確実に重ねることが大事なのだと。

 先月、宇宙実験運用リーダーの原田力さんを取材したときに、「あんまり注目されてないんだけどね」と教えてくれたことがあった。昨年11月、日本の宇宙実験装置「マランゴニ対流」実験装置に液漏れが起こって、実験が続けられなくなってしまった。マランゴニ対流実験は日本の目玉の実験の一つ。実験チームでは約2ヶ月かけて修理作業を検証。NASAの飛行士に修理手順を実際にやってもらい、そのビデオを宇宙に送り、野口飛行士に修理を依頼した。「訓練もしていない細かい作業。できるかな」と原田さんは不安があったようだが、野口飛行士は見事な手際で修理に成功。1月末から実験は再開され、軌道に乗っている。

同じく5月22日「Men at Work」という写真タイトルがいいですねぇ。もちろん写真も。(提供:NASA)

同じく5月22日「Men at Work」という写真タイトルがいいですねぇ。もちろん写真も。(提供:NASA)

 宇宙での実験の成果が問われるが、最高性能の実験成果を出そうと思えば精密な装置を使い、微調整しながら実験を続けていかなければならない。その意味でも「宇宙に人がいなければできないこと」と原田さんは言っている。野口飛行士は体も大きく、やることも派手だが、手作業はとっても細かく繊細なエンジニアなのである(実は字も小さくて綺麗!)。

 記者会見で、宇宙からの眺めで印象的だったことを問われると「地球はこれまで知らなかった美しさを見せてくれる。またスペースシャトルがISSにドッキングしたり、大気圏に再突入したりする眺めは迫力がある。(大気圏再突入の)火の中に人間がいると思うと感動をくれる」と野口さんは言った。引退間近のスペースシャトルは野口さんの滞在中に3度も訪問している。歴史的な飛行を宇宙で目撃するシャトル最後の証言者。そんな貴重な役割も担っているようだ。