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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.113

地球外知的生命の電波発見?

今年の8月末、「知的生命体からの電波を検出したかもしれない」という噂がインターネット上を駆け巡った。ロシアにあるRATAN-600という電波望遠鏡が、いわゆるSETI(地球外知的生命体探査)の過程で、ある恒星の方向から強い電波を受けたという報告がなされたのである。

この電波望遠鏡は、2m×7mほどの長方形の電波反射板を半径約600mの円形に895枚並べた、中央部にある第二鏡に電波を集め、そこから受信機に導く半固定型の電波望遠鏡である。子午線を通過する天体を主に観測しており、地球の自転を用いて、観測対象天体を切り替えるようになっている。この電波望遠鏡で行われているプロジェクトの一つがSETIである。

これまでSETIといえば、南米プエルトリコのアレシボ電波望遠鏡が主力であった。カルスト地形の大きな窪地に反射板を並べて、直径305mのアンテナである。高さ150mほどのところに、3本のマストで支えられた受信機が吊り下げられている、やはり固定式のアンテナだ。やはり日周運動によって次々と通り過ぎていく天体を観測する。もともとのSETIでは、天空のどこを狙って観測するということではなく、ともかくこれまでは常時電波を受信し続けて、闇雲に人工的な電波を探していた。

一方、RATAN-600での観測戦略は違っている。すでに皆さんご存じと思うが、いまでは太陽以外の恒星の周りに太陽系外惑星が多数発見されている。知的生命体がいるとすれば、そうした惑星の上に違いない。だから、アレシボのように闇雲ではなく、そういった惑星を持つ恒星を狙って観測を行っているのだ。

そして2015年5月15日、強い信号を受信した。我々から94光年ほど離れたヘルクレス座の恒星HD164595を観測しているときのことであった。この星そのものはほとんど太陽と同じタイプの恒星である。そして、木星の20分の一の質量を持つ惑星が、周期約40日で公転していることがわかっていた。この惑星そのものは温度が高い海王星クラスなのだが、もしかすると未知の地球型惑星があるかもしれない。そんなことで、彼らの観測リストに含まれていた。5月15日のデータは、天空状の点源からやってきたものとそっくりであった。また、その強度はずいぶんと強く、とても94光年先からやってきたと思えないほどだった。そのため、ロシアの研究グループはずいぶんと慎重に分析を進めてきたようだ。(公表が1年以上も遅れたのもそのためだろう。)

このニュースが駆け巡った後、アメリカのSETI研究所では、この恒星を早速観測すべく、かれらのSETI専用望遠鏡群(アレン電波干渉計)の観測リストに加え、追跡観測をはじめようとした。ところが、当のRATAN-600から、その後、問題の電波信号はどうも地上の電波のようだ、と発表がなされた。最終的には残念な結果にはなったのだが、私はなんとなく思った。いずれはこういう”時”が来るに違いないと。前回も生命存在の可能性が高い環境の惑星が続々見つかりそうな状況を紹介したのだが、案外あっけなく、こうした形で知的生命体や他の文明の存在が明らかになるときが来るのかもしれない。

SETI(地球外知的生命体探査)の活動のなかで主流なのが電波望遠鏡による観測方法だ。