対談篇 前篇匠の心、エンジニアの魂
継承と進化の物語
「眞窯」の美しい器が並ぶギャラリーにて、
同社・加藤真雪さんと三菱電機・澤部健司の対談を行いました。
“好き”を貫いた先に新たな道が拓ける
加藤さんが家業である「眞窯」の四代目となった経緯をお聞かせください。
もともと家業を継ぐ気は全くありませんでした。ただ、食器は好きだったので大学卒業後は食器の卸販売をしている会社に就職しました。仕事を通じて日本の他の産地の焼き物やヨーロッパ、中国などの焼き物をたくさん目にする中で、「やはり、うちの焼き物っていいな」と少しずつ再認識するようになったのがきっかけです。染付けは白地に藍色の絵の具で発色させるのが定番で、窯元さんによってさまざまな色合いやデザインがあります。その中でも「眞窯」はオリジナリティがあっていいなと。それから多治見にある陶磁器の研究所へ通い、2011年に職人として働きはじめました。
「染付窯屋」という屋号について教えてください。
祖父の時代は、瀬戸染付焼が国から伝統的工芸品に指定されていませんでした。1997年に指定を受けたタイミングで、父が染付焼に注力しようという想いを込めて白地に青い染付けをする窯元であることを意味する「染付窯屋」という屋号に変えました。爽やかな染付けの青と白の焼き物を盛り上げ、多くの方に使っていただきたいという気持ちも込めています。
澤部さんが三菱電機に入社した経緯をお聞かせいただけますか。
大学では熱工学を専攻していました。省エネに関する研究をしていたので、省エネの製品や技術に関心があり、空調や換気送風機の事業を行っている企業として三菱電機を知りました。それと、学生時代は趣味の釣りに使うルアーを手作りするほど、ものを作るのが好きだったので、もの作りができて最終製品を手がける仕事がしたいという思いが強かったです。その中で環境貢献型製品を開発している中津川製作所に興味を持ち、製品開発に携われることや知識が活かせると思い入社しました。配属されてからジェットタオルを担当して20年になります。
世界初の技術を
お客様の声で研ぎ澄ます
ハンドドライヤーは誰もが使ったことがあると思いますが、三菱電機のジェットタオルはどのような商品かご説明いただけますか。
ハンドドライヤーは欧米で古い歴史があるものですが、三菱電機のジェットタオルは、手のひらと甲の両側から同時に高速気流が噴き出す世界で初めての製品として1993年に誕生しました。当時、中津川製作所で開発していた高出力のブラシレスモーターを活かして、何か新しい商品を生み出せないか検討が進められていたんです。初号機を発売してからは、省エネ性の向上やコンパクト化、乾燥時間の短縮、騒音の低減などの進化を続けてきました。
中津川製作所での業務内容を教えてください。
開発部門の主任として、ジェットタオルの企画、開発、設計を取りまとめています。商品企画ではジェットタオルを設置していただいている企業様、建物オーナー様や、実際に使用されるお客様のニーズや困りごとを収集・ヒアリングしてコンセプトを考えます。
建物のオーナーさんの意見と、使う人の意見は違うのでしょうか?
全然違いますね。実際に使用されるお客様の多くは早く乾くことを重視されます。使いやすさも大切な機能ですので、手を入れる部分は手を入れやすいように丸みを帯びて優しい形状にするなどの配慮もしています。そのあたりは磁器と似ていますね。一方で、オーナー様は静音性や、掃除する箇所を少なくして手間を減らしたいというご要望が多いです。
オーナー様やお客様の意見をもとに、デザイン開発もされているのですね。
はい、三菱電機のデザイン部門を統括する統合デザイン研究所と一緒に、商品のコンセプトや市場のニーズなどを考慮しながらデザイン作業を行います。このミニチュアのモック(試作模型)は海外向けの製品ですが、仕上がり感を立体的に確認するために製作したものです。さらに、風が噴き出す手挿入部の形状は空気の流れを可視化するシミュレーションを行なって理想の形を追求していきます。
形と言えば、先ほど工房で染付焼の型に興味をもたれていました。
我々も量産段階では金型を製作するので、素材こそ違いますが磁器と同じですね。プラスチックの部品であれば樹脂を型の中に流し込んで作っていきます。石膏の型をつかって泥しょうの水分を吸収して成形する製造方法にはおどろきました。
シミュレーションを繰り返して
理想の形を追求していく
シミュレーションを
繰り返して
理想の形を追求していく
工芸品と工業製品に
通底する継承の知恵
ジェットタオルのアピールポイントはどこになりますか?
1番はこの形状です。両側面から手を入れられる「サイドオープン設計」ですね。
手を本体の横から差し入れられるんですね。
はい、1993年に誕生してからこのコンセプトは変わっていないです。上から手を入れる構造だと、風で弾いた水が使っている人へ飛びやすくなりますが、横から手を入れて上に抜くと水が飛びにくいですし、使い勝手も良いんです。さらに、横が空いていると掃除がしやすいというメリットもあります。
この形状がジェットタオルのアイデンティティなんですね。
ジェットタオル31年の歴史の中で、この形状に拘り続け、先人のエンジニアの方々が蓄積したものを、今我々がさらに進化させているところです。実は、風量、音、乾きやすさなどのバランスを取るのが非常に難しい形状なんですが。
うちの器はよく「モダンですね」と言われますが、30~50年近く作り続けているものもあります。父や母が昔デザインしたものをベースに、私が文様の種類を増やすなど新しいアレンジを加えているので、先人の方々が残したものを進化させるというところに共感しました。
- 取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
- 2024.10.09