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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「昼を持ち上げる」ロケット—打ち上げをMAX楽しむには

2019年9月25日1時5分5秒、種子島宇宙センターから打ち上げられたH-IIBロケット8号機。(提供:三菱重工/JAXA)

日本最大のロケット発射場、種子島宇宙センターを有する種子島。打ち上げが日常である種子島の住民が「この打ち上げだけは見にいく」という、特別なロケットがある。日本で最も力持ちのロケット・H-IIBロケットの「夜打ち」、つまり夜間打ち上げだ。「あまりにも音が大きくて、昼間みたいに明るくて、ロケットが爆発したかと思った」「あれはすごいよ。絶対見るべき」地元の人がそこまで言うなら、行くしかない!

目指すは、H-IIBロケット8号機打ち上げ。ISSへの貨物船「こうのとり」8号機を搭載し、当初9月11日6時33分を打ち上げターゲットにしていた。9月11日は10年前の2009年、「こうのとり」初号機を打ち上げた日でもある。夜間ではないけれど、10周年のメモリアルな打ち上げは見逃せない。

打ち上げ日発表直後の争奪戦。ツアーは2分弱で売り切れ!

ロケット打ち上げを見たいなら、まずは情報収集から。三菱重工やJAXAのウェブサイトをまめにチェック。打ち上げは約2ヶ月~1ヶ月半前に発表される。H-IIB8号機の9月11日打ち上げ予定が発表されたのは7月29日。その直後から航空機やホテル、レンタカーの争奪戦が始まる。意外に困るのがレンタカーだ。種子島にはレンタカーの台数が少ない上に、関係者がほぼ押さえてしまう。島内はバスが走るが本数は少ないので是非レンタカーを押さえたいところ。お勧めは地元で経営しているレンタカー会社だ。どうしてもレンタカーが予約できず、フェリーで渡るツワモノもいると聞く。

自分で手配するのが大変、という方にお勧めなのが旅行会社のツアー。例えば日本旅行の「sola旅クラブ」はロケット打ち上げの度に打ち上げ応援ツアーを組んでいる。今回は久しぶりの打ち上げだったせいか、担当の中島修さん曰く「発売から2分経たずに売り切れました」と嬉しい悲鳴。会員登録すれば先行受付に応募できる。

種子島へGO!発射前の見どころは?

打ち上げ前日の9月10日、朝一番の飛行機で種子島へ。種子島に入るには飛行機ルート(種子島空港)と高速船ルート(西之表港)がある。台風シーズンなどは遅れたり欠航したりすることがあるので、時間に余裕をもって行動することをお勧めする(今回、私も台風の影響で羽田→鹿児島便が約40分遅れ。種子島への乗り継ぎが間に合うかドキドキだった)

打ち上げ見学の楽しみは、発射だけではない。最初の見どころが「機体移動」。ロケットが整備棟から姿を現し、発射台に向かって約30分水平移動するレアな様子を見られるのだ。実施は打ち上げの十数時間前 。今回は9月10日14時半から開始された。

DSPACE取材班はMHI(三菱重工)にプレス登録。(宇宙活動法施工後、打ち上げの責任はJAXAからMHIに)。機体移動はプレススタンドから見守った。整備組み立て棟(VAB2)から姿を現したH-IIBロケットは、スリムなH-IIAに比べてグラマラスなボディが特徴だ。「ロケットらしいロケット」と人気が高い。

H-IIBは全長56.6mの2段式ロケット。最上段に「こうのとり」8号機が搭載されている。ロケットの質量は531トン(ペイロードを除く)。4本の固体ロケットブースタが取り囲む。現在日本で一番大きなロケットだ。画像中央手前、青い横線が入っている構造物が現在開発中のH3ロケット用移動発射台。
約30分かけて射点に向けて約380メートルの距離をゆっくりと移動していく。
射点に到着。二つある射点のうち、H-IIBロケットは第2射点を使う。
種子島宇宙センター施設配置(H-IIBロケット8号機打上げ時の取材要領より)地図中央のロケットの丘展望所から機体移動が見られる。(提供:MHI)

私たちが機体移動を見たのは、大型ロケット発射場近くのプレススタンド。だが、ロケット移動の様子は他の場所からも見学可能だ。よく知られるのは「ロケットの丘展望所」。種子島宇宙センター内にあって一般客もアクセス可能。「丘」と名のつく通り、少し小高い場所からロケットと射点、整備棟を含めた全体像を眺められる。そこにやってきたのが・・・。

この方たち。見覚えありませんか?若狭高校の宇宙日本食サバ缶チーム。現役高校生が宇宙食「サバ醤油味付け缶詰」を開発、JAXAの宇宙日本食に認証された経緯は2019年1月のコラム(参照:宇宙日本食サバ缶、開発の現場を取材!—高校生と熱血教師の12年)で紹介しましたね。高校3年生の彼女たちは、卒業前に「ロケット打ち上げを生で見たい!」と進学のための入試が迫る中、募金活動で旅費を貯め、福井県から電車、飛行機、船を乗り継ぎやってきたのだ。

ロケットの丘展望所からの眺め。夕焼けを背にすっくと立つロケット。

忙しい中遠路はるばる駆け付けた彼女たちに、スペシャルな場所でロケットを見せてあげたい。そこで打ち上げ見学マニアの人たちに情報収集したところ、ロケットの丘よりも間近にロケットと対峙できる場所があるという。それが「中型ロケット発射場跡」。ロケットの丘展望所を発射場に向かって進み、分岐点を降りて行った先にある(上の案内板を参考にしてね)。

車を走らせること数分、たどり着いた中型ロケット発射場跡は、歴代の液体ロケットが発射されていたところだけあって、現場感が漂う。そして確かにH-IIBロケットが近い!興奮して写真を撮りまくる生徒たち+先生。

自然に笑顔。カンパして下さった方に報告するために、あちこちでロケットをバックに写真撮影!

打ち上げ9時間半前からは規制が始まり、射点から半径約3km以内には近づけなくなる。早めに行って、打ち上げ前のロケットの雄姿を目に焼き付けよう。

打ち上げ当日、まさかの・・・中止!?

種子島のもう一つのお勧めは星空だ。高い建物も少なく空が広け、街灯や信号もあまりない種子島では、天の川や流れ星を堪能できる。私も種子島で初めて天の川を見た。インギー鳥など地元の食材を楽しみ、星々を仰いだ後、数時間の仮眠。6時33分の打ち上げに向けて3時頃に起き準備をしている最中、同じ部屋の方から「発射台で火災が起こっているらしいですよ」との情報が。打ち上げ見学仲間が、「NVS(@nvslive)さんの発射台生中継で見た」と連絡をくれたという。

「ここまで来てそれはないよ!」と思いつつ、プレス向けに発射中止の連絡はない。若狭高校サバ缶チームと落ちあい、「恵美之江展望公園」へ。移動中の4時半過ぎ、中止の決定がMHIから届く。がっかりする生徒たち・・・。

とりあえず「ロケットを見にいこう!」と見学場所へ。恵美之江展望公園は種子島宇宙センターから北に位置する。公式見学場所(欄外リンク参照)の中では広くはないが、新しくて綺麗、何より3kmの規制範囲ギリギリで、ロケットの眺めは抜群だ。70台の駐車場はすぐいっぱいになるため、数日前から場所取りをする人もいるそう。私たちは日本旅行のご協力で、入ることができた。最初は下を向いていた生徒たちも、美しい海から昇る朝陽に輝くロケットに元気をもらい、「次は絶対に上がる」と上を向く。いつか、自分たちが作ったサバ缶も宇宙に届く日が来ることを期待しつつ。

十数年間、歴代のサバ缶チームと伴走してきた小坂康之先生はもっと冷静だ。「(宇宙日本食の)サバ缶一つでも緻密に計算している。ロケットは技術的な様々な努力の積み重ねがあり最大限の力を合わせているにも関わらず、打ちあがらなかった。本当の最先端を攻めているということ。今回の打ち上げ中止は重大な事案になると思う。宇宙開発にますます興味がわきました。『宇宙開発はそんなに簡単じゃない』『それでも挑戦を諦めない』ことを生徒たちが身をもって経験するいい機会になったと思う」。さすが、教育者。いいこと言う!

若狭高校でサバ缶チームを12年以上率いてきた小坂康之先生。恵美之江展望公園には一段高い見学席がある。ここは南種子町にふるさと納税した方の見学席だとか。
恵美之江展望公園から発射台方向。手すり近くにはカメラがずらり。キャンプは禁止されている。

打ち上げツアーに滑り込み。ロケット打ち上げは「想像を超えていた」

打ち上げはさらに延期を経て9月25日に。延期だったからこそ見られた(しかも夜打ち!)ラッキーな人もいる。知人の50代女性Aさんは、かねてから打ち上げを見てみたいと願っていた。車を運転しないため、ツアー狙い。しかし、初回の打ち上げ見学ツアーは瞬時に売り切れ涙をのんだ。そこに延期によりチャンス到来!ツアー販売をネットで待ち構え、残り2枠に滑り込み成功!

sola旅クラブのロケット打ち上げ応援ツアーにおひとり様で参加した。Aさんが参加したコース約10名のうち、一人で参加した女性は3人。すぐに意気投合したそうだ。他はリタイアした男性や写真撮影が趣味の方、何度もロケット打ち上げに来ている方も多かったそう(9月11日に見られなかったリベンジ組も)。

打ち上げ時間は9月25日1時5分5秒。約2時間前の11時ごろに、専用バスで恵美之江展望公園に着くと、海を挟んだ先にライトアップされた発射台が。「やばい!何これ!超かっけー!この眺めだけで心拍数はMAX。超ドキドキ。だけど発射台から目を離せば、波の音と虫の音だけの静かな種子島の秋の夜。やがて目が慣れてくると空にはびっしり敷き詰められた星。天の川には時々星が流れてきます」(Aさんのブログより)

そして150人~200人ほどが見守る公園が緊張感で静まりかえる。真っ暗な闇の中、波の音とカウントダウンだけが時を刻む。「突然、対岸の発射台が太陽のように眩しい光を放ち、白煙の塊がふくらみ、浮き上がるロケット。空間を力ずくで曲げるような爆音がやってくる。空はたちまち日中のように明るくなり、昼を上空へと持ち上げていく」(Aさんのブログより抜粋)

「ロケットが昼を持ち上げていく」というAさんの言葉に唸る。ロケットは遠くて小さいのに重量感と存在感があって、人間のパワーと技術力に畏怖の念がわくと同時に恐ろしさを感じたそう。「何度も想像したけれど、打ち上げは想像を超えていた」。帰りは膝がふるえた。一緒に参加した女性は「巨大な生き物に見える」と言い、泣いている方もいたという。人によって感じ方が違うのがまた面白いところ。

Aさんは「ちゃんと見てない気がする。もう1回みたい」と次は海外のロケット打ち上げ見学を目指している。2020年はH-IIBロケット最後の打ち上げを含め、かなり多くの打ち上げが予定されているようだ。次こそ、あなたも。

恵美之江展望公園からAさんがスマホで撮影した写真。「別次元の感動でした」。次は共に海外を目指そう!
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