船内ロボを相棒に「さぁ、行くよ!」—金井宣茂宇宙飛行士インタビュー
いよいよ、金井宣茂宇宙飛行士が、12月17日に宇宙に飛び立つ予定。8月27日にはツイッターで婚約を発表。ますます宇宙飛行に気合が入る金井さんに8月末、DSPACEは単独でお話を伺うことができました!
「きぼう」船内を自在に移動、宇宙飛行士をサポートする「イントボール」とは
JAXA筑波宇宙センターの記者会見室に入ると、金井飛行士と一緒に出迎えてくれたのは今、SNSでガンダムの「ハロ」みたい!と人気沸騰の「イントボール」(Int-Ball:JEM自律移動型船内カメラ)。地上からの遠隔操作によって、自分で姿勢をコントロールしながらISS(国際宇宙ステーション)内を移動し、宇宙飛行士の様子を静止画と動画で撮影する撮影ロボットだ。撮影した映像は、リアルタイムで地上の管制官や研究者が見ることができる。
- —おぉ!思ったより小さい。そして可愛い!目が青く光っていますね。
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金井飛行士(以下、金井):
目のように見えるのはインジケーター、つまり「今撮影していますよ」ということを宇宙飛行士に知らせる役割ですね。撮影中は目が青く光ります。宇宙飛行士にもプライバシーがあるので、撮影していることを知らせる必要があるんです。メインのカメラは目の間にあります。
- —なるほど!ハロちゃんは今撮影中だと。
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金井:
ははは・・林さんの中ではハロちゃんになってる(笑)
- —ついつい(笑)。イントボール君は既に宇宙に行っていて活躍中ですが、金井さんの宇宙飛行では、日本人で初めて一緒に作業をすることになるわけですね?
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金井:
はい。カメラ撮影をサポートしてくれます。宇宙飛行士の手がいっぱいな時でも、この子を使えば飛行士の手を借りずに作業の様子を写し、地上の管制センターに送ってくれるのです。
- —今までは、「きぼう」船内に宇宙飛行士ご自身が固定カメラをセットしたり、手持ちカメラを使って自分で実験の様子を撮影していましたよね。
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金井:
カメラサポートはすごく重要なんです。宇宙飛行士が今何をやっているか、地上の管制官はなるべく宇宙飛行士の作業の邪魔をしないように、カメラ画像がないときは想像力を働かせながらサポートしてくれています。「さっきこの作業をすると言っていて、10分経ったから今は次のステップに移っているだろう」という具合に。管制官たちの眼となる撮影ロボットが宇宙にいることで、より正確に宇宙飛行士の作業状況がわかって、管制官がタイムリーにサポートできる。宇宙実験の精度が上がるし、宇宙飛行士の手間も省けます。
- —なるほど、今の定点カメラでは死角が多く画質も悪い。一方、宇宙飛行士が手持ちカメラで撮影するとカメラの準備や撮影自体に時間がかかってしまう。宇宙飛行士の作業時間の約10%を撮影作業が占めていると資料に書かれています。宇宙飛行士の近くに移動して来て、鮮明な画像や動画を撮ってリアルタイムで地上に送ってくれれば大助かりですね。ところで何やら音がしますが?
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金井:
イントボールには推進用の小さなファンが12個入っていて、プロペラで空気をかきながら自分で移動するんです。そのファンを動かすモーターの音ですね。右側にある「画像航法カメラ」で「きぼう」内にあるターゲットを認識しながら、自分が今どういう位置にあるかを計算して移動し、目標地点にぴたっと静止することもできます。
マウス実験など生き物の観察に活躍!?
- —賢いですね!金井さんが宇宙で行うどの実験に使うか決まっているんですか?
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金井:
まだ決まっていないです。撮りたいものがあったら出動します。
- —出動ですか!撮りたいものを決めるのは宇宙側ですか?地上側ですか?
後藤雅享さん(イントボール開発担当。以下、後藤):
地上が多いですね。もっと詳しく見たいとか、実験前後の様子や最終状態を記録したいとか。あとは見た目でしか判断できないような状態ですね。育ち具合とか生き物の色味、動きとかは数値やセンサーでは判断しにくい。
- —では、マウス実験でも使いますか?
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後藤:
使うかもしれないですね。視覚とか感覚で判断する実験もあるので。そういう実験には写真や動画の撮影が多く必要とされます。
- —出動しない時はどうしていますか?
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後藤:
充電ポートで充電しておきます。パソコンにUSBポートで充電できます。
- —で出番だ、となったら出動する?
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金井:
充電ポートから抜くのは人がやってあげないといけない。作業が始まる前に抜いて、一緒に「行くよ~」という感じになるのかも。
- —イントボール君はガンダムに出てくる「ハロ」に似てると話題ですよね!
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金井:
ははは。アンパンマンに出てくる「ばいきんまん」に似てるとか「ケロロ軍曹」に似ているとか色々な見方をされてますよね。僕はあさりよしとお先生の漫画「宇宙家族」に出てくる「おとうさん」に似てると思いました。
ロボットと人の協調する宇宙探査に向けて
- —金井さんがイントボールに期待することは何ですか?
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金井:
ロボットアームはISSでも使われています。また船内で使うロボットについては「ロボノート」という人型ロボットがあるんですが、なかなかうまくいってないところもあります。
- —そうなんですか?
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金井:
ロボノートは精密すぎて、指を曲げるのを宇宙飛行士がずっと見守っていないといけなかったり。効率的な作業という点では、むしろシンプルに機能を絞って、実際に作業をやらせてみてノウハウを蓄積するのがすごく重要だと思っています。イントボールは非常に心強いパートナーですね。
- —将来にもつながりそうですね。
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金井:
はい。将来の宇宙探査を考えると、人間だけが仕事をするのでなく、ロボットができることはロボット、人間しかできないことを人間が行う、かつ人間とロボットとの協調作業をやっていく必要がある。JAXAでようやくこういうハードウェアができたので、技術やノウハウを蓄積して、将来の探査で、例えば月を目指すとなったときに日本の強みであるロボット技術を使うことができるのではないか、と個人的に思っています。
タンパク質結晶生成実験は「宝の山」
- —宇宙で行う実験についても聞かせてください。金井さんは宇宙で乳酸菌をとって、腸内環境と免疫の関係を調べる実験に参加されるんですよね?
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金井:
はい。実験に参加することが決まりました!
- —楽しみですね。
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金井:
健腸生活を宇宙でも。さて、どうなるか。
- —健腸生活、ですか!
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金井:
ヤクルトさんは「健腸長寿」というキャッチフレーズを使ってますよね。私も「健康長寿のヒントは宇宙にある」をミッションテーマにしているので、まさに自分のための実験という気がします。
- —実験では便や唾液を宇宙飛行前や飛行中にとることになっていますね。宇宙でのトイレの苦労話を大西飛行士からお聞きしましたが、宇宙で便をしてさらに検便、つまり便を採取するのは大変ではないかと。
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金井:
トイレマスターの大西さんからは、私も色々聞いています。最悪の事態にならないように気をつけないと(笑)。まぁ地上の検便と同じだし大丈夫じゃないですか・・・と言っていると大惨事になったりして。帰ったらご報告します。
- —金井さんの一押しは「タンパク質の結晶生成実験」と。その理由は?
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金井:
創薬につながり、「きぼう」の成果が問われる中で一番結果が出やすいのではないかと思うからです。創薬ベンチャーである「ぺプチドリーム」とJAXAとの協力も発表されましたが、「きぼう」を宇宙ビジネスで使ってもらうモデルケースになるのではないか。
日本はISSの民間利用で遅れていると言われることがよくあって、超小型衛星の放出もアメリカがやっているように見えますが、実は日本の「きぼう」のインフラを使っている民間宇宙ビジネスなんです。日本が世界でも最先端のことをやっていることをもっとアピールしていいと思います。
- —「きぼう」発の薬が早くできるといいですね。
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金井:
「きぼう」の運用が始まって約10年。創薬はそれぐらいやって、ようやく物になるかならないかという世界です。でも宇宙で高品質なタンパク質結晶を作り、分子の形を精度よく決めることで、例えばイヌ用人工血液などでは製剤として認められるまでに安全審査や臨床治験でたくさんのステップを経ないといけないところを、時間が短縮されたりコストが安くなったりするのです。
なかなか今は「宇宙発の薬はこれです」と言いにくいのですが、研究者の先生やJAXA担当者に話を聞くと(タンパク質生成実験は)「宝の山」だと。今、日本が世界で一番、宝の山を掘り返しているところ。実験のノウハウを持っているからこそです。だからやらないと損。将来、大きな成果につながるはずです。
- —「宝の山」ですか!確かにJAXAの担当者に伺ったところ、今は、タンパク質単体の結晶化だけでなく、薬の候補になる化合物と一緒に宇宙で結晶化し、 どのようにタンパクと化合物が結合しているかを調べる実験が多いそうですね。結合の仕方がわかると、ここはちゃんとくっついてないから、この元素に置き換えてはどうかとか考えると。成果が待ち遠しいです。
ところで御婚約おめでとうございます!結婚式を宇宙でされるご予定は? -
金井:
ははは(笑)。そういうご意見もツイッターなどで出ていて面白い意見だなと思いました。
- —実際に宇宙と地上で挙式をした方がいらっしゃるんですよ!
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金井:
そうなんだ!(2003年に宇宙で結婚式を挙げた)ユーリ・マレンチェンコ飛行士は超有名なベテラン飛行士ですね。アイデアとして伺っておきます(笑)
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