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読む宇宙旅行

2014年2月28日

宇宙旅行スタート→日本を「アジアの宇宙観光基地」に!

2013年4月29日に行われた、ロケットエンジンを噴射した第1回のテスト飛行。母機ホワイトナイト2から切り離された宇宙船スペースシップ2は16秒間エンジンを噴射し、音速を超えて高度17kmに到達した。(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

2013年4月29日に行われた、ロケットエンジンを噴射した第1回のテスト飛行。母機ホワイトナイト2から切り離された宇宙船スペースシップ2は16秒間エンジンを噴射し、音速を超えて高度17kmに到達した。(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

 「今年こそ民間宇宙旅行が始まる」と毎年言われ続けて久しい。今、宇宙旅行開始に王手をかけているのは英ヴァージングループの宇宙旅行会社ヴァージンギャラクティック(VG)社。高度約110kmの宇宙を往復する約2時間の宇宙旅行を25万ドルで販売し、既に世界のセレブたち約600人以上が予約している(そのうち日本人は18名)。

 しかしなかなか宇宙旅行が始まらないのは何故か。この問いを抱えて日本で民間宇宙旅行に一番近い男、浅川恵司さんを訪ねた。浅川さんはVG社の日本公式代理店クラブツーリズムで2005年から宇宙旅行を手がけ、今年初め同社が宇宙旅行専門の子会社(クラブツーリズム・スペースツアーズ)を設立すると社長に就任された日本の宇宙旅行の草分け的存在だ。(実はクイズに答えるだけで宇宙に行けると大評判になった「ペプシを飲んで宇宙に行こう!」(1998年)にも関わった)

 浅川さんによると、「現在、FAA(米連邦航空局)に宇宙旅行を始めるための免許を申請中であり、取得できれば2014年中に宇宙旅行を実現する予定」とのこと。打ち上げはニューメキシコ州にある専用の宇宙港スペースポートアメリカから。宇宙港では3600mの滑走路と専用ターミナルが完成し、2011年10月には落成式が華々しく開催されている。

ニューメキシコ州の宇宙港「スペースポートアメリカ」で行われたデモ飛行の様子(2010年10月)。宇宙港は州南部の中核都市ラス・クルーセスから北に約72km。砂漠の真ん中にあり1年のうち300日以上が晴天!(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

ニューメキシコ州の宇宙港「スペースポートアメリカ」で行われたデモ飛行の様子(2010年10月)。宇宙港は州南部の中核都市ラス・クルーセスから北に約72km。砂漠の真ん中にあり1年のうち300日以上が晴天!(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

 しかし肝心の機体の試験飛行はどうなっているのだろう?VG社の宇宙旅行では母機につりさげられた8人乗りの宇宙船が高度約15kmで切り離され、ロケットエンジンを90秒噴射して高度110kmに達する。このロケットエンジンを噴射するテスト飛行が宇宙旅行実現に必須であり、最難関と見られているが2014年1月末までに実施したのは3回。いずれも約20秒の噴射で高度約21kmにとどまっている。乗客への説明では今後高度約50km、100km越え、完成機による試験飛行などが予定されていて、全体の約半分の段階のようだ。

2011年10月に行われた宇宙港の落成式。(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

2011年10月に行われた宇宙港の落成式。(提供:ヴァージンギャラクティック社 協力:クラブツーリズム・スペースツアーズ)

 FAAからの「打ち上げ免許」取得については、2013年6~8月にVG社からFAAに対して申請を行ったもののまだ認可は下りていない。2月中には何らかの回答があるとみられている。浅川さんによると機体の開発や試験状況は極秘でVG社からは事後しか知らされないし、打ち上げ免許を得るためにどんなステップが必要かもFAAは明らかにしていないという。浅川さんは毎年渡米し、ニューメキシコ州の宇宙港や、カリフォルニア州モハベにあるVG社子会社の製造現場を訪れ、安全性が何より重視される宇宙旅行実現の難しさとVG社の必死さを肌で感じている。実現については時間の問題としながら「(ヴァージングループの会長)リチャード・ブランソンは乗客を乗せる前に自分と子供が乗ると言っています。今年中に彼らが乗るかどうか。本格的な開始は来年からではないか」と。むしろ、浅川さんは宇宙旅行開始の先を見つめている。

 「宇宙旅行が始まって話題になれば、世界から『宇宙船の誘致合戦が始まるでしょう』」というのだ。VG社は機体を5機作ると公言し、現在2機目を製造中。すでに中東アブダビやスウェーデンのキルナが熱烈なラブコールを送っている。浅川さんたちは、「ぜひ、日本から宇宙旅行機を飛ばしたい」と、準備を始めている。

 宇宙旅行を日本で実現するには法律、宇宙港、資金、技術など様々な面での検討が必要。このうち宇宙港については沖縄の下地島空港や北海道の大樹町など、VG社の機体を飛ばせる可能性がある候補地がある。しかし機体や空港が揃っても、安全審査や事故が起こったときの損害賠償など法律が整備されていなければ、宇宙旅行は実現できない。米国では商業宇宙法の整備が進んでおり、事故が起こる可能性について乗客に示し、乗客が納得の上で飛行することで、事故が起こっても政府を訴えない、つまり賠償請求権の相互放棄も明記されている。こうした法整備について日本でも宇宙法や航空法制の専門家などが検討を始めており、秋には提言をまとめる予定だという。

宇宙船スペースシップ2の16分の一の模型を抱える浅川恵司さん。2014年1月6日に設立されたクラブツーリズム・スペースツーリズムの代表取締役社長。

宇宙船スペースシップ2の16分の一の模型を抱える浅川恵司さん。2014年1月6日に設立されたクラブツーリズム・スペースツーリズムの代表取締役社長。

 浅川さんは日本で宇宙旅行を実現することで「観光立国」に寄与し、アジア諸国から集客しようという狙いがある。「高度約100キロまで上昇すると半径約1000キロまで見渡せるので、出発地により富士山や、上海、台北などが見渡せる。アジアや中国という巨大なマーケットから集客が期待できるのです」。現在、米国の法律ITAR(国際武器取引規制)により、VG社の宇宙旅行には中国人はお金を払っても搭乗できない。緊急脱出の行動などについて話すだけでも情報漏洩と見なされるためだ。そこで日本で宇宙旅行を実現できれば、中国をはじめアジアからの集客が見込める可能性があると。

 日本は「観光立国」を成長戦略のキーとして掲げる。宇宙旅行はその柱になるのだろうか?浅川さんのシミュレーションによれば「米国で宇宙港を建設したニューメキシコ州では約10年後に宇宙旅行客3万人、観光客200万人、合計9231億円の売り上げが見込まれます。たとえば下地島に宇宙港を作り事業を行った場合、宿泊先となる隣接の観光地、宮古島の観光客は現在の年間33万人が10万人増えると予想されます」と強気だ。

 今年は宇宙旅行実現のきっかけとなった、賞金レース・アンサリXプライズで民間宇宙機が高度100kmに到達してからちょうど10年目の節目の年だ。宇宙旅行が実際に開始するまでは安全性や技術的課題があるが、いったん始まれば加速する可能性もある。浅川さんは2025年の「日本発の宇宙旅行」を目標に掲げる。日本から宇宙に飛び出し、富士山を大気圏外から見るのも夢ではないかもしれない。