Vol.134
ジャコビニ・チンナー彗星を探してみよう
猛暑が過ぎ、大気の透明度も少し高くなってくる頃、秋から冬の天の川にかけて、地球に接近して明るくなるジャコビニ・チンナー彗星が見頃を迎える。とはいっても、大彗星ではないので、双眼鏡や望遠鏡を使わないと眺めることはできない、7等星程度の明るさではあるが、なかなか明るい彗星が現れない時代なので、ぜひ観察してほしい対象ではある。
ジャコビニという名称は、天文ファンにとっては極めて知名度が高い。10月8日前後に極大となる流星群は、長らく「ジャコビニ流星群」といわれてきた。1972年には大出現すると予測されたものの、ほとんど出現せずに多くの人をがっかりさせたことでも一躍有名になった。この事件をモチーフに、松任谷由実さんが「ジャコビニ彗星の日」という歌を作っているほどだ。ジャコビニというのは、もともとはフランスのニース天文台の天文学者ミシェル・ジャコビニの名前である。1900年12月、彼がみずがめ座で、この彗星を発見したのだが、軌道計算によって6年後に帰ってくると予測されたものの、見いだされることなく行方不明になった。1913年になって、ドイツのバンベルクの天文学者エルンスト・チンナーによって、同彗星を再発見したため、ジャコビニ・チンナー彗星と呼ばれるようになった経緯がある。
この彗星の軌道は、10月8日前後に地球の軌道を横切っているため、条件が良ければ、この彗星から放出された砂粒が地球に降ってきて、流星群が出現する。いわゆるジャコビニ流星群である。現在では国際天文学連合によって流星群の名称は基本的に恒星や星座名を使うこと、同一星座で流星群が複数ある場合は出現時期を名称に入れて区別することになり、正式には「10月りゅう座流星群」と呼ばれるようになった。学術論文では、この正式名を使うことになったが、慣例でまだジャコビニ流星群と呼ぶ人は多い。1933年と1946年には一時間あたり数千個の大流星雨を降らせたことでも有名である。今年は欧州方面でやや活発な活動が予測されているが、日本で観察するのは難しいだろう。
流星群の観察は難しくても、母親の彗星なら観察する絶好のチャンスである。未明から明け方にかけての東の空、秋から冬の星座に位置している。特にお勧めは9月。10日に太陽に最接近し、地球との距離も近く、7等台となるからだ。初旬には、ぎょしゃ座の一等星カペラに近づく。最接近は3日となるので、その前後に夜空の暗い場所で、カペラの周辺を双眼鏡で探してみると、ぼやっとした雲状のジャコビニ・チンナー彗星が見つかるかもしれない。ただ、この時期は月明かりがあるのは欠点である。月が細くなる10日前後には、彗星はぎょしゃ座の五角形の中を動いていて、人気の観望天体である散開星団M38、M36へと接近していく。10日過ぎには五角形を出て、散開星団M37に大接近する。さらに16日には、ふたご座の散開星団M35と接近する。いずれにしろ、星図(下図参照)を眺めながら双眼鏡で探してみるチャンスである。まだ彗星を一度も眺めたことがない、という人にはお勧めである。