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星空の散歩道

2010年10月20日 vol.59

ハートレイ彗星が接近中

 10月のはじめ、福島県で開催された石川町スターライトフェスティバルに行ってきました。2泊3日の日程で開催された星祭り、あいにく一日目はどしゃぶりでしたが、2日目は雨上がりの素晴らしい星空に恵まれ、天の川の下でのコンサートや、天体観望を楽しみました。たくさんの望遠鏡が向けられていたのが、この秋、話題のハートレイ彗星です。双眼鏡や望遠鏡で眺めると、漆黒の夜空を背景にして、綿毛のようなかすかな青白い光が浮かんでいて、とてもはかなげで美しい姿。彗星といっても、もともと大きな彗星ではなく、たまたま地球に近づいて明るくなっているために、尾が見えるわけではありませんが、青白い雲のような彗星の姿を眺めたのは久しぶりでした。

イラスト:星座に対する彗星の動き。(提供:国立天文台)

イラスト:星座に対する彗星の動き。(提供:国立天文台)

 ほうき星とも呼ばれる彗星は、われわれの太陽系の小天体の仲間です。一般に大きく歪んだ軌道をもち、太陽に近づいたり、遠ざかったりします。もともと氷が主成分の天体ですから、太陽に近づいた時には、氷が融け出します。そのときに氷に含まれていたガスやちりが吹き出して、星雲状に見えます。大きな彗星で、放出されるガスやチリの量が多いと、太陽の影響で、太陽と反対側に流れ出すように見えます。これがほうき星の尾、「ほうき」の正体です。

 今回、話題になっているハートレイ彗星(103P/Hartley )は、尾を作るほど大きな彗星ではありません。1986年3月に、オーストラリアのハートレイ氏によって発見されたときも、その明るさは17~18等と、大望遠鏡でしか観測できないほど暗い彗星でした。太陽のまわりを約6年かけて回っている短周期彗星なので、その後、1991年、1997年、2004年に回帰(太陽に接近)しましたが、いずれもそれほど明るくはなりませんでした。

 ところが、今回の回帰では、ハートレイ彗星が太陽に近づくタイミングで、ちょうど地球に近づいています。10月20から21日にかけて、地球との距離は約0.12天文単位(1天文単位は地球と太陽との距離1億5千万km)となり、1986年の発見以降、最も地球に接近する条件なのです。また、その後も地球からどんどん離れていくわけではありません。地球と併走するような形で動いていきます。地球に近ければ、尾を引かないような小さな彗星でも、明るく見えるというわけです。原稿執筆の段階では、約6等級の明るさになっています。さらに、彗星は太陽に近づく時に明るくなることが多いものです。このハートレイ彗星が太陽に最も接近するのが10月28日です。この前後には、まだまだ地球にも近く、明るいまま眺めることができると思われています。さらに大事なことは、地球に接近する10月20日から太陽への最接近までは月明かりに邪魔されてしまうのですが、11月には月明かりもなくなっていくので、観察条件が良くなることです。

参考:国立天文台三鷹50cm望遠鏡撮影 2010年10月6日22時25分(日本時)(提供:国立天文台)

参考:国立天文台三鷹50cm望遠鏡撮影 2010年10月6日22時25分(日本時)(提供:国立天文台)

 彗星は、ちょっとでも空が明るいとたちまち見えなくなってしまいます。特に、この彗星はコマと呼ばれる部分が大きく広がり、ほのかに光る面積を持った小さな雲のように見えます。この雲の大部分が、彗星から放出されたガスの放つ青い色で光っていますが、あまりに微かなために、都市光や月明かりがあると途端に見えなくなってしまいます。そのために、月明かりは大敵ですし、もちろん星がよく見えないような都会で眺めるのは難しいのです。

 11月の上旬の週末、月灯りに邪魔さない時期に、ぜひ人工灯火の無い夜空の暗い場所へ出向いて、ハートレイ彗星を眺めてみてください。天の川が見えるような場所なら、双眼鏡で簡単に見つけることが出来るでしょう。もしかすると肉眼でも見えるかもしれません。この頃には、ふたご座の足元から、こいぬ座へ向かって動いていきます。こいぬ座のプロキオンとオリオン座のベテルギウスの間あたりを探してみるとよいでしょう。

 国立天文台では、11月14日夜(15日朝)まで「地球に近づくハートレイ彗星を捉えよう」キャンペーンを行っています。肉眼や双眼鏡などで彗星を観察して、報告してもらおうというものです。詳しい観察の仕方や探し方も掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

「地球に近づくハートレイ彗星を捉えよう」キャンペーン ―国立天文台― http://naojcamp.nao.ac.jp/phenomena/20101014/