より安全に、より快適に、絶え間ない進化を
続けてきた三菱エレベーター「AXIEZ」。
東京2020オリンピック・パラリンピックまであと3年。
三菱電機では、海を渡って訪れる多くの
外国の方々へより上質な移動空間を提供するため、
AXIEZに新たな価値をプラスした。
それが、日本ならではの
ホスピタリティ=おもてなしの具現化。
社会のなかで縦の動線を司るエレベーター。
その随所に盛り込まれた、
乗る人をもてなすための工夫とは─。
4人の開発メンバーが、新AXIEZの開発秘話を語る。
-
2020年の"東京"を見据えて
新しい「AXIEZ」が掲げる"おもてなし"のコンセプトには3本の柱がある。そのひとつが「Comfort」。乗車人員が定員未満の場合や誰も乗っていないときにスピードアップし、待ち時間を短縮する『スーパー可変速システム』を採用(有償付加仕様)。これにより、平均速度が最大47%向上するとともに、待ち時間は最大22%、乗車時間は最大33%短縮することを可能にした。
もうひとつが「Ecology」。毎日乗るものだからこそエコもおもてなしの一環と捉え、天井をはじめ全照明のLED化を実現。さらには、かご室とおもりのバランスを最適化し、待機時のムダな電力をカットすることで、基本仕様で最大20%(従来比)の省エネを達成している。
そして、AXIEZに盛り込まれた"おもてなし"のハイライトともいえるのが「Universal Design」だ。建築業界をはじめ多くの世界に根付いている"誰でもわかりやすく、誰でも使いやすく"というユニバーサルデザインの概念を、エレベーターでどのように具現化したのか。まずは、プロジェクトの取りまとめ役を担った中野に開発の経緯を聞いた。
スピード感を持って
取り組んだ
プロジェクト三菱電機(株)開発部
インタフェース開発課中野 雄介
「2011年に現行のAXIEZがリリースされてから5年が経過した昨年の夏、そろそろリニューアルの時期なのではないかという話が持ち上がったんです。ちょうど昨年2月に三菱電機はエレベーターカテゴリにおけるオフィシャルパートナーとして東京2020スポンサーシップ契約を締結させていただきましたので、この2020年に向けて何かできないかと。そこで、開発方針に定めたのが日本を象徴するホスピタリティ=おもてなしでした」。
2016年11月に固まった"エレベーターにおもてなしの心を"というコンセプト。リリース予定は2017年6月。限られた時間のなかでできることは何かを模索したプロジェクトチームは、前述の通り大きく3つの柱を打ち立てた。このうち、待ち時間を短縮する「Comfort」と省エネ性を高める「Ecology」に関してはこれまでも常に取り組んできた課題であり、業界をリードする三菱電機の得意分野ともいえる領域。
一方で"おもてなし"の核を成す「Universal Design」については、社内はおろか業界でも初の試みに挑んだ。それが、アナウンスとインジケーター表示の4言語化である。この開発を担当した久保山に、その概要を聞いた。
Universal DesignAXIEZは誰にでもやさしい
エレベーターをめざしてカラーユニバーサルデザイン認証を取得基本仕様
この「三菱機械室レス・エレベーター AXIEZ」は色覚の個人差を問わず、より多くの人に見やすいカラーユニバーサルデザインに配慮して作られていると、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構により認証されています。
色弱者の方でも見やすい
液晶インジケーター目の不自由な方でも
押しやすい凸文字ボタン4ヵ国語ガイドによるアナウンスと液晶インジケーター基本仕様
通常時
アナウンス2ヵ国語:日本語→英語
液晶インジケーター2ヵ国語:日本語・英語を同一画面にて表示
通常時
通常時
緊急時
アナウンス4ヵ国語:日本語→英語→中国語→韓国語
液晶インジケーター4ヵ国語:日本語・英語→中国語(簡体字・繁体字)・韓国語を3秒間で画面切替えて表示
緊急時
緊急時
- ※多くの方が見やすいように、インターホンボタン、開くボタン、かご内液晶インジケーターの色に対して、カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)の認証を取得しています。
- ※ボタンおよび液晶インジケーターは、屋内におけるエレベーターを基準として、周囲照度600Lx以下(10Lx~600Lx)での使用に限定。
- ※インターホンボタンは、聴覚障がい者対応仕様を除く。
-
ストップウォッチを手に検証
ビル全体のなかで
昇降機に
求められるものとは三菱電機(株)開発部
管理システム開発課久保山 祐紀
「通常時の"ドアが閉まります"というようなアナウンスとインジケーター表示は日本語と英語の2カ国語で、地震など緊急時は中国語と韓国語を加えた4カ国語でアナウンスおよび表示をします。ちなみに、4カ国語でのインジケーター表示は日本語・英語→中国語・韓国語の順で3秒おきに切り替わります」。
4カ国語でのアナウンスやインジケーター表示は、決して技術的に難しいことではない。しかし「ただアナウンスするだけ、ただ表示するだけ」では、肝心の"おもてなし"にはならないのだ。久保山が苦心したこととは─。
「最も頭を悩ませたのは、緊急時にどんな言葉でアナウンスするかということでした。エレベーターの動きに合わせてアナウンスを開始し、4言語分すべてを伝えなければならない一方、シンプルかつ乗客が聞き取りやすい音声・速さでなければ意味がありません。録音した音声を早送りで流してみてはどうかという検証もしましたが、結果はNGでした」。
緊急時にしっかりと内容を把握できる言葉で、かつムダを削ぎ落としつつ、日本語から韓国語までの4カ国語をアナウンスし終える。それを実現するため、久保山はストップウォッチを手にエレベーターと向き合った。
「エレベーターの動作に合わせて適切なタイミングと長さでアナウンスするために、秒単位での検証が求められました。また、インジケーターの表示ともリンクさせる必要があります。"限られた時間内で、いかに正確かつわかりやすく伝えるか"という点に、最も苦労しました」。
4カ国ガイドに加え、ユニバーサルデザインのもうひとつのトピックが、目の不自由な方への配慮。新しいAXIEZは「NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構」の認証を取得。色覚の個人差を問わず、多くの人に見やすく使いやすいと認められている。たとえば、色弱者の方でも見やすい液晶インジケーター。視認性の高い表示と矢印のアニメーションで、エレベーターの動きをわかりやすく伝える。同様にSOSボタンも色弱者の方が黒に見えてしまうという濃い赤から朱色に近い赤に改めた。また、文字に凹凸を設け指先で数字を認識することができる行先階ボタンも、従来から受け継がれている。このようなきめ細やかな心配りも、中野の言う「日本を象徴するホスピタリティ=おもてなし」なのである。
そんなAXIEZの"おもてなし"のコンセプトは、かご室の内装にも及んでいる。注目していただきたいのは、色鮮やかなカラーリングを基本仕様に加えた塗装色。プロジェクトの意匠面を担った石田に解説してもらおう。
三菱らしさを
デザインで
表現できる技術者に三菱電機(株)開発部
意匠開発課石田 敬
「これまで、基本仕様のカラーといえばベージュ系やニュートラル系のシンプルな色合いに限定されていました。今回はここに、ライムグリーン、ライトグレイッシュブルー、キャロットオレンジという3色のカラー系と、ダークグレイッシュベージュという濃いベージュを加えました。施主様の好みに応じて、より幅広い選択肢のなかからお選びいただけるようになっています」。
4色のカラーを選んだ理由を、石田は「建築業界の流行とのマッチングを図るため」と言う。AXIEZの基本仕様に新たなカラーを加えることが決まった瞬間から、国内外の膨大な建築関係の雑誌や資料に目を通したという石田。「今の時代にマッチするのはこの色に間違いない」と確信を得たのだとか。
また、木目調などの面材をかご室のアクセントパネルとして選べるようになったこともAXIEZの新しい魅力だ。
「市場調査の結果、素材感のあるデザインに注目が集まっていることがわかりました。そこで、木目調などのシート材を正面壁に使用し、両側面壁と素材を変えることで、シートの素材感が際立つデザインを考えたのです。さらにオプションのプレミアムウォールでは、立体的な縫製で生地に厚みをもたせ、より深みのある内装が演出できるようになりました」。
-
ワクワクするエレベーターを
開発方針の決定からリリースまでわずか半年というスパンで、技術者の“おもてなしの心”がぎっしりつまった新AXIEZは完成した。日ごろから営業サイドと開発サイドとの橋渡しとなり、当プロジェクトにおいてもその一部始終を見守り続けてきた谷口は、感慨深げにこう振り返る。
技術者たちの
熱い想いを
お客様へPRしたい三菱電機(株)技術部
エレベーター設計課谷口 愛弓
「いつもマーケティングやヘルプデスクなどを通じてさまざまなお客様のご要望を伺っているのですが、今回のAXIEZは時代のニーズに応じたものになっており、営業サイドとしてもお客様へ提案しやすいものになったのではないでしょうか。この新しいAXIEZに国内外のたくさんの人が乗ることを楽しみにしています」。
最後に、4名の開発メンバーひとりひとりに、今回のプロジェクトを通じて得たものを語ってもらった。
- 中野:
- このようなプロジェクトの取りまとめ役を任されるのは初めての経験でしたし、限られた短い期間での開発ということもあり、最初はプレッシャーを感じていました。しかし、プロジェクトに関わったすべての人間の頑張りにより、スピード感を持って仕事に取り組むことができました。この成功を自信に変えて、新たな開発に取り組んでいきたいと考えています。
- 石田:
- 意匠面で新たな試みを取り入れるなかで、個人的に「やっぱり乗っていてワクワクするようなエレベーターがいいな」とあらためて感じました。これからも“三菱らしさとは何か”を常に考え、それをデザインで表現できるような技術者になれたらうれしいですね。
- 久保山:
- 今回の開発で学んだのは、お客様の立場で製品と向き合って開発に臨むことの大切さです。また、エレベーターを利用される方へ快適な移動空間を提供するには、エレベーター単体ではなくビル全体を考えなければいけないと学べたことも大きな収穫でした。「ビル全体のなかでエレベーターに求められるものは何か」に目を向けることは、さらなる“おもてなし”を追求するうえで非常に重要。これを今後の開発における指標の一つにしていきたいと考えています。
- 谷口:
- 製品はリリースされましたが、私たちの仕事はまだ終わっていません。お客様への出荷体制が整うまでは、走り続けなければいけないと思っています。そしてこれからの私の仕事は、ここにいる3人をはじめとする技術者たちのエレベーターに対する熱い想いをしっかりとPRすること。お客様から「こんなところにこだわってるんだ!」と驚いていただけたら最高ですね。
当ページでご紹介した「ミッション遂行の軌跡」は
情報誌eleVol.16に掲載されています。
情報誌ele、は昇降機に関する情報から話題の
コンテンツまで多彩な情報を盛り込んでご紹介しています。
ぜひこちらからご覧ください。