2010年5月 vol.2
ソユーズ宇宙船 帰還の「傾向と対策」は
ソユーズ宇宙船はカプセルで中央アジアの草原に帰還する(提供:NASA)
約5ヶ月半、日本人で最長となる宇宙滞在を終えて6月2日に野口聡一宇宙飛行士が、地上に帰ってくる。今回の帰還は、いつものスペースシャトルの帰還と、かなり異なる風景になる。翼のないカプセル型の宇宙船が、パラシュートを開いて中央アジアの草原にゴロン、と落ちてくるイメージだ。
ソユーズ宇宙船は国際宇宙ステーション(ISS)から分離後、不要なモジュールを切り離し、大気圏に突入。高度約10kmから次々にパラシュートを開いて、地上に着陸。ISSから離れてから約3時間半で帰ってきてしまうという「国内旅行」並の近さだが、体への負担はスペースシャトル着陸時より大きい。重力加速度は通常で4~5G(自分の体重の4倍~5倍がのしかかる)。姿勢を制御できない場合は「弾道突入モード」になり、8~13Gかかることもあるという。
ソユーズ宇宙船の特注シートに座る野口飛行士(提供:NASA/Victor Zelentsov )
安全性は高いソユーズ宇宙船だが、2007年10月と2008年4月、2回続けて弾道モードでの帰還となり、2008年4月に帰還した韓国人宇宙飛行士のイ・ソヨンさんは腰等を痛めて入院している。原因はモジュールの切り離しボルトが外れなかったことなどとされているが、その後改善。ここ数年は通常モードでの帰還が続いている。
着陸時の衝撃を和らげるため、ソユーズ宇宙船には様々な工夫が施されている。たとえば「特注シート」。3人乗りのシート(座席)は、宇宙服を着て座ったときに腰から背中がすっぽり入るように、石膏を入れて宇宙飛行士一人一人の型をとって作る「特注品」なのだ。さらに着陸2秒前、高度80cmで衝撃緩和のためのガスジェットが自動噴射されると同時に、緩衝機能をもたせるため、シートが20cmほど上がるためのダンパーもついている。それでも着陸時のGは5Gほどかかるらしい。
遠心加速器に乗り込んで訓練を受ける (提供:JAXA/GCTC)
この重力加速度に耐えるため、宇宙飛行士たちは、モスクワ郊外の通称「スターシティ」(ガガーリン宇宙飛行士訓練センター)で、遠心加速器を使った訓練を行っている。私も2007年に雑誌の取材で見せてもらった。通称ガガーリナーと呼ばれる巨大な装置は長さ18mのアームの先端にカプセルがついていて宇宙飛行士が乗り込む。カプセルの方向を4方向に変えることで重力のかかる方向を変えながら、1分間に約39回転もするという。この装置で宇宙飛行士は8Gのテストに合格しないと、宇宙飛行ができない。
案内をしてくれた、セルゲイ・アウデエフ飛行士は宇宙滞在記録748日を誇る英雄だが「8Gのテスト中のビデオを後で見せてもらったら、遠心力で顔がゆがみ50歳くらい老けて見えた。でも実際の宇宙飛行はもっとシビア。誰も宇宙船を止められない・・・」と教えてくれた。重力のかかる方向が重要で、胸から背中のほうは比較的大きなGでも耐えられるが、頭から足の方向にかかるのはキツイらしい。
スターシティにある遠心加速器。30Gまで出せるという。(提供:Space Adventures)
着陸予定時刻は6月2日午後0時24分。着陸後約40分以降、カプセルから野口飛行士が出てくる予定。その後、カラガンダ空港で歓迎セレモニーの後、ヒューストンへ。無事の帰還を祈りましょう。