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読む宇宙旅行

2011年7月 vol.02

ベテラン宇宙飛行士たち、NASAから民間企業へ

ディスカバリー号最後の飛行で船長を務め、着陸後にスピーチを行うスティーブン・リンゼイ飛行士。今後は民間宇宙船の開発にあたる。1997年に土井隆雄飛行士と、1998年に向井千秋飛行士と一緒に飛行し、日本とも馴染みが深い。(提供:NASA)

ディスカバリー号最後の飛行で船長を務め、着陸後にスピーチを行うスティーブン・リンゼイ飛行士。今後は民間宇宙船の開発にあたる。1997年に土井隆雄飛行士と、1998年に向井千秋飛行士と一緒に飛行し、日本とも馴染みが深い。(提供:NASA)

スペースシャトル最後の飛行が世界の注目を集めている7月15日、一人のベテラン宇宙飛行士がNASAを去った。スティーブン・リンゼイ宇宙飛行士。50歳。5度の宇宙飛行経験を持ち、2006年~2009年にはNASA宇宙飛行士室長を務めた。そして2011年2~3月、スペースシャトル・ディスカバリー号の最後の飛行(STS-133)で船長の任務を果たし、有終の美を飾ったことも記憶に新しい。彼が次の活躍の場に選んだのは、シェラネバダ社。商業有人宇宙船「ドリームチェイサー」のフライトオペレーション部門責任者として指揮をとる。

 NASAは転換期を迎えている。スペースシャトルの引退に伴い、国際宇宙ステーション(ISS)への物資や宇宙飛行士の輸送は民間宇宙船に移行する考えで、民間企業の開発を支援する商業有人宇宙輸送開発(CCDev)計画を進めている。今年4月には第2回選定で4社が選ばれ、シェラネバダ社(Sierra Nevada Corporation)はその1社。8000万ドルの予算が割り当てられた。同社の副社長も元ベテラン宇宙飛行士で5回のスペースシャトル飛行、ISS長期滞在の経験を持つジェームズ・ボス氏。さらにNASAの熟練した技術者の多くも引き抜かれ開発に当たっている。ドリームチェイサーは、NASAが開発していたX-38がベースになっているとも言われる。

 NASA宇宙飛行士も人生の岐路を迎えている。宇宙行士達の唯一の機会は約半年間のISS長期滞在になる。滞在中だけでなく打ち上げの約1年半前から訓練のために自宅を離れ、ロシアや日本、ヨーロッパと世界を回る負担は小さくない。若田飛行士に4月にインタビューした際も「必要とされる現役飛行士の数や自分に何ができるかを考えた結果、宇宙飛行士から転身する人もいる。それは自然な流れだと思います」と話してくれた。宇宙飛行経験を活かして、なにで社会に貢献できるのか。能力を磨くためにどんな挑戦の場を選ぶのか。「挑戦と貢献がキーワードです」(若田飛行士)。シャトル黄金期には120人以上いたが現役宇宙飛行士は現在約60人。一方現在訓練中の宇宙飛行士候補生(3人の日本人も!)もいて、夏にはまた約70人に増える見込みだ。

写真中央、日本語のTシャツを着てお茶目振りを発揮する元NASA宇宙飛行士、ギャレット・リーズマン氏も今はスペースX社で民間宇宙船開発にあたる。(提供:NASA)

写真中央、日本語のTシャツを着てお茶目振りを発揮する元NASA宇宙飛行士、ギャレット・リーズマン氏も今はスペースX社で民間宇宙船開発にあたる。(提供:NASA)

 シェラネバダ社と共にCCDev2に選定され注目される会社にスペースX社がある。年内に無人貨物船「ドラゴン」をISSにドッキングさせる目標で有人宇宙船の実現も目指している。ここでもNASAを引退した元宇宙飛行士が活躍中だ。ケネス・バウアーソックス氏とギャレット・リーズマン氏。共にスペースシャトルやISS長期滞在の経験を持ち、安全で信頼性の高い有人宇宙船の開発・運用に取り組む。国家プロジェクトで進められてきた宇宙船開発が複数の民間企業に広がり、低コスト宇宙船が実現できれば、より多くの人を宇宙に運ぶことができる。そこにNASA飛行士たちの経験やノウハウが活かされるのはウレシイことだ。

 もちろん、NASA飛行士の転身の場は民間企業だけではなく、大学で教鞭をとる人、NASA管理職や研究職に就く人などそれぞれだ。5月のエンデバー号ラスト飛行の船長を務めたマーク・ケリー飛行士は銃撃された妻のギフォース下院議員や娘達の近くにいたいと10月1日付けで引退すると発表している。一つの時代が去り、宇宙飛行士達も新たな道を歩き始めようとしている。