• DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

読む宇宙旅行

2011年4月 vol.03

宇宙で自分を診察!?-古川ドクターの宇宙滞在、注目点は?

宇宙での健康診断、訓練公開の様子。古川さんが聴診器を当てると無線でPCにデータが送られ、地上でもリアルタイムで聞くことが可能。

宇宙での健康診断、訓練公開の様子。古川さんが聴診器を当てると無線でPCにデータが送られ、地上でもリアルタイムで聞くことが可能。

 宇宙飛行士候補者に選ばれてから12年。待ち続けた男、古川聡宇宙飛行士がついに6月8日、宇宙に飛び立つ。国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在では、外科医としての専門を生かした実験だけでなく、技術者として緊急時の宇宙船操縦も担当する。でもやはり古川さんには身体の変化を主観的に、また時には医師として客観的にレポートしてほしいな~(医師と患者役を一人二役で!)。実は2月24日、古川飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)で行う画期的な健康診断の訓練公開が筑波宇宙センターで行われた。

 これまで、宇宙飛行士が聴診器などで得た健康状態の医学データは宇宙から地上に送り、地上で管理していた。だが宇宙で医学データを管理していれば、宇宙飛行士が自分のカルテとして健康状態を把握し、体調管理するために役立てられる。宇宙飛行士はなかなか自分の身体の不調を訴えない。それだけに早めに自分で体調の変化に気づくことは大切だ。月や火星に行く際には地上との通信に時間がかかるため、現場での判断がさらに必要になるだろう。

 今回診断キットとして用意されたのは5種類の診断機器。電子聴診器、血中酸素飽和度の測定機器、ホルター心電図、簡易脳波系、また歯や目の状態を地上から視診するためのUSBカメラ。どれも小型、軽量で地上でも使われているものだという。

簡易脳波計をつけたところ。健康診断は長期滞在中、3回行われる予定。

簡易脳波計をつけたところ。健康診断は長期滞在中、3回行われる予定。

 訓練公開では、これらの機器を古川さんが実際に使い、自分自身の健康診断を行ってくれた。聴診器を自分の胸にあてると、無線(ブルートゥース)でPCにデータが送られ、地上でもリアルタイムで古川さんの心音が聞けるという画期的なシステム。血中の酸素飽和度を測るのは、心臓の機能が衰えて酸素飽和度が下がってくる可能性があることから心臓の状態、また肺の状態を知るため。これらのデータを統合して管理するソフトウェアも開発した。将来的には不整脈を判別してアラームを出すなど、医学の専門知識がない宇宙飛行士も使えるようにする予定だ。

 過去に個々の診察機器はISSで使われたことはあったが、これほど統合したシステムは世界初。「宇宙で解析して健康管理に応用できる」と古川さんも楽しみにしているようだ。またもう一つの特徴は、5つの機器は地上で販売されている機器を組み合わせたものなので、新型でより高性能のものが出たら交換してシステムを再構築できること。

 この健康診断以外にも、放射線被爆を調べたり、毛髪で健康状態を調べるなど様々な医学実験を行う。また古川さんが自分の身体の変化で個人的に興味を持っていることもあるという。たとえば、宇宙に行くと身長が伸びるため、背中や腰が痛くなる人がいる。視力の変化、満腹感の感じ方はどうなる? など。これらの感想をツィッターで発信してくれるそう。

 12年前に選ばれた時は、先輩の向井千秋飛行士が宇宙飛行を終えた直後。同じ医師として比べられ「大変優秀な姉を持って苦悩する弟」のように苦しんだ。でも自分は自分と開き直ってできることを積み上げてきた。悩んだときも常に笑顔でいる強さは並大抵のものじゃない。打ち上げは6月8日午前5時15分(日本時間)、現地時間では同日午前2時15分。170日間ISSに滞在し、11月中旬に帰還予定になっている。