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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙から東京2020を応援、ガンプラ初公開
「宇宙、行きまーす!」実現の舞台裏

ラグビーW杯、盛り上がってますね。来年はいよいよ東京2020。スポーツの祭典を宇宙から盛り上げようと、ガンダムが宇宙へ飛び立つ!東京2020組織委員会がJAXA、東京大学とコラボし、人気アニメ「機動戦士ガンダム」のガンプラを宇宙に送り込み、宇宙空間から大会期間中エールを送り続ける「G-SATELLITE 宇宙へ」企画だ。9月4日、宇宙に飛び立つ前のガンプラ(実物)とご対面してきましたよ~

2020年春に、宇宙に飛び立つガンプラがこちらです!

超小型衛星に搭載されて宇宙に飛び立つガンダム(右)とシャアザク(左)。市販されているガンプラは144分の1だが、宇宙ガンプラは200分の1の大きさで約10cm。小さいながら精巧に作られている。世界平和がテーマなので、戦いはしない。

この宇宙スペシャルなガンプラが作られたのは、静岡県にあるバンダイホビーセンター。2020年に40周年を迎え、ガンプラの需要増にこたえるため新工場建設を予定しているそうだが、宇宙にガンプラを送り込むのは初めて。

野口聡一宇宙飛行士と金井宣茂宇宙飛行士も会見に駆けつけ、興味津々で見つめる。お二人ともファーストガンダム(機動戦士ガンダム)のファンでテレビ番組を見ながらガンプラを作ったそう。金井さんはおばあちゃん子で折り紙が得意と聞いていたのに、ガンプラを一生懸命塗装していたとは、意外な一面を見た気分。

ガンプラを嬉しそうに、しかしじっくりと見つめる野口飛行士(左)と金井飛行士(右)。

ガンプラは超小型衛星G-SATELLITEに搭載され、2020年3~4月に国際宇宙ステーション(ISS)に届けられ、「きぼう」日本実験棟から放出される予定だ。衛星放出後、ガンプラ2体は衛星内部から宇宙空間へ。大会期間中、地球から送られてきた「〇〇選手、金メダルおめでとう!」などのメッセージを電光掲示板に表示。地球をバックに衛星搭載の7台のカメラで撮影し、地上に送り届けるという。企画にはJAXAと東京大学中須賀・船瀬研究室が協力、衛星開発には、東大とともに福井県のエンジニアも参加している!

ガンプラは10cm×10cm×30cmの超小型衛星に搭載され打ち上げ。衛星内部から、ガンダム・シャアザクが宇宙空間に立ち上がる!(提供:TOKYO2020)

ガンプラ宇宙への挑戦で難しかったのは何か。製作担当者の山中信弘氏によると、まず素材。「通常、ガンプラで使っているプラスチックは宇宙では耐えられない」。宇宙空間は温度差が激しく、真空で、放射線や紫外線が飛び交う厳しい環境だ。そこで探し出したのが最高で238度もの温度に耐えられる素材「ハイテンプ」。微細な部分はピーク材を使っている。

宇宙仕様のガンダムについて説明する山中信弘氏(BANDAI SPIRITS ホビー事業部開発設計チーム アシスタントマネージャー)

野口飛行士が「ハイテンプはガンプラより超合金に近い?それとも慣れ親しんだプラスチック?」と突っ込むと「環境の変化に対しては金属の削り出しの方が耐えられるが、我々はガンプラを送り込みたいと、樹脂にこだわって素材を探した」と山中さんは苦労を明かす。ハイテンプは耐熱性の樹脂。3Dプリンタで積層して造形したあとに焼き入れし耐熱温度を上げる工程を入れたという。

そしてもう一つの工夫が、塗装コーティング。ISSが飛ぶ高度約400km付近では地上には存在しない原子状酸素(AO:Atomic Oxygen)が多く、何も対策しなければ半年もすると色落ちしてしまう。赤いシャアザクが真っ白になってしまうのは避けたい。まず車のコーティングをテストしたがうまくいかない。そこで東大の先生に紹介してもらった耐AOコーティングを試したところ、結果は良好。さらに熱をあてることで、宇宙に出しても色あせないガンプラが実現した。

宇宙ガンプラ担当者—心配で胃が痛む日々

この宇宙ガンプラにはLEDを組み込んであり、目などが五輪カラーで五色に光る工夫も凝らされている。わずか10センチの大きさながら精巧でカッコよく、LEDを光らせるために内部にリード線などを這わせている。これぞ日本の技術力。

山中さんによると、極限環境への挑戦という意味では海底や高山などにガンプラを送り込んだことはなく、宇宙へ送り込むのが初挑戦となる。心配していることは?

「(宇宙ミッションは)100%が求められる。プラモデルが真空の宇宙空間に晒されることは、過去にほぼなかった。様々なテストを何回も重ねトライアルを繰り返しているが、実現できるかどうか。打ち上げられるまで胃が痛いし、宇宙に出るまで心配。しかし、ガンダムは本来宇宙にあるべきもの。できるように頑張ります!」

野口さんらが手にしているのが、色が抜けた状態のガンプラ。こうならないように、短い開発期間に様々な試行錯誤やテストを繰り返した。

山中さんの言葉を聞いた野口飛行士は「これまで試していない環境に自分の製品を持っていくことへの高まりと不安は、エンジニアなら痛いほどわかる。自分もエンジニア時代に宇宙関係の部品に携わり、宇宙で事故を起こすと大変だという自覚をもってやっていた。ガンプラ開発チームは約40年かけて培ってきたプラモの技術がどこまで通用するか最前線でやっておられる。メーカーの底力が試される。静岡県はプラモデルが有名。静岡のエンジニア頑張れ!」とエールを送る。

ところで2020年春、宇宙空間にガンダム衛星を放出する際、野口飛行士がISSに滞在しているのかが気になるところ。野口飛行士曰く「日本のメーカーは納期に厳しく、ガンダム衛星はほぼ間違いなく、計画通り宇宙にいくと思うが、我々が乗るのは米国が進める民間宇宙船。いつまでも『Don’t worry,Be happy』で遅れる可能性がある。地上にいても宇宙にいても、このプロジェクトを応援しています」。東京2020期間中にぜひとも宇宙に行ってほしいものです。

「絶対にやる!」担当者の熱意から生まれた宇宙ガンプラ×東京2020

ガンプラを宇宙に持っていくという、前代未聞のプロジェクトはどうやって生まれたのか。その仕掛人が天野春果さん。川崎フロンターレのプロモーション部部長として、名物企画を実現してきたことでも知られる人物だ。ご本人に企画実現のそもそも話から尋ねた。

天野さんは面白いことをするために、東京2020組織委員会へ。「面白いことをやりたいと考えているうち、宇宙が頭に浮かんだ。今までやったことをやってもしょうがない。違う応援の仕方をしたいと思って、1回目は2018年、金井飛行士に宇宙でパラパラ漫画が実際にパラパラするかやってもらいました」

2回目はそれを超えることをしたい。それなら宇宙船の外だ!「調べている中でISSからの衛星放出事業を知ったんです。何を放出するか。応援衛星だ。でもそれだけじゃつまらないな。せっかくの東京五輪だから、日本のカルチャーを載せたい」

「アニメだ!アニメで宇宙ってなに?ガンダムだ!大好きだし、よく知ってる。ガンダムが宇宙に行って、ぐるぐる地球の周りをまわりながら応援したら楽しいし、わくわくする。スポーツに興味がある人以外の人も楽しめるんじゃないか!」

天野さんがそう思いついたのが2018年4月。すぐに動き出し5月には衛星メーカーを訪ね歩いた。でも納期や予算が折り合わない。無理か・・と思っていたところ一冊の本に出合う。「『キューブサット物語』(川島レイ著)に、超小型衛星を開発し、失敗ばかりなのにチャーミングな笑顔の先生がいたんです。『この先生だったら話を聞いてもらえるんじゃないか』と直感して直談判に行きました」

「G-SATELLITE 宇宙へ」を発案、実現に奔走する天野春果さん(左)。東京2020組織委員会イノベーション推進室企画推進部エンゲージメント企画担当部長。「G衛星に関わっている方々は激アツな人ばかり。うまくいかないことを楽しそうに話すんですよねぇ笑。課題はまだたくさんありますけど、楽しんでやっていきます~」 中須賀先生と一緒に赤い彗星シャアのコスプレ、楽しそう!(提供:天野春果、TOKYO2020)
5月、「G-SATELLITE 宇宙へ」発表会見で。右端でひときわ嬉しそうな笑顔を見せるのが、中須賀真一東大教授。左には「機動戦士ガンダム」富野由悠季総監督、東京2020組織委員会スポーツディレクター・室伏広治さんら。

その先生こそ、東京大学の中須賀真一先生。超小型衛星のパイオニアであり、大のガンダムファンとして知られる。中須賀先生にガンダムプロジェクトについて伺うと「やりがい?ありますよ!自分がガンダムファンであると同時に、世界中の人が見ているから。5月の発表(G-SATELLITE会見)直後にタイに行ったら『あ、ガンダム先生だ』と言われて驚いたよ」。しかし超小型衛星を多数開発してこられた中須賀研でも、ガンダム衛星特有の難しさがあるという。

「特にガンプラを宇宙空間に出す展開機構。動く機構があると難しいからね。それから通信。質の高い画像データを送ること。実質7ヶ月で開発しないといけないけど、日本の技術力のアピールにもなる。だから失敗できない。プレッシャーです。『それ見たことか』と言われたくないしね」と言いつつ、わははと笑う中須賀先生。この懐の深さ、好きやなぁ・・・。

天野さんは「制約だらけでも突破口は絶対にある。『絶対やるんだ』という熱をもって純粋で誠実な気持ちを大事にすれば、中須賀先生だったりバンダイの山中さんだったりピュアで熱のある人と出会える。二人ともめっちゃ熱いですよ。無理難題でも『できない』とは言わない。『面白いからやろう!』と言ってくれる」

ガンダム×宇宙×日本の技術で東京2020を盛り上げるなんて、楽しみだ。ガンダムファンにはたまらないだろう。宇宙関係者を取材していると、確かにガンダムファンが多いことに驚く。しかしアニメを見ていない人にとっては、ガンダムのどこがそんなに面白いの?と思うかも(実は私も・・)。改めて、ガンダムの魅力を野口飛行士に問うと「主人公が弱くても許される。悩みながら戦争に巻き込まれていくというストーリーの最初の作品だと思います。特にファーストガンダムでは、主人公のアムロとララァは敵と味方なのに、新しい人類の可能性に向けて心の交流がある。強烈でした」

野口さんのコメントに興味をもち、ファーストガンダムを見始めた。敵と味方に単純に分けられない心の葛藤、ララァはじめ新しい人類「ニュータイプ」の登場、確かに面白い(主人公が弱っちくても成り立つ当時としては稀有なアニメとDSPACEデザイナーさんも力説。ここにもガンダムファンが!)。来年春の宇宙ガンプラの旅立ちまでに、じっくり見るぞ~。

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