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読む宇宙旅行

2014年2月14日

宇宙で急激に進む「老化」が骨粗しょう症治療の
救世主に!?

2014年1月21日、「宇宙と運動」をテーマに若田飛行士と交信イベントが行われ、健康増進団体の方々が参加。「宇宙で体力や筋力の低下を感じることがあるか?」という質問に対して「筋力は日々使わないとすぐに低下します。宇宙に来て1~2週間は運動の量も限られ、スクワットをする力が落ちたことを感じた。でも毎日運動することで徐々に体力を取り戻し、今は地上にいる時以上と感じます」と元気に答える若田さん。

2014年1月21日、「宇宙と運動」をテーマに若田飛行士と交信イベントが行われ、健康増進団体の方々が参加。「宇宙で体力や筋力の低下を感じることがあるか?」という質問に対して「筋力は日々使わないとすぐに低下します。宇宙に来て1~2週間は運動の量も限られ、スクワットをする力が落ちたことを感じた。でも毎日運動することで徐々に体力を取り戻し、今は地上にいる時以上と感じます」と元気に答える若田さん。

 大活躍を続ける若田光一宇宙飛行士。2013年クリスマスに行われた船外活動では、数十ミリの狂いも許されないロボットアーム操作をしながら、船外活動中の宇宙飛行士に次々指示を出し、難しい作業を引っ張った。

 バリバリ仕事をする宇宙飛行士の身体の内部で「急速に、激しく『老化』が進んでいる」という事実をご存じだろうか?無重力空間で生活するうちに、地上の骨粗しょう症患者の約10倍の速さで骨量が減り、筋萎縮は寝たままの方の約2倍のスピードで進むという。

 宇宙飛行士は徹底的な医学検査で選ばれ、その後も毎年健康診断をパスする「健康体の見本」。それなのに数ヶ月で加齢と同様の症状が進行し、帰還後は回復するという凄まじい変化が起こる。逆に考えれば、地上で何年もかかって緩やかに出る症状が短期間に観察可能ということ。お年寄りの骨粗しょう症や筋力低下などの予防や治療に役立てられると注目を集め、例えば「骨量の減少」について宇宙飛行士や、様々な動物を使った実験が行われ、新しい治療薬の実用化に向けて研究開発も始まっているという!過去からの蓄積と今後に向けて注目の実験を見ていこう。


○地上の治療薬+運動で骨量アップ!

 実は宇宙飛行士にとって、「骨問題」は切実な問題だった。特に帰還の時。宇宙で骨が減ってもそれほど自覚症状はないが、地上に帰還したとたん、宇宙で浮かんでいた小さな石が尿路に詰まり結石の痛みに襲われたのだ。その数12名、14回。骨から尿中に溶け出したカルシウムが原因だった。宇宙で尿路結石になったロシア人飛行士も1名報告されている。

 しかし、なぜ宇宙に行くと骨のカルシウムが溶け出し、骨量が減るのか。骨には骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」があり新陳代謝を行っている。地上ではそのバランスが保たれているが、宇宙に行くと骨の形成が進まず、骨の吸収は進んでしまうらしい。

 そこで地上で骨粗しょう症の治療薬として使われているビスフォスフォネート剤が尿路結石の予防や骨量減少に効果があるかを確かめる実験を、徳島大学の松本俊夫教授がJAXAと共同で実施。2011年までに若田飛行士ら9人が実験に参加した。飛行前から1週間に1回薬を飲み続け、運動も毎日実施したところ、骨吸収を抑え尿中カルシウムも減少。若田飛行士は2009年の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在後、飛行前より骨量が増えたほどだという!


○「ウロコ」実験から生まれるか?! 骨を作る新治療薬

 ビスフォスフォネートは「骨を壊す働き」を抑える薬だが、骨を作る骨芽細胞を活性化させる化合物が、2010年に「きぼう」で行われたキンギョのウロコを使った実験で有効に働いた。ウロコ?と意外な気もするが、キンギョのウロコは破骨細胞と骨芽細胞が共存する優れた骨のモデルなのだという。骨粗しょう症の治療薬として開発した新規インドール化合物を与えたところ、破骨細胞の活動量を下げ、骨芽細胞の活動量を上げることを見出した。さらに、この化合物は地上のラットを使った実験でも効果があったという。 この新治療薬の研究開発は科学技術振興機構(JST)の助成制度に採択され、研究者(金沢大学 鈴木信雄准教授)と企業が実用化をめざし共同研究が進められている。


○骨が壊れると緑に、作られると赤く光るメダカ

2014年2月6日に宇宙に到着したメダカは、骨を作る細胞が働くと赤く、骨を壊す細胞が働くと緑色に蛍光を発するように遺伝子を組み替えてある。1週間にわたり観察予定。(提供:東工大 工藤明教授)

2014年2月6日に宇宙に到着したメダカは、骨を作る細胞が働くと赤く、骨を壊す細胞が働くと緑色に蛍光を発するように遺伝子を組み替えてある。1週間にわたり観察予定。(提供:東工大 工藤明教授)

 そして若田飛行士の今回の宇宙滞在中、注目の実験がメダカの実験だ。これまでも日本はメダカを使った実験を行ってきてメダカ宇宙実験では世界一。今回が画期的なのは、骨が増えたり減ったり変化すると、その変化が生きたまま観察できる「光る」メダカを使うこと。破骨細胞と骨芽細胞に蛍光を発する処理を施した遺伝子組み換えメダカの稚魚が2月6日早朝(日本時間)宇宙に到着した。破骨細胞が働けば緑色が、骨芽細胞が働けば赤色に光るのだという。

 24匹のメダカを1週間にわたり、蛍光顕微鏡で撮影し続けることで「破骨細胞が働いている」など生きたメダカの体内で刻々と骨が変化する様子を調べる。若田飛行士が担うのはメダカの顕微鏡へのセッティングと取り外しで、撮影やデータ転送の操作は筑波宇宙センターから遠隔で行う。宇宙でなぜ破骨細胞が活性化するか、そのメカニズムは未だわからないことが多い。実験提案者である東京工業大学の工藤明教授は、宇宙では骨への荷重がなくなることで、骨を支える腱や筋肉にゆるみが生まれ、この「ゆるみ」が破骨細胞を活性化するのでは?と考えているようだ。メカニズムがわかれば地上の骨粗しょう症治療にも役立てられるだろう。


○ヒトに近いマウスで網羅的な実験を

 このようにさまざまな生物を使って、骨量減少のメカニズムや治療薬の研究も進む。さらにJAXAはマウスの実験を2016年を目標に実施する計画を進めている。

 JAXA「きぼう」利用推進室の池田俊民副室長はマウス実験のメリットについて「ヒトへの適用が進めやすい哺乳動物で『個体』としての影響を、個々の遺伝子が働くレベルで解析できる。さらに薬物の効果を確認するなどヒトの疾病治療研究などに使える」という。地上に数多くの研究者がいて膨大な実験データもあることも魅力だ。骨量減少だけでなく筋萎縮も含めた高齢者医療への貢献や、放射線影響の解明も期待できそうだ。ただ、マウスを宇宙に送り生きたまま地上に帰すのは難しく、イタリアなどの実験ではうまくいかないことも多いという。

 日本はこれから、超高齢化社会を迎える。宇宙実験が地上で健康に長生きするための予防や治療に役立てられるように宇宙と地上が連携して研究をどんどん進めて欲しい。まずは「光るメダカ」の実験に注目だ!