『大人の肉ドリル』に学ぶ、“家庭史上最高ステーキ”の焼き方『大人の肉ドリル』に学ぶ、“家庭史上最高ステーキ”の焼き方

「家でもおいしいステーキを焼きたい!」。
そうはいっても、レストランでも思い通りの焼き加減で出てこなかったりするくらい、ステーキは難しい印象が……。
果たして、家庭の台所でレアやミディアムなど、家族の好みに合わせた焼き加減でステーキは焼けるのでしょうか。

というわけで、本日は肉好きの間で"バイブル"とも言われる『大人の肉ドリル』の著者、
松浦達也さんにステーキの焼き方を教えていただくことに。

「家で食べるステーキがイマイチ……という方のステーキには3つの共通項があります」
その3つの共通項が以下の項目です。

  • ・表面の焼きが足りない。
  • ・中は火が通り過ぎている。
  • ・どこか脂っぽい。

「肉表面の焼きはほとんどの家庭で足りていません。重要なのは焼き目をつけるだけでなく、焼き目を重ねること。これだけで香りと味が変わります。内部には好みに応じて熱を加えますが、フライパンを濡れ布巾で冷ますレシピも現代には合っていない。でも脂身には熱を加えたい。生の脂身はちょっと食べられないですよね」

つまり目標は『表面にきっちり焼き目が入り』、『内部は好みの加減で火が入り』、『余計な脂っぽさを感じない』仕上がり。

「もっと言うと、塩を振るタイミングとか、肉を常温に戻す・戻さないという話は一般家庭で気にする必要はありません」

肉を常温に戻すという話はよく聞きますし、塩を振るタイミングもこだわったほうが……。

「それはプロのシェフや上級者が、より精妙な焼き加減を狙うときの話。常温に戻したり、塩を振る・振らないという話は後回しで⼤丈夫です!! まず覚えたいのが次の4つのポイントです」

おいしいステーキを焼くための四か条:一,肉は厚さで買う。面積にこだわらない。 二,脂身と⾚⾝では熱の加え⽅を変える。 三,フライパンでの焼きは高温・短時間で焼き目を重ねる。 四,肉はフライパンからはがして休ませる。その間に内部に熱を加える。

それではひとつひとつ詳しく解説をしてもらいましょう。

一,肉は厚さで買う。面積にこだわらない。 一,肉は厚さで買う。面積にこだわらない。

えっ。大きいほうが豪華に見えるんですが……。

「それはスーパーなど売る側の理屈です(笑)。料理する人がコントロールできるおいしさは面積ではなく、厚さに由来します。『表面積が大きいステーキ』より『分厚いステーキ』のほうがおいしく焼きやすい。目安の厚さは最低2cm、3cmくらいあってもいい。一般にスーパーで売っている厚さ1cmくらいの"ステーキ肉"はプロの肉焼きシェフでも難色を示す、難しい肉なのです」

でも、近所のスーパーでは2cm以上の肉なんて見たことがないような気がします……。

「精肉店やバックヤードで肉をカットする店なら、指定した厚さでカットしてくれますよ。最近では、厚切りのステーキ肉を置く店も増えましたから、以前より厚いステーキ肉も手に入りやすくなっています」

なるほど! それでは次に行きましょう!

二,脂身と赤身では熱の加え⽅を変える。 二,脂身と赤身では熱の加え⽅を変える。

脂⾝と⾚⾝では熱の加え⽅を変える。
これはいったいどういうことですか?

「脂身は一定の加熱があってこそおいしくなります。和牛の霜降りのようなサシならまだしも、ステーキ肉のまとまった塊の脂なんて誰も食べたくありませんよね。だから脂身の塊部分は、最初にしっかり加熱して『おいしい脂身』を作っておくんです」

余計な脂を抜きながら焼き目をつける、ということ?

「もうひとつ理由はあります。例えばサーロインなら赤身と脂身の間にある『スジ』は、おいしさに関与する成分が含まれる“味わい”のもと。一定の熱を加えたスジを噛み込んでいくと、濃厚なうまみがどんどんあふれてくる。脂身を焼くことで、スジの味わいを引き出しておくのも、ステーキを焼く上でとても大切なことなのです」

三,フライパンでの焼きは高温・短時間で焼き目を重ねる。 三,フライパンでの焼きは高温・短時間で焼き目を重ねる。

そしていよいよ焼きですね!

「焼きで目指すのは、表面に香ばしい焼き目をつけることと、内部を狙った温度帯まで引き上げること。焼き目の香ばしさは、科学的にはメイラード反応と呼びますが、あの香りこそがステーキらしさの源です。ただ厚さ2cm程度の⾁に一回の焼きで焼き目をつけようとすると、表面に近い内部に火が入りすぎる上に、芯の部分は冷たいままということになりかねません」

それは「レア」とは違うんですか?

「『レア』は生とは違います。『レア』とは芯まで温まった状態を指します。いくら外がこんがりと焼けていても、中が冷たい状態では『牛のたたき』。ひと噛みしたときに、焼き目の香ばしさの奥から、温められた赤身と脂が一体となった味わいがステーキの醍醐味です。『温めながらも肉汁を逃さない』状態を目指しながら、表には香ばしい焼き目を重ねる。それがステーキを焼くということの真髄なのです」

その「温めながらも肉汁を逃さない」工夫が、次のメソッドにつながるわけですね!

四,肉はフライパンからはがして休ませる。その間に内部に熱を加える。 四,肉はフライパンからはがして休ませる。その間に内部に熱を加える。

「そうです。肉の内部に熱を伝える熱源は焼いた肉の表面です。フライパンでこんがり焼かれた肉表面の温度を熱源として、徐々に肉全体を温めていく。いっぺんに熱を入れようとすると、全体が温まる前に表面は焦げてしまいます」

さらにこの数十年で、樹脂加工フライパンが流行し、定着したことで作り方にも変化が見えたという。

「例えば昔、熱伝導のいい鉄製のフライパンが全盛だった頃は『濡れ布巾』レシピも有効でした。でも樹脂加工フライパンは熱伝導率が悪い。温まるのも遅ければ冷めるのにも時間がかかる。濡れ布巾の上に焼けたフライパンを置いても温度は下がらず、肉にはどんどん熱が加わってしまう。表面に焼き目がついたらフライパンからはがすのが一番間違いありません」

そうえいばフレンチのシェフが店でステーキを焼くとき、肉をフライパンとオーブンの間を往復させたりすると聞きました。

「プロでもステーキにはそこまでの手をかけるんです。ごちそうには一定の手間はかかるもの。しかも他の洋食メニューに比べれば、これでも手間は少ないですよね。真剣に向き合いさえすれば、きちんとおいしくなるのもステーキのいいところ。ぜひ一度、真剣に肉焼きに取り組んでみてください。きっと人生が変わります」

食のコラム一覧へ