
対談篇 前篇異なる領域を超えて共鳴する
ものづくりの系譜
ALARTの美しい花器やアクセサリーが並ぶギャラリーにて、
丸信金属工業・千田真大さんと三菱電機・稲村聡の対談を行いました。




職人とエンジニア
それぞれの原点
千田さんは美容師からアルミ染色の職人になられました。そのきっかけは何だったのでしょうか。
最初は仕事として興味を持ったわけではなく、知人の町工場を手伝ったのがきっかけでした。ものづくりに関わる中で、自分の手を動かして形にする楽しさを知り、2012年に丸信金属工業へ入社しました。入社後はスポット溶接や組み立てを担当していましたが、染色の方も少しずつ始めまして。とあるファッションメーカーがOEMとしてアクセサリーや指輪を作ることになり、そこから自分が専業として染色を担当するようになりました。美容師の仕事では、髪の質感や色合いを調整する感覚が求められましたが、それがアルミの染色にも活きるとは思ってもみませんでした。
髪と金属では全然違うように思えますが、実は共通点も多いのです。髪質や染料の性質によって仕上がりが変わるのと同じように、金属の表面状態や染料の種類が仕上がりを大きく左右します。

具体的に、髪のカラーリングとアルミ染色の似ている点はどういった部分でしょうか?
髪も金属も、表面の状態が染料の浸透に大きく影響します。例えば、髪は太さや毛質によって染まり具合が変わりますが、金属も同じで、酸化被膜の厚みや表面処理の方法によって、染色の仕上がりが変わるのです。その違いを見極めるのが重要ですね。

稲村さんが三菱電機に入社された理由をお聞かせいただけますか。
大学で専攻していた、流体力学の知識を製品開発に活かせる仕事に就きたかったのと、日常生活に大きな影響を与える製品開発に携わりたかったのが大きな理由です。給湯に必要なエネルギーは、家庭で使用されるエネルギーの約3割を占めるため、日常生活に大きな影響があると考えていました。それと、働きやすい職場環境だったことも理由のひとつです。就職活動を進める中で、実際に働いている方と対話できる機会があり、働いている様子や人柄に触れる中で働きやすいと感じ、ご縁をいただき2014年に入社しました。
入社後はエコキュートの設計を担当されていたとお聞きしています。
はい、群馬製作所の設計課へ配属となり、三菱 エコキュートのシステム設計や構成する機能部品の開発を担当していました。例えば、お風呂のお湯を除菌*する「キラリユキープPLUS」の部品などです。その後、2024年に静岡製作所の給湯品質管理課へ異動となり、三菱 エコキュートの開発評価のユニットリーダーを担当しています。
*コンパクト エコキュートを除く。
*すべての菌に効果があるわけではありません。
*他の機能が動いている時は、深紫外線の照射を止めることがあります。
*キラリユキープPLUS機能停止後は菌が増殖します。
三菱 エコキュートの特長について教えてください。
ひとつは先ほど言った清潔機能です。「キラリユキープPLUS」は、お湯の循環経路の中に深紫外線を連続照射することで、においやにごりを低減させます。翌日まで菌が増えないので、洗濯に使用することもできます。それと、お風呂の配管を約0.1ミリのマイクロバブルで洗浄する「バブルおそうじ」も搭載されています。ふたつ目は快適機能です。「ホットあわー」は、通常の泡の約1/1000のマイクロバブルを発生させ、全身を細かい泡で包んであたためます。
さらに言えば、安心・安全という点です。厳しい基準で評価しているので、災害に強い。三菱 エコキュートはタンクの中にお湯を溜めているので、例えば550リッターであれば、そのお水は災害時に使えるのですが、なかなか取り出しづらい。なので、給湯機のところに「パカっとハンドル」という名前の、取り出しやすいハンドルをつけています。

凄い、エコキュートも進化しているのですね。
実物を持って来ることができたら良かったのですが、ちょっと大きいもので(笑)

三菱電機の中で受け継がれる、ものづくりへの思いや大事にしていることはありますか?
コーポレートステートメントでもある“Changes for the Better”、より良いものに変えてきましょう、変革していきましょうという考えです。給湯機は外から見るとずっと変わらないものに見えますが、中身は常に進化しています。より良いもので、お客様が喜んでもらえるようなものづくりというのが、代々受け継がれているものだと思います。
ずっと変わらないように見えていても、
中身は常に進化している
ずっと変わらないように
見えていても、
中身は常に進化している
使うひとの立場で考える
つくり手の共通言語
日々、ものづくりに携わる中でお二人が心がけていることは何でしょうか。
エンジニアとしてはやはり、品質を第一にというところです。特に給湯機は毎日お客様が使うものになりますので。あとはどのようなシーンでご使用されるかを想定して、この機能で本当にお客様に満足いただけるのか、という点に気を付けて開発評価を行っています。
同じだと思ったのは、お客様の使う用途やニーズを考えるところです。私の場合、ファッションやアクセサリー系になりますが、アルミに色をつけて、光沢感や質感をどう高めてお客様に満足していただくか。例えば普通のゴールドではなく、薄い黒を少し混ぜることによって上質感を感じていただくような、単純に色を合わせるだけでなく、使用用途に応じて少しアレンジを加えることを大切にしています。
お客様から直接ご意見をいただく際に、自分の開発した製品が「これ良かったよ」と言っていただけると、本当に嬉しいです。
そうですよね。私もギフトショーなどの展示会に赴き、お客様との接点を設けるようにしています。グラデーションに染めたアルミを見て、皆さんが「どうやって染めるのか」と驚かれるのが毎回楽しみです(笑)

丸信金属工業とファッションデザイナー松尾加菜子が立ち上げたアルミニウムジュエリーブランド「KALNAM」の作品
- 取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
- 2025.04.01