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量子デバイス

実用化への鍵を握る「マイクロ波集積デバイス技術」

従来のコンピューターを超える計算能力により実社会の問題を解決することが期待される誤り耐性型汎用量子コンピューターの実現には、100万個規模の物理的な量子ビットを実装する必要があるとされています。

超伝導型やシリコン型の量子コンピューターではマイクロ波を活用して量子ビットの制御や読み出しを行っているため、「マイクロ波集積デバイス技術」の進化が量子コンピューターの実用化の鍵となります。

三菱電機では、通信装置やセンサ装置の開発でこれまでに培ったマイクロ波の制御技術、送受信アーキテクチャ技術、デバイス技術を活用し、社外の研究機関、大学、企業と連携しながら、実用的な量子コンピューター実現への貢献を目指します。

「高周波回路一体型シリコン量子ドット」を共同開発

量子コンピューターの早期実現に向けて、高速・高精度な量子状態の読出しを可能とする「高周波回路一体型シリコン量子ドット」を開発しました(研究開発成果[1])。三菱電機技報でも紹介しています。
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2025/2501.pdf
量子コンピューターは、量子ビットと呼ばれる量子情報の最小単位を用いて計算を行います。特に集積化に適したシリコン量子ドット中の電子スピンの向き(スピン量子ビット)を利用することにより、実用的な量子コンピューターに最低限必要とされる数百万規模の量子ビット配列が可能となるため、将来の超高速な量子計算の実現が期待されます。

一方、従来はスピン量子ビットの近傍に配置した電荷センサの直流電流測定により量子状態を読み出していましたが、高速・高精度化が課題でした。今回、東京科学大学とともに、電荷センサに独自の高周波回路を接続した「高周波回路一体型シリコン量子ドット」を開発しました。

開発したシリコン量子ドットでは、新たな測定方式である高周波回路を介したマイクロ波反射測定により、高速に量子状態を読み出すことが可能です。また、高周波回路には直列インダクタと並列インダクタを組み合わせた独自の回路構成を採用することにより、高精度な読み出しを可能とする広帯域な反射特性を実現しました。

シミュレーションの結果、従来と同等の精度を保ちつつ、量子状態の読み出し時間を40%程度削減できる見込みが得られ、今後は評価による検証を行う予定です。

高速・高精度な実験を可能にする「半導体量子ビット制御技術」

東北大学 電気通信研究所 大塚研究室との共同研究により、「半導体量子ビットの制御技術」を開発しています。電波周波数(Radio Frequency, RF)帯のアナログ信号の入出力用回路であるアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter, ADC)およびデジタルアナログ変換器(Digital-to-Analog Converter, DAC)とデジタル処理回路であるField Programmable Gate Array(FPGA)とが集積化されたRF System on Chip(RFSoC)を用い、量子状態測定/制御に用いるマイクロ波反射測定を高速・高精度に行う実験環境を整備しました(研究開発成果[2-4])。

これにより、個別部品や測定器を用いた従来の実験系に比べて高速・高精度な実験が可能となりました。

今回、構築したシステムにより開発したデバイスの評価を高効率に行うことができるようになりました。今後、量子状態の測定結果に基づく量子状態制御をRFSoCに閉じて行うことで、量子コンピューターとしての挙動の確認も行っていきます。

研究開発成果

  1. [1](デバイス・論文)J. Kamioka, R. Matsuda, R. Mizokuchi, J. Yoneda, and T. Kodera, “Evaluation of a physically defined silicon quantum dot for design of matching circuit for RF reflectometry charge sensing,” AIP Advances, March 2023.
  2. [2](制御システム・国内発表)篠﨑 基矢, 上面 友也, 保坂 有杜, 瀬尾 拓未, 八島 俊介, 白地 昭豊鏡, 野呂 康介, 佐藤 彰一, 熊坂 武志, 吉田 剛, 大塚 朋廣, "RFSoCを用いた半導体量子デバイス高周波反射測定系の構築, " 日本物理学会, 2024年9月.
  3. [3](制御システム・国際会議)Motoya Shinozaki, Tomoya Johmen, Aruto Hosaka, Takumi Seo, Shunsuke Yashima, Akitomi Shirachi, Kosuke Noro, Shoichi Sato, Takeshi Kumasaka, Tsuyoshi Yoshida, and Tomohiro Otsuka, “Radio-frequency reflectometry of bilayer graphene quantum devices using RFSoC platform,” the Symposium for the Core Research Clusters for Materials Science and Spintronics and the Symposium on International Joint Graduate Programs in Materials Science and Spintronics, November 2024.
  4. [4](制御システム・プレプリント)Motoya Shinozaki, Tomoya Johmen, Aruto Hosaka, Takumi Seo, Shunsuke Yashima, Akitomi Shirachi, Kosuke Noro, Shoichi Sato, Takashi Kumasaka, Tsuyoshi Yoshida, and Tomohiro Otsuka, “RFSoC-based radio-frequency reflectometry in gate-defined bilayer graphene quantum device,” arXiv, February 2025.