2012年1月 vol.01
「宇宙酔い」と「地球酔い」
―カッコ悪さも赤裸々に。ストレスも笑いに。
2012年1月11日、東京都内で行われた記者会見での古川聡宇宙飛行士。背筋もしゃんと伸びて、もうすっかり「地球人」。1時間立ち通しでした。
2012年、年明けと共に「宇宙人」からすっかり「地球人」に戻った古川さんが日本に帰国。しっかりとした足取りで登場。1時間、立ちっぱなしで記者会見に参加した。伝わってきたのはドクター古川さんが感じた「予想以上のカラダの変化」への驚きと「伝えたい」という強い意志だ。
たとえば地上から宇宙に行ったときに起こる「宇宙酔い」。初めて宇宙に行く飛行士の三人に一人が苦しむと言われる。古川さんはツイッターで「ウゲー、気持ち悪くて吐き気がする」など発信しているが、実は「積極的に語る宇宙飛行士はあまりいない」(古川さん)。なんせ「宇宙飛行士=英雄」だ。体調不良なんてカッコ悪いしマイナスイメージ。下手すると次の飛行の任命にも悪影響を与えるかもしれないのだから。
だが古川さんが体験した宇宙酔いは「予想以上」だった。毎日、船酔いしているようで『死にそう』だったという(こんな激しい表現、確かに聞いたことない)。しかし医師として客観的に見ればこれは特別のことではない。誰にでも起こることだと「是非知って欲しくて」発信したという。
宇宙酔いは1週間ほどすると「けろっと直った」。無重量状態に慣れるとそれぞれ特有の身体の使い方を身につける。たとえば「マグロのように泳いで移動する」(若田飛行士)とか「角を小さく曲がるコツがある」(野口飛行士)など。古川さんの場合は「空間認識の変化」だった。
「地上では床はあくまで床で、天井は天井。ひっくり返ることはありえない。でも宇宙では、身体をひっくり返せばそれまで天井だったところが途端に床に感じられる。不思議な感覚です」。想像しがたいけれど、古川さんは「ちょうど白黒の絵で、どちらの色に着目するかで壺に見えたり人の横顔に見えたりする絵(ルビンの壺)のよう」と説明する。つまり上下左右という概念は相対的なものなのだと。三次元をかなり自由に使えそうだ。
宇宙医学にチャレンジ!実験で。目をつぶると指と指が合わない・・。同実験では足の裏の皮(角質)が剥がれる様子も披露し、「身体を張る」古川さん。(提供:JAXA)
167日間の宇宙滞在で脳もすっかり「宇宙人仕様」になって地上に帰った。そこで待ち受けたのが「地球酔い」だ。椅子に座って抱えられただけで、頭の中がぐるぐる回る。つい宇宙と同じように身体を傾ると、身体の平行が保てずつつ・・っと傾けた方向に身体が止まらない。一体自分はどうやって歩いていたのか。「まるで歩く前の赤ん坊」に戻ったようだった。だが、こんな状態も1~2日で急激によくなっていった。
「地球人に戻ったと思った瞬間は?」の問いには「お風呂に入って水が下に落ちるのを見たとき。たまったお湯につかるという当たり前のことが新鮮でした。地球人というより、日本人的ですかね?」。
宇宙から撮影したオーロラ。オーロラの中を突っ切る体験も。
(提供:NASA)
167日間の宇宙滞在中、常に安定して見えた古川さんもストレスを感じることはあった。例えば8月末のプログレス貨物船打ち上げ失敗時。ISSの無人化も検討されたが、無人になれば失われる機能もあるし、「最後に電気を消して出るのは嫌ですよね」(古川さん)。そこで無人化を避けるために、1月末まで宇宙滞在を延長してもいいと古川さんら宇宙飛行士側から提案したこともあった。
そんな状況で、宇宙飛行士たちはどうやってストレスを解消したのか?なんと、「ジョークにしてしまえ」とビデオを作成したという。NASAのロナルド・ギャレン飛行士が、ソユーズ宇宙船の中に入り込んで「しばらく地球に帰れなくなったよ~」とギターをひいて嘆くビデオ(下記 You Tube)。ストレスを笑いに転じるあたりが、さすが!ですね。
-
http://www.youtube.com/watch?v=Uk9ptueTDwY
古川さんが滞在中、ISSで撮影された動画。古川さんも登場、撮影も担当している。