ISS15周年にNASAが宇宙飛行士募集。めざすは火星!その条件は?
2000年11月2日に人が暮らし始めた「宇宙の家」=国際宇宙ステーション(ISS)が15周年を迎えた。最初は2Kぐらいだったが、増築を続け今では約10LDK、ジャンボジェット機1.5倍ほどの容積に。この15年間に17か国220人を超える宇宙飛行士や宇宙旅行客がISSを訪れ、26500回の食事がなされ、83か国1760以上の実験が行われたという。地上でも家を建ててメンテナンスしていくのは大変なこと。ましてや空気がなく、放射線や宇宙ゴミが飛び交い、日向と日陰の温度差が約200度以上という、生身の人間は生きられない「死の空間」で、事故なく成果をあげ続けていることは賞賛に値する。おめでとうございます!
しかし、実は15年の間にISSが無人になる危機もあった。最初は2003年2月に起きたスペースシャトル・コロンビア号事故後。スペースシャトルの飛行が約2年半中断された。その影響で約3年間、ISSはたった二人で運用されていた。また、古川聡飛行士が滞在中の2011年にISSが無人になる準備をしていたことはあまり知られていない。2011年8月末、ロシアの補給船プログレスが打ち上げに失敗。宇宙飛行士を運ぶロケットが同じソユーズロケットを使用していることから、原因究明や対策が遅れた場合、無人になる可能性があった。古川飛行士らは万が一の事態に備えて無人化の準備を行いながら「最後に電気を消して去るのは嫌だ」と滞在延長を申し出たそうだ。結果的に失敗対策が速やかになされ、ISSの無人化は避けられた。
めざせ火星!NASA 宇宙飛行士募集
—宇宙飛行士の条件や待遇、気になるお給料は?
だがいずれISSという「近場の宇宙の家」から巣立ち、遠くの宇宙を目指す時代は来る。その時代に備え、NASAは新しい宇宙飛行士の募集を始めた。NASAは1959年から宇宙飛行士の募集を始め、「オリジナルセブン」と呼ばれた第一期生から最新の第21期生まで、300人以上の宇宙飛行士を採用してきた。しかし、現役の宇宙飛行士は47人しかいない。この数字は正直、衝撃的だった。スペースシャトル黄金期には百数十人の宇宙飛行士が、宇宙行きのチケット争いに火花を散らしていた。当時の半数以下である。スペースシャトルが2011年に引退し、アメリカから飛び立つ宇宙船がなくなるのを境に多くのベテラン宇宙飛行士がNASAを去ってしまったのだ。
NASAは「アメリカの大地から宇宙へ人間を送り出し、火星への旅の準備を始める」と宇宙飛行士募集のリリース冒頭に書いている。今回の宇宙飛行士募集の要は「アメリカから再び飛び立つ、アメリカ製の宇宙船」だ。民間企業スペースX社のドラゴン、ボーイング社のCST-100、そしてNASAが開発中のオライオン。これらの宇宙船に乗る宇宙飛行士、そして国際宇宙ステーションを練習台に月軌道や小惑星、将来的には「赤い惑星(火星)に足跡(原文ではブーツの跡)を刻む宇宙飛行士だ」とNASAボールディン長官は強調する。「いざ行かん!深宇宙へ。われらの船で。」という自信と誇りがNASAのリリースからは見て取れる。ロシアのソユーズ宇宙船に「宇宙の足」を頼らざるを得なかった状況は、NASAにとって屈辱だったのでしょうね・・。
さて、今回の宇宙飛行士募集は前回2011年から4年ぶりとなる。前回は約6100人から8人の宇宙飛行士候補者が選ばれた。約762倍の狭き門だ。募集に際してNASAはFAQなどの頁をウェブサイトに開設。ざっと読んでみるとなかなか面白い記述がある。たとえば、
Q:年齢制限は?
A:特にありませんが、だいたい26歳から46歳が応募していて平均年齢は34歳です。
Q:お給料は?
A:米連邦政府のGS-11からGS-14を基準に学術的な成果や経験に応じて支払われます。ちなみにGS-11は年収$66.026(約800万円※)、GS-14 で$144.566(約1750万円※)
などなど。お給料は具体的に書いてあって興味深い。他にはレーシックなどの目の手術は術後1年以上経っていればいいとか身長は62インチ~75インチ(約157.5cm~190.5cm)とか。チビの私はアウトだ~と軽くショック(それ以前にアメリカ市民権が必要なので論外なのだが)。もちろん理数系の学部以上を卒業し実務経験3年以上などの条件もある。選考に関しては質問が多いのか、FAQの最初にこんなQ&Aがあった。
Q:大学で学ぶべき学問分野は?
A:どの学部がお勧めだということはできません。あなたは自分がもっとも関心のある学問を選ぶべきです。それがどんな道に進むにせよ、納得できる仕事をする準備になるはずです。(現在の宇宙飛行士募集に応募できる分野はエンジニアリング、生物科学、物理学、数学など。)
NASA第22期宇宙飛行士募集は12月中旬から2016年2月中旬まで受け付け、2017年中旬に選抜を勝ち抜いた宇宙飛行士候補者が発表される予定。NASAの選抜試験はこれまで面接重視で、日本のような閉鎖環境での1週間の缶詰試験は行ってこなかった(日本の選抜試験は世界一過酷なのだ)が、日本と似たようなチームワークスキルを見極める選抜試験を前回の選抜から実施するようになったとJAXA関係者から聞く。
NASAは既にISSプロジェクトが終わった後を見据え準備を始めている。日本はISS計画にいつまで参加するか、その後の国際探査に参加するのか否か、まだ決めていない。日本の現役宇宙飛行士は7人。JAXA関係者によると2024年頃までは何とか今の人数で回せるが、ISS計画後の国際探査に参加するなら、厳しいとのこと。もっと宇宙飛行士が必要になるだろう。民間宇宙船に乗るにしても小惑星や火星を目指すにしても、命がけのプロジェクトが続く。だから「(新しい)宇宙飛行士には科学者より技術者が求められるでしょう。約半世紀前のアポロ宇宙飛行士に求められる能力に似ているかもしれない」(JAXA関係者)そうだ。確かに最近、NASAは宇宙飛行士の多くを軍出身者、さらにCIAからも選んでいる。すそ野は広く、ピークは高く。近場の宇宙は一般人たちが気軽に行き来する場所になる一方で、プロ宇宙飛行士は人類代表としてより遠くへ、極みを目指す。どちらの方向も必然だ。ぜひ挑戦を続け、私たちをわくわくさせてほしい。
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2015年11月6日時点