2011年8月25日 vol.69
北極星
季節にかかわらず、いつでも同じように見える星と言えば、北極星である。いつでも北の空に輝いている北極星、真北を示す星として有名である。星座としては、こぐま座に属し、その中ではもっとも明るいアルファ星で、2等星として輝いている。
北極星は、名前の通り、天の北極、つまり地球の自転軸の方向にあるために、日周運動でも、ほとんど動いて見えない。そのため、日本では「一つ星」「心星」、あるいは昔の北の方角を表す十二支をつけて「子(ね)の星」などと呼ばれていた。また、中国からの名前で、もともと「北辰」とも呼ばれていたが、時代を経るにつれて、「妙見」を含めて、北斗七星と混同されつつ、信仰の対象ともされていた。
沖縄・石垣市(左)と北海道・稚内市(右)との北極星の高さの違い(9月1日20時)
いつも見えるという割には、しみじみ眺めた事のない人の方が多いかも知れない。いつでも見えるから、逆にありがたみがないということもあるのだろう。有名な観光地がそばにあるのに、地元の人は案外、行ったことがないという感覚に近いのかも知れない。また、北極星のあたりは天の川から離れていることもあって、星の数も少なく、やや寂しいせいもある。目立った星雲や星団などの有名ど ころもないので、天文ファンでも目を向けることがあまりない。
そんな北極星だが、今宵はちょっとだけ注目してあげよう。北極星を探し出すにはいくつかの方法がある。良く用いられるのが、北の空の有名な星の配列を使う方法である。ちょうど今頃の季節だと、北東から昇ってくるカシオペヤ座を使う。W型に並んだ5つの星が秋の天の川の中で輝いている。まず、W型のそれぞれの端の2つの星を結んで伸ばし、交点を作る。その交点とW型の中心の星を結び、それを約5倍ほど伸ばすと、北極星にたどり着くはずである(参照:vol.34/「北の夜空に浮かぶ錨星」)。
もうひとつは北斗七星(参照:vol.4/「北斗七星」)を使う方法である。いまの季節だと北斗七星は北西の低空になるので使いにくいが、冬から春頃だと、北東の空高く上がってきて、北極星にとっては最高の目印になる。北斗七星を見つけたら、その水をくむ柄杓の升の先端の2つの星を結び、約5倍ほど伸ばしてみると、そこにぽつんと北極星が光っている。
もう一つは、西に傾きかけた夏の夜空のランドマーク、夏の大三角を使う方法だ。こと座のベガと、はくちょう座のデネブ、そして南に低いわし座のアルタイルの三つの星でつくる三角形である。このベガとデネブを底辺にして、この三角形をぱたっと反転させる。すると、アルタイルの位置に北極星がある。つまり、北極星はベガとデネブが作る線に対して、アルタイルと線対称の位置にあることになる。これら三つの方法を知っていれば、どんな季節でも、なんとか北極星を探し出せるだろう。
見つけられたら、その高さに注目しよう。その高さは、すなわちその場所の緯度に相当する。北海道では北極星は高く、沖縄などでは低く見える。以前、北海道に行く用事があり、高台にある宿のバルコニーから北の空に北極星が見えたのだが、そのあまりの高さに驚いたことがある。高さを自分で測ってみるのも面白いだろう。腕を伸ばして、握りこぶしを作ると、その長い方(親指と小指の並んだ向き)のみかけの大きさは、約10度の角度に相当する。北極星を見つけたら、地平線からどの程度高いかを目測し、自分のいる緯度と一致することを確かめてみよう。
ところで、北極星は、天の北極に近いものの、正確に一致しているわけではない。約1度ほど離れているので、一晩中見ていると、月4つ分ほどの直径の小さな円を描いていることがわかる。また、地球の自転軸が動いていく「歳差」という現象のため、北極星は天の北極にどんどん近づいている。2100年頃に最も近づくが、それ以後は離れていく。そのため、長い目で見れば、時代によって北極星というものは異なってくる。エジプトのピラミッドが建設された紀元前3千年頃には、りゅう座のα星トゥバンが、またあと8千年ほどすると、はくちょう座のデネブが、1万2千年後には、こと座ベガ(織姫星)が、北極星になるのである。