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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

大学と宇宙スタートアップが手を組む理由
—輸送系3つの成功事例

第67回宇宙科学技術連合発表会中、10月17日に開催されたパネルディスカッション「宇宙輸送のイノベーションにおける学術界とNew Space連携の良好事例」には輸送系最前線で奮闘する最前線のプレイヤーが集った。

誰でも宇宙を目指せる時代だ。サラリーマンが趣味で人工衛星を製作して打ち上げ、中学生が衛星を使ってマイハザードマップを作る。宇宙を「どう使おうか」考え、参入するスタートアップは増え続けている。

だが、まだ敷居が高いのがロケットなどの「輸送系」だ。開発上避け難い失敗という「死の谷」を乗り越え、ビジネスが軌道に乗るまで長い時間と膨大な資金が必要になるからだ。

それでも、輸送系がなければ宇宙活動は始まらない。輸送が宇宙ビジネスの鍵を握ることは米SpaceXの躍進を見れば明らかだろう。日本でも国の資金を輸送系企業に投入すると同時に、技術支援も行おうという流れが加速している。それに加え、大学とスタートアップが手を組む「産学連携」が好循環を生み出している。両者にとってのメリットは何か、課題は?

10月に開かれた第67回宇宙科学技術連合発表会のパネルディスカッション「宇宙輸送のイノベーションにおける学術界とNew Space連携の良好事例」では、興味深いエピソードが次々と披露された。

インターステラテクノロジズ×室蘭工業大学。大学の知見を丸ごと

パネルには、スタートアップ×大学研究者のペア3組が登壇した。まずは、2019年に日本の民間企業で初めてロケット(観測ロケットMOMO)打ち上げに成功したインターステラテクノロジズ(IST)と、室蘭工業大学のペアだ。

インターステラテクノロジズ(IST)は2019年、日本の民間企業で初めてロケット(MOMO)打ち上げに成功。現在は小型人工衛星打ち上げロケットZERO開発に邁進中。(提供:インターステラテクノロジズ)

IST社が今、注力しているのは超小型人工衛星打上げ用ロケットZEROの開発。稲川貴大CEOによれば、「MOMOによって大きな開発実績を得た一方、次世代機ZEROに移るには技術的な難しさの質が違う部品がある」。具体的には燃料をタンクから燃焼器に送る「ターボポンプ」だ。そこで、ターボポンプの専門家でありJAXAを退職した室蘭工業大学の内海政春教授と共同研究を行っている。

インターステラテクノロジズCEOの稲川貴大氏(左)と室蘭工業大学の内海政春教授(右)。

特色はIST社と室蘭工業大学が「包括連携協定」を結んでいること。ターボポンプだけでなく、燃焼器の金属材料の研究など特に難易度の高い部品を中心に、包括連携協定の中で複数の教員と様々なテーマで連携を進めている。新しい材料開発には10~20年かかる場合もあるというから、時間勝負のスタートアップには大きなメリットだろう。また学内にはISTエンジニアが駐在するラボがあり、コミュニケーションがとりやすい環境が整備されている。

ISTは多くの大学と共同研究を行っている。稲川氏は「国のロケットは大学と一緒にやることも多いが、民間企業の独自研究は大学とやらないことが多い。我々は電子部品以外の電気系の部品や無線の技術など大学と実験データの共有をしている。スタートアップでは分析装置(などの研究設備)や過去の知見がない。大学の知見をお借りしたい」と期待する。

ロケットZEROで必須となるターボポンプについて、ISTと室蘭工業大学は「包括連携協定」の中で共同研究を行っている。(提供:インターステラテクノロジズ)

では大学にとってのメリットは何か。内海教授は「大学は教育機関でもあり、将来宇宙業界で働きたい学生が多数いる。『学生の幸せが教諭の幸せ』が信念。学生が実際の開発現場に携わることができる環境が、とてもいいと感じている」と語る。内海教授はIST社との連携はもちろん、北海道スペースポート(HOSPO)早期実現に向けて共創している。地元のやる気のある企業が部品を作れるようにするなど宇宙産業を北海道に展開、地域経済の発展にもつなげたいとビジョンを語る。

苦節16年。たどり着いた「Team.D」。PDエアロスペース×学術チーム

回転デトネーションエンジン(RDE)の宇宙空間での世界初の作動の瞬間。右は宇宙空間から撮影された地球。( 提供:名古屋大学, JAXA)

世界のどこも実用化していない夢のエンジン「デトネーションエンジン」を使って、2030年代に民間宇宙旅行を実現しようという高い目標を掲げるのがPDエアロスペースだ。CEOの緒川修治氏は2007年に起業、当初は学術論文を参考に研究を進めたが、一人ではなかなかエンジン開発が進まない。燃焼のメカニズムや現象の解明は大学が得意とする分野だ。

国内でデトネーションエンジンの研究開発をリードするのが名古屋大学の笠原次郎教授だ。2021年には世界で初めて回転デトネーションエンジンをJAXAの観測ロケットで打ち上げ、宇宙空間で作動させることに成功、「NASAなどが真似し、世界の研究コミュニティにインパクトを与えた」と語る。緒川氏は、笠原教授が他大学に在籍している頃から追いかけ、2011年には大学に自身のエンジンを持ち込んで一緒に実験をさせてもらったという。

PDエアロスペースCEOの緒川修治氏(左)と名古屋大学の笠原次郎教授(真ん中)。

ただし、小さなエンジンができたとしても機体に乗せるような大掛かりなシステムにするにはまだ足りない部分がある。一方、国は2040年代前半に高頻度往還型宇宙輸送システムの実用飛行を目指すことを掲げた。その実現にどんな要素技術が必要かなどをJAXAが検討する事業者に、PDエアロスペースが採用された。小型・軽量で高性能なデトネーションエンジンは日本の宇宙機にとって重要な技術。緒川氏はJAXAを通じて国内のデトネーション研究者全員によびかけてもらい、5大学の研究者を集め「Team.D」を結成。2週間に一回のペースで議論している。「起業した2007年から16年かけてようやくデトネーションのチームができた」と緒川さん。苦労しても実現まであきらめない、侍のような集団だ。

笠原教授はデトネーションの研究を30年続けてきた。世界初のデトネーションエンジンの軌道実証・実用化を目指しているが、研究だけでなく(機体や通信環境などを整えた)「システム」としてくみ上げ、飛行実証することが重要だという信念が、笠原教授にはある。「大学の基礎研究と緒川社長のシステムを組み合わせれば世界的なインパクトがある」と期待する。来年にはもう1回、(JAXAの)観測ロケットで液体燃料のデトネーションエンジンシステムを宇宙実証する予定で、Team.Dを含めて必死に開発にいそしんでいる状況だという。

ElevationSpace×元JAXA「はやぶさ」大気圏突入技術の第一人者

ElevationSpaceの宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」(想像図)。宇宙空間で研究開発・製造を行い、地球に物資を回収できる(提供:ElevationSpace)

宇宙機で日本初のユニークな事業を行おうとしているのが、東北大学初のスタートアップ「ElevationSpace」だ。国際宇宙ステーション(ISS)引退後を見据え、小型の人工衛星、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」を打ち上げ、無重力環境をいかした実験や実証を実施してもらい、その成果を地上に持ち帰るというサービスを掲げている。

地上に実験成果を持ち帰る際に必須となるのが、大気圏再突入や回収の技術。国内ではJAXAが「はやぶさ」シリーズやISSへの貨物船「こうのとり7号」に搭載された小型回収カプセルなどの成功例があるだけ。ElevationSpaceは再突入技術に日本の民間企業で初めて挑戦する。

2023年4月、JAXAで「はやぶさ」シリーズ等の大気圏再突入技術を牽引してきた第一人者、藤田和央氏が同社に電撃移籍。その後CTOに就任した。「大学発のベンチャーにJAXAの方が完全に移籍されるのは稀有なこと」とElevationSpace共同創業者・取締役の桒原聡文准教授はいう。藤田氏はなぜ、大学発スタートアップに飛び込んだのか。

JAXAからElevationSpaceに移籍した藤田和央CTO(左)と東北大学准教授でElevationSpace取締役の桒原聡文氏(右)。

「宇宙産業を考えたとき、米国のSpaceXはものすごい勢いでのび、火星に人を送ると宣言し技術開発が進んでいる。どうして日本はできないのか。民間の力を伸ばさないと難しいのではないかという思いを年々強くした。JAXAにいても色々なことができるが、自分も民間企業のプレイヤーとして民間をのばすことで若い人たちの受け皿を作ることができるのではないかと思った」と熱く語る。

民間企業を探していた時に、自分の専門技術をそのまま生かせる理念をもっているElevationSpaceと出会い、CEO小林稜平氏に説得され心を動かされたという。とはいえ「きれいごとではない。技術以外の資金集めにも苦労するが、それもまた楽しい」と前を向く。

ElevationSpaceは日本の民間で初めて、宇宙実験や実証の成果を地上に持ち帰ることを目標に掲げる。

同社取締役の桒原氏は、東北大学准教授であると同時にスタートアップの共同創業者でもある。小型衛星の開発・運用・データ解析に長く取り組んできたが、大学でできることの限界も感じたという。「民間資金で加速すべきという思いが強い。大気圏再突入や海上での回収技術など、民間でどんどん実証し、その成果に基づいて学術界にさらに高い研究課題を提示してほしい。(産学で)ポジティブな循環が生まれたらいい」と連携への期待を語った。

既にある「枯れた技術」を使ってビジネスを行うスタートアップもある。だがこのパネルに登壇した3社は新しい技術に果敢に挑んでいる。研究に時間を割くことがなかなか難しいスタートアップの場合、大学との連携は欠かせない。一方、大学側にとっても、企業と組むことで実証機会が得られ、学生の教育効果も高い。いいこと尽くしにも思えるが、さらに成長するための課題はなんだろう。

課題—時間軸、小さなサービスで資金を稼ぐビジネスセンス

PDエアロスペースの緒川社長は話題が資金繰りに及んだ時、「大反省している。」と突然、発言した。「”宇宙旅行”をビジネスモデルにおいたために、売り上げが立つまでにものすごく時間がかかることとなった」のが大反省の理由だ。「資金調達をした時点で、小さくサービスインできるようなビジネスモデルを描かなければいけない。具体的にはエンジンを燃焼システムとして使うとか、無人宇宙機でサービスを始めるとか。成果が出るまで時間とお金がかかると投資家は待ってくれない」。今後、起業する人はぜひ参考にほしいと話す。

PDエアロスペースの事業計画。

緒川氏に対して、笠原教授は「小さいところからやりましょうと議論している」と打ち明ける。小さなサイクルで「早く世界を先導していきたい」と。「世界で最初にいくと最初に新しい風がたくさん見えてくる」からだ。

笠原教授はデトネーションエンジンが「ゲームチェンジングテクノロジー」、つまり、世界を一新するようなとんでもない技術であると説く。この技術をまずは、H3ロケットのRCS(ガスジェット装置)や、イプシロンロケットのPBS(小型液体推進システム)など比較的小型のエンジンから使ってほしいと考えている。

どうしても資金がかかる輸送系について、JAXAで輸送系を束ねる沖田耕一氏は「チャレンジしようとしても結果として大きな欠損が出て会社が傾くと、チャレンジできなくなる。予算確保も含めてチャレンジできるような環境整備を進めようとしている」とのべた。産学官がベストミックスで研究開発を進められる環境整備がJAXAの重要な役割だと。

パネラーから共通して出たのは「時間感覚」の問題。大学は長期的な研究課題に取り組むが、スタートアップは1,2年後の資金調達も苦労し、時間軸が異なる。三菱重工で長年、国の基幹ロケットエンジニアとして活躍し、現在は東京理科大学教授として学生の面倒を見る立場にある小笠原宏氏は今、将来宇宙輸送システム(株)と共同研究を実施している。

「20年前、大学はスケジュールを守らないのが当たり前だった。それでは企業がもたない」と指摘。ロケット開発では多くの課題が開発のさなかに発生する。その課題に対して大学は伴走しながら解決していく姿勢が求められる。「研究した内容が1,2年後に宇宙に行く。この時間軸が大事」とIST稲川氏も指摘する。

社会課題の解決に、輸送系はどう貢献できるのか

パネルディスカッション後半、小笠原氏が(一社)宇宙旅客機輸送推進協議会(SLA)理事として語った、次の言葉に共感を覚えた。「宇宙輸送はユーザから遠い。社会に貢献している姿、社会課題の解決手段にならないといけないのではないか。そのために我々は航空宇宙業界の中だけで閉じていてはいけない。学会を超えて、大学は理系を超えて文系とつながっていかなければならない」。混迷が続く現代社会にあって「宇宙輸送がどう社会貢献できるのか」という視点は必須である。

ディスカッションのコーディネーターを務めた三菱電機先端技術総合研究所の吉河章二氏は、議論をこう総括する。「スタートアップと大学研究者のペアで参加してもらったことで、産学連携がうまくいくコツを自分なりに納得した。『大きな方針よりも具体性』。そして大事なのは宇宙輸送が進展すると私たちの暮らしがどうよくなるのか、どんな豊かさが待っているのか。それを伝えていく必要がありますね」

産も学も民も、手を携えて宇宙へ人や物を往復させる。それが豊かで平和な地球社会の実現につながるように。そんな課題と希望を感じた議論だった。

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