スマートフォンがますます高機能になり、
数年前には考えられなかったほどの
利便性を手中に収めている私たち。
そして今、ビル設備のマネジメントも
いよいよ"スマート化"しようとしている。
それを実現するのが、
2017年11月に販売を開始した
三菱ビル統合ソリューション
『BuilUnity(ビルユニティー)』。
立場や部門の垣根を超え、
三菱電機がまさに一丸となって開発した
まったく新しいソリューションの開発秘話を、
4人のキーマンが振り返る。
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必ずそこに需要はある
「外出先からでもビルの状況を知りたい」「複数のビルを一元管理したい」というビルオーナーの願い。「いつでもビル設備の異常を知らせてほしい」「電気の消し忘れなどを見回る手間を省きたい」という管理者の想い。そして「営業時間に合わせて空調や照明を設定してほしい」「入退室データをタイムカード代わりに使いたい」という利用者の要望。三菱電機のビルマネジメントシステム部門には、かねてよりビルを取り巻く関係者からのさまざまな声が届いていた。そんな願い、想い、要望に応えるため、稲沢製作所のビルマネジメントシステム部において"ビル設備の統合管理"というコンセプトを立ち上げたのが2015年4月。三菱ビル統合ソリューション『ビルユニティー』のプロジェクトが産声をあげた。その背景を、プロジェクトリーダーを務めた柴が振り返る。
「大規模なビルでは設備監視や入退室管理、カメラの映像監視などを行うシステムが普及していますが、中小規模のビルではあまり普及していません。その理由として、5000m2ほどのビルであればそれぞれのシステムを導入する必要性がさほど大きくなく、また、そこに投入するコストもなかなか捻出できないという事情があります。そうであるならば、この設備監視・制御、入退室管理、映像監視の管理システムをパッケージングし、中小規模のビルに低コストかつ手軽に導入していただこうというのがビルユニティーのスタートラインでした」。
管理者が常駐しない
中小規模のビルに最適三菱電機(株)稲沢製作所
ビルマネジメントシステム部
ソリューション設計課柴 昇司
三菱電機の調査によると、大規模ビルではこれらの管理システムがほとんど導入されている一方で、中小規模のビルでは5%にも満たないことがわかっていた。必ずそこに需要はある──そう判断した開発チームは、柴の言う"5000m2までのビル"をターゲットに定め、開発に臨んだ。
ここで、今回のプロジェクトのために三菱電機ビルテクノサービスから三菱電機の稲沢製作所へ出向し、システム設計を担当した南田にビルユニティーの特長と強みを説明してもらおう。
「ひとつは、従来は個別のシステムで管理していた設備監視・制御と、入退室管理・映像監視などのセキュリティーシステムを1台のコントローラーで一括管理することができ、各設備の状態確認や運転切替・設定変更などをパソコンで簡単に行うことができること。もうひとつは、フレキシブルな拡張性。当初は設備監視のみを導入し、その後、必要に応じて入退室管理機能や映像監視機能を追加することができるため、ビルオーナー様は利用状況に合わせてムダなく機能を拡充することができます。さらに、ビルユニティーはクラウドサービスを利用していることから、いつでもどこでもスマホやタブレットで複数ビルの設備の警報や状態を一覧で確認することができるばかりか、ビル設備の異常や不正操作・侵入などによる警報をメールでタイムリーに得ることができます」。
BuilUnityビルユニティー
ビルの設備をスマートに統合し、効率的かつ迅速な管理を実現。
1台のコントローラーで設備監視・制御と入退室管理や映像監視などセキュリティーの一括管理を実現するビルユニティー。クラウドサービスによりどこからでもスマートフォンやタブレットでビル設備の確認・制御が行うことができるほか、ビルの利用状況に合わせた機能の追加・変更が可能です。
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展示会で確かな手応えを
ビルユニティーを新しいビジネスモデルにするべく、市場からの要求を開発サイドへ伝える橋渡し役となった勝山は、製品としてお客様へ販売する立場からビルユニティーの強みをこのように語る。
「スマホやタブレットで、誰でも簡単に操作・設定できることが画期的と考えています。これまでのようにシステムの専門家でなければわからないツールではなく、システムに詳しくないビルオーナー様が自分のスマホでシステムとつながり、複数のビルの状況を手元で知り、さらには制御することができる。非常に画期的なシステムと言えるでしょう」。
スマホで操作できるようにしたのは、勝山がお客様からいただいたこんな言葉も理由のひとつだった。
「ビルユニティーにはエレベーターとの連携機能も搭載されていますので、あるとき昇降機の代特店を訪ねて製品の説明をさせていただきました。すると、担当の方から『正直、売る気になれない』と言われてしまった。理由は『我々はシステム屋ではないので、管理パソコンでこういう操作をしてください、こういう設定をしてくださいと細かいことを言われても簡単にできるものではない。誰もが操作しやすいものでなければ、お客様に提案することは難しい』というものでした。なるほどと。さまざまな設備が稼働している現場では、三菱電機ビルテクノサービスのフィールドエンジニア以外の人が緊急対応することもあります。そのときに使えないものでは意味がありません。だからこそ、わかりやすいユーザーインターフェースでさまざまな設備と連動できるよう、スマホで誰でも操作できるような製品が求められたのです」。
カタログの内容にも
とことんこだわって三菱電機(株)ビル事業部
ビル統合ソリューション企画部 事業推進課梅田 祐貴
1台のスマホで複数のビルを一元管理──。このインパクトは、市場においても絶大だった。入社1年目でこのプロジェクトのプロモーション担当という大役を任された梅田は、展示会でのお客様からの反応に確かな手応えを感じた。
「展示会ではビル設備の統合管理やクラウドサービスの導入など、ビルユニティーの基本的な機能を説明させていただいたのですが、やはりスマホで遠隔地から確認・操作できることに多くの方が驚かれていたことが印象に残っています。さらに、スマホの画面の視認性の高さや操作性の良さも高く評価され、ビルユニティーに対する自信を深めることができました。また、スマホで操作できる範囲が広いことも注目が集まったポイントです。たとえば、エアコンの制御に関しては電源のオン・オフだけでなく温度設定や運転モードの変更まで行うことができますので、みなさん『ここまでできるのか』と目を見張っていました」。
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部門間の垣根を超えるなか
三菱電機の
各部門を
連結させる
きっかけに三菱電機(株)ビル事業部
ビル計画部
ビルマネジメントシステム企画課勝山 賀孔
市場からの期待に応えるだけでなく期待を超える機能を実現し、展示会でも上々の評価をうけたビルユニティー。しかし、コンセプトが具現化されるまでの道のりは決して平坦ではなかった。開発サイドで社内外合わせて約40名、事業部サイドで約20名にのぼったメンバーのなかでも、プロジェクトリーダーの柴は最も苦労した一人といえるかもしれない。
「システム構成図(ページ下部の図版参照)をご覧いただければわかる通り、ビルユニティーで管理できる設備には非常に多くの機器が含まれます。これは、三菱電機社内において、このプロジェクトに関わる部門が多岐にわたることを意味しているのです。部門間の垣根を超えて機能を統合するというプロジェクトは経験したことがありませんでしたので、それを取りまとめることに当初は苦労しました。それぞれの機能を、それぞれが知っていなければいけない──つまり、専門外の技術への理解が求められるわけです。まったく違う部門の技術者が一緒に取り組むことは、想像以上に難しいなと」。
勝山が頷きながらこう続ける。
「これまでにないソリューションですので、部門ごとにやりたいこと、使いたいものがいろいろとあるわけです。その"想い"のベクトルを合わせることが、私にとって最初の仕事だったといえるかもしれません。序盤はそれが思うようにいかず、事業企画書の改訂もゆうに10回を越えました。ある程度ビルユニティーの全体像が見えてきて、稲沢製作所とのコンセンサスが取れたときは心底ホッとしたことを覚えています」。
スマホひとつで
誰でも簡単に
使えるように三菱電機(株)稲沢製作所
ビルマネジメントシステム部
ソリューション設計課南田 宗佑
技術的な部分での課題も多かった。南田が当初の苦労をこう語る。
「機能を統合するといっても、ただ単にくっ付ければいいというものではありません。たとえば設備の監視とカメラの監視はこれまで別々の画面で確認していましたので、これを同一画面にどうやって映すのか、それとも分けるべきなのかといった議論も重ねました。統合という言葉の聞こえはいいけれども、お客様の使い勝手を考えなければ、それこそ使い物になりません。コンセプトである"統合"という名のもと、この新しいソリューションはどうあるべきなのか。我々開発チームのメンバーをはじめ、現場のSE、さらには三菱電機ビルテクノサービスが一丸となり、お客様にとって使いやすいツールとなるよう取り組みました」。
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スマートで面白いシステム
お客様の使い勝手という面においては、すでに導入されている既存システムとの互換性にも細心の注意を払った。
「新たな顧客を獲得するための新規性も大切ですが、過去に三菱の設備や機器を導入いただいた既存のお客様も守らなければなりません。そして、既存のお客様のビルには、三菱以外の設備も混在しているケースが多々あります。そういった他社製品との互換性を持たせるために、BACnet(バックネット)※を経由することで三菱以外の設備も監視・制御できる仕組みとしました。限られたリソースのなかで、既存の設備を活かしながらビルユニティーをご活用いただけるよう配慮しています」。
と話す柴。「システムは納めてからのお付き合いが大切。納めて終わりではない」という三菱電機のDNAは、ビルユニティーにもしっかりと受け継がれている。 ※BACnet:A Data Communication Protocol for Building Automation and Control Networks。
国内において、ビル設備のサブシステム間の通信として、一般に広く使用されています。ISO国際化標準の規格になっています。ビルユニティーの開発は、3段階のフェーズで進められた。第1フェーズはビル設備の統合。第2フェーズはレコーダーや空調コントローラー、さらには他社の設備との接続。そして最終の第3フェーズはクラウドサービスとの連携であり、その実現は間近に迫っている。
プレスリリースの直後から、ビルユニティーの売り込みに奔走した勝山。市場投入を目前に控え、これまでの反響から確かな手応えを掴んでいる。
「すでに2社が試験的に導入してくださり、ある銀行からは60店舗に導入した際の見積りの依頼も頂戴しています」。
さらに、お客様との会話のなかで自信が確信に変わる言葉を頂戴したという。
「ビルユニティーの概要を説明させていただいたところ『建物の中で動いているのは、照明、空調、昇降機などの設備と人だけ。それらを限られたリソースのなかで統合できることは非常にありがたいし、スマートな感じがしてとても面白い』とおっしゃってくださいました。そのお客様には試験的に導入していただいています。このまったく新しいソリューションが、お客様にとって"面白い"ものになったことを誇りに思います」。
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社内からも大きな反響が
ビルユニティーへの反響は社内からも湧き上がった。プロジェクトリーダーの柴には"身内"からの問い合わせが殺到したという。
「プレスリリースしてからというもの『コントローラーはどんなスペックなのか』『どういうハードウェアを使っているのか』といった内部からの問い合わせが後を絶ちません。三菱電機においても、インパクトの大きなプロジェクトだったということを肌で感じています。開発は2018年に入りいよいよクラウドと連携する段階に突入したわけですが、クラウドのアプリを扱うのは初めてであり、そもそも稲沢製作所のビルマネジメントシステム部門としてスマホを扱うソリューションも初めてですので、当初はまさに"雲を掴む"ような手探りの状態でした。そこから問題を切り分けながらひとつひとつ解決し、着実に完成へと近づいています。本リリースした際は市場からの反響はもちろん、社内からの反響も楽しみですね」。
最後に、4人それぞれのビルユニティーに対する思いと今後のビジョンを語ってもらった。
- 柴:
- 先ほども言いました通り、今までスマホでいろいろなデバイスにつながる商材は三菱電機のビルマネジメントシステム部門にありませんでした。ビルユニティーにより今後はお客様への提案の幅が広がりますし、当社の新たな強みになったと自負しています。今後はASEANを中心とした海外展開も視野に入れていますが、まずは"3年で1000システム"という目標を達成しなければと考えているところです。クラウドサービスは今後ますます注目度が高まると思いますので、それを拡充しながらビルマネジメントシステム部門の主軸を担うような製品にしていきたいと思います。そして、今回の部門の垣根を超えたプロジェクトが、三菱電機グループの総合力をさらに高める礎になれば幸いです。
- 南田:
- 私はこれまで三菱電機ビルテクノサービスで販売や施工の最前線におり、稲沢製作所へ『これをやってほしい、あれもやってほしい』と要望する立場でした。ところが今回、開発部門と同じ立場でプロジェクトに携わらせていただくことで、製作側の事情や立場を理解することができました。この経験は、再び自分が販売・施工する立場に戻ったときの大きな財産になるはずです。『いいものを作りたい』という想いは立場にかかわらず共通していますので、ビルユニティーに限らず、これからも素晴らしい製品をお客様に提案していけたらと思います。
- 梅田:
- 入社1年目からこのようなビッグプロジェクトにかかわらせていただき、貴重な経験を通じて成長できたことをうれしく思います。カタログやウェブサイトの制作では開発者の考えや事業部の意見の取りまとめに苦労したり、訴求ポイントの洗い出しで先輩と揉めたりもしましたが、そうしたやり取りを通じてビルユニティーに対するみなさんの熱い想いを実感することができました。自分の仕事が形になり大きな達成感を味わっているところですが、ここで満足することなく、営業の方がより提案しやすくなるようカタログやウェブサイトも随時見直していきたいと考えています。
- 勝山:
- 社内的にもスマートビルというキーワードが注目されているなか『ビルユニティーなら何かやれるんじゃないか』という期待感をひしひしと感じています。開発にあたっては自部門内での打ち合わせは当然のこと、空調や照明を扱う部門に話を聞いたり、代特店にアドバイスをいただいたりと東奔西走しましたが、まだまだやらなければいけないことがあると感じています。ビルユニティーに対する想いは誰にも負けないと自負していますので、これからも社内外の方々とともに、この製品を使ったソリューションをより大きく育てていきたいと考えています。
当ページでご紹介した「ミッション遂行の軌跡」は
情報誌eleVol.17に掲載されています。
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