火星大接近に流星群、
あなたの世界を広げるおススメの宇宙本
夏本番!この夏は7月31日に火星大接近、8月13日にはペルセウス座流星群など、空を見上げる楽しみが増えそうです。その楽しみをより広く、深く味わっていただくために、「とっておきの宇宙本」を4冊紹介しましょう。
空をご覧ください
—KAGAYAさんの写真は、どのように生み出されるのか
まずおススメするのはKAGAYAさんの「一瞬の宇宙」。「空をご覧ください」とその時々に見える星や月を紹介するツイートが大人気。フォロワー数61万人を誇るアーティスト・星景写真家KAGAYAさんのフォトエッセイだ。
まるで星空の上を歩いているかのようなウユニ塩湖の写真。南極の地平線すれすれで起こった皆既日食の黒い太陽とKAGAYAさん。スカイツリーの傍らから上ってくる巨大な船のような半月。KAGAYAさんが地球上を駆け巡りながら撮る「奇跡のショット」はどうやって生み出されるのだろう。
実は、以前ある雑誌のインタビューでKAGAYAさんに伺って驚いたことがある。例えば写真集「星月夜への招待」の赤いオーロラと煌めく天の川が印象的な表紙。元々絵描きであるKAGAYAさんには、明確な表紙のイメージがあった。星空の写真集だから天の川の写真が欲しい。北半球の天の川はやや地味なので天の川の中心が空高く昇る南半球がいい。表紙用にパッと目を引く赤色が欲しいけれど、オーロラなら最高だ。オーロラの赤が湖に映っている光景を撮れば透明感を出せるだろう、というように。
こうして撮りたい絵柄の構図を明確に描き、その絵柄が撮れる場所や季節を様々な情報を駆使して調べ上げていく。その結果、KAGAYAさんが狙いを定めたのがニュージーランドだった。12日間の旅行中、まさしく思い描いた通りの写真を撮ったのだ。
国内で撮る時も直前まで天気予報を調べ、晴れている場所に飛ぶ。流れ星が撮りたいと思ったら一晩中撮り続ける。すると数千枚のうちに1枚、流れ星が写ることがある。奇跡のような写真は決して奇跡でなく、KAGAYAさんの綿密な調査と臨機応変な行動力、執念と言えるほどの強い意志と集中力、そして粘り強さから生まれていた。
さらに本書「一瞬の宇宙」を読んで、私はKAGAYAさんの大胆な行動力や何ものにもとらわれない自由な発想がどこから生まれてくるのかを知った。高校生の時の山登りで死と紙一重の体験をしたことから、「天からもらった特別の人生」を好きに生きようと決めたのだと。
だが、KAGAYAさんは自分と同じように旅に出ることを、読者に無理に勧めたりはしない。日常のちょっとした時間に空を見上げませんか、とやさしく語りかける。「宇宙はすぐそばにあります」と。「忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきに頑張っている方にこそ、ひと時でいいから空を見上げて欲しいのです」。
KAGAYAさんの写真を見る楽しみは、地球上でこんな光景が現実にあるのだと、遥か彼方に想いを馳せられること。一枚の写真を介して、世界を広げることができるのだ。
宇宙探査を推し進めるイマジネーションの力
そしてこの夏欠かせない一冊が「宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八」。NASAジェット推進研究所で2020年に打ち上げ予定の火星探査機「マーズ2020」計画に携わるエンジニア、小野雅裕さんの著書だ。
小野さんはとにかく「熱い」男。宇宙探査に対して並々ならぬ情熱を抱くのはもちろん、周りの人も宇宙の熱狂にぐいぐいと引き寄せる。制作過程から読書会でフィードバックを繰り返し、いつの間にか著者も読者も同じ宇宙船に乗り込む仲間として心底楽しみながら本書を作り上げ、さらに多くの読者に届けようと共に広めているという意味でも稀有な本だ。
本書のテーマは「想像できることは、すべて実現できる」。19世紀にSF「地球から月へ」を書いた作家ジュール・ベルヌが言ったとされる言葉だ。人類がいつか銀河の果てに進出し、宇宙人とコンタクトするには、数億年もの時間がかかるだろう。時を超え国籍や人種を超え、万人に共有される「イマジネーションの力」こそが宇宙進出実現の鍵だと。
本書が面白いのは、こうして想像力の大切さを説きつつも、夢を叶えるための現実を忘れないこと。例えばアポロ月計画のサターンロケットを開発し、月に人を送り込んだフォン・ブラウンが、祖国でロケット兵器開発のためにドイツ軍に雇われた時のことを記した下記文章。
「フォン・ブラウンは究極のロマンティストであると同時に、徹底的なプラグマティストでもあった。夢を叶えるには金がいる。(中略)現実という汚泥の中に恐れず手を突っ込みつつも、夢は一切汚さず純粋なままで持ち続けること。それが、夢を叶えるための条件なのかもしれない」。夢のために彼は悪魔と契約したのだと記している。フォン・ブラウンだけでない。有名無名の技術者たちが、想像力を現実にするためにどれほどしたたかにしなやかに戦ってきたか、彼らの物語に引き込まれる。
宇宙開発の黎明期から地球外文明とのコンタクトまで、どこを読んでも面白い。だが火星が話題のこの夏、特に読んで欲しいのは、やはり火星について。NASAで日々、火星探査ミッションの仕事にまい進する小野さんが語る火星探査は説得力がある。「火星の赤い大地を自動運転するローバーの開発なんてめちゃくちゃかっこいい!」と思いがちだが、実際どんな仕事なの?NASAが実現を目指す世界初の火星サンプルリターンミッションの内容は?そもそも火星に生命は存在するの?だとしたらどこに?本書を読めば火星を見る目が、昨日までとは違ってくるだろう。
火星と地球の大接近について、小野さんは火星移住者の視点で地球を眺めているのも興味深い。「火星に青い夕日が沈んだ後、西の低い空に明るい星がふたつ見えたら、より明るい金色の星が金星、少し暗い青い星が地球だ。(中略)二年二ヶ月に一度の接近時に大きめの望遠鏡で見れば、雲や海や大陸を見分けることができるかもしれない。移民者は目を凝らし、ぼやけた望遠鏡の視野の中に自分の生まれ故郷の街を探すことだろう」いつか来るその日のためにも、本書でイマジネーションを広げよう。
お子さんと一緒に宇宙を学ぼう
夏休み、火星や流れ星を見て宇宙に興味を持ったお子さんと、共に宇宙を楽しむための2冊を最後に紹介したい。一つは小学館の図鑑NEO宇宙。実は私も少しお手伝いさせて頂いたのだが、東京大学の大内正巳先生や国立天文台、JAXAなど第一線で研究・開発している研究者・技術者が「自分たちも図鑑で育ったから」と並々ならぬ情熱を本書の制作に傾けている。ビジュアルを駆使しわかりやすく、かつめちゃくちゃ中身が濃い。基本から最先端科学まで「子供たち、ついてこれるの?」と思うような詳しい内容も記されているが、宇宙好きの子供たちを侮ってはいけません。お父さんお母さんも一緒に子供たちと勉強してくださいね。私の発見は「宇宙は何でできている?」の頁。宇宙の成分をとてもユニークな表現方法で説明しています。是非探してみて下さい。
付録のDVDでは、国立天文台チリ観測所の阪本成一所長が、標高5000mのアルマ望遠鏡前で酸素ボンベを背負い、過酷な場所で観測が行われていることを熱弁。また大西卓哉飛行士は子供の頃から宇宙飛行中のエピソード(宇宙食で怒った場面には笑える)を語る。宇宙飛行士への親しみやすさや宇宙での生活の楽しさ面白さが具体的に伝わってくるだろう。
最後におススメするのは、「宇宙 そのひろがりをしろう」。今年の5月に92歳で亡くなった絵本作家、かこさとしさんの名著だ。1978年に初版が発行されて40年。これほどまでに「宇宙に進出する」という人間の営みについて、正確な科学知識をわかりやすく、そして楽しく描かれている絵本はないだろう。
驚くのは、宇宙という壮大なテーマを扱った絵本の最初の頁がノミのジャンプから始まっていること。昨年、絵本「宇宙」についてかこ先生にインタビューする機会に恵まれ、この点を伺った。すると先生はこう説明して下さった。
「ただ宇宙は大きくて、星があって、というだけの物語では本当の理解ということにはならない。どうして宇宙船は落ちてこないのかなど、まず原理原則を子供さんにわかるようにしてもらおうと考えました」(「かこさとし 人と地球の不思議とともに」河出書房新社より)
宇宙のようにうんと遠くの場所へ行く乗り物は速い速度を出す必要があるが、それを子供たちに無理なく正しく理解してもらうために、まずは身近な昆虫から始める。徐々に道具や乗り物の話に進め、速くすることで遠くへ飛んで、ついに着地しないで地球をぐるっと回ってくる。つまり人工衛星を飛ばすために必要な「第一宇宙速度」の説明の第一歩がノミなのだ。
子供たちが順を追って理解できるように、しかも飽きないように。かこ先生は10年かけて資料を集め、構成を考えるのに8~9割の力をさくそうだ。子供たちが大きくなった時「あの話は間違っていた」ということにならないよう論文まで読んで20年は通用する内容にする。子供たちを「小さなアインシュタイン」と呼び、難しい言葉から逃げず、その探求心や興味を「頑張れ!」と伸ばすために徹底的な努力を惜しまない。かこ先生の真摯な態度が凝縮した一冊。
本をきっかけに、あなたの宇宙を豊かに広げてくださいね。
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