FA業界コラム
三菱のサーボが業界最後発からトップクラスにのぼりつめた 理由堤清介氏
2023年2月公開【全3回】
第1回 「オールデジタル」がサーボの可能性を変えた
サーボは装置の主要な駆動部に使われ、その機能や性能が装置の付加価値や生産性を左右します。装置が製造する最終製品も時代とともに変化していくのに連れて、装置に要求される機能や性能も高度化してきました。例えば電子部品の実装機では、スマホなど電子部品を搭載する製品の販売増に加えて1台の製品が搭載する電子部品の増大、さらには小型化の要求も相まって、装置の生産性向上に対する要求はとどまるところを知りません。そのためサーボにも、一層の高速・高精度の位置決めなどを可能にする技術開発が求められています。つまり、装置開発時にはそうした技術開発のニーズに応えられる適切なサーボを選ばなくては、装置の発展も望めないというわけです。
三菱電機が汎用サーボ(NCサーボを除くサーボ)に参入したのは1983年でした。当時既に多くの競合メーカーがサーボを提供しており、当社は実は最後発だったのです。私はその翌年からサーボ開発に取り組んできました。他社に追いつき追い越すために、当社関係者はさまざまな努力を積み重ね、業界に先駆けた技術を多数開発してきました。その結果として、現在のようにお客様から支持をいただけるようになったのです。
ここではお客様からの支持をいただくきっかけとなった特徴的な技術に関して、いくつかその開発経緯などをご紹介します。
装置メーカーの業界トップレベルへの挑戦を後押しした「制振制御」
装置に「振動」は付きものです。振動は、電子部品の実装機のようにミクロン単位の制御が求められる装置には大敵です。以前はこの振動を、機構側で防止するのが一般的でした。しかし振動を抑制するために装置に剛性を持たせようとすると結果的に装置が重たくなり、コストにも影響します。そこで当社は振動を制御する、すなわちソフトウエアで抑えることに取り組みました。すべてをデジタルで処理する「オールデジタルサーボ」への挑戦です。
具体的には、振動を分析し、振動の原因となっている成分を取り除く処理をソフトウエアで行うというものです。振動を分析して成分を取り除くことは、それまではサーボを搭載する装置メーカーが行っていました。オールデジタルサーボによる制振制御はそれをサーボ側で分析して対処するものであり、装置メーカーの負担が軽減したわけです。ただ理論的には可能でも実際の開発は困難で、実用レベルに至るまではパートナーの力も借りながら4年ほどの年数を要しました。
この制振制御開発のきっかけは、ある装置メーカーのお客様からの相談でした。「世界トップに立てる装置を作りたい」というお客様の強い願いに、我々も何とか応えたいという思いから技術開発に着手しました。
最初に取り組んだのは競合の分析です。当時の世界トップクラスの装置を分析しました。すると、機構はすばらしいのですが、振動対策はハードに依存していることに気づきました。「彼らに勝つにはソフトで勝負するしかない」。そう考えて生み出したのが、この制振制御です。そして、これが一つのきっかけとなり、同社の装置は世界トップシェア獲得という素晴らしい成果を上げます。お客様とともに真摯に取り組み、強い願いの実現に向け、その一翼を担えたという喜びは何にも代えがたいものでした。
リアルタイムオートチューニングで“神の手”を再現
サーボシステムでは装置を意図通りに動作させるために制御パラメータのチューニングが必要です。熟練の技術を要する作業で、サーボメーカーはそのために現場に技術者を派遣しています。私もシステム立ち上げの際に現場でチューニングにあたり、一発でうまくはまったときは、お客様から「神の手だ!」と称賛されたこともありました。しかし、それは嬉しい半面、少しショックでもありました。売上規模に合わせて「神の手」を準備していたら事業が拡大しても利益の出る事業にはならないからです。
そこで開発したのが、サーボが自らを自動的にチューニングする「リアルタイムオートチューニング」でした。電流や速度から動作中の装置のイナーシャなどをリアルタイムで算出し、それを考慮に入れながら安定かつ高応答に動作するように制御パラメータを自動設定するものです。この機能を汎用製品で実現したのは、当社が世界で初めてでした。
リアルタイムオートチューニングは、2自由度制御方式によるモデル追従制御(Reference Model Following Control)という制御方式がベースとなっています。規範となる制御対象をモデルで表現し、それに合わせて装置を動かすというものです。開発当時はCPUの性能不足に悩まされましたが、今ではCPUの性能向上で複雑なモデルも高速に演算できるようになりました。また、多種多様なアプリケーションで経験を積むことにより、リアルタイムオートチューニングの性能は格段に向上しています。
当社の最新サーボ「MELSERVO-J5」シリーズでもこの機能は踏襲されており、目的に合ったチューニング機能を充実させることで、さらなる進化を遂げています。サーボに求められる制御がより一層複雑化しても、熟練技術者の技に依存することなく立ち上げができる点は、これからもお客様から支持され、オートチューニングの必要性は今後も高まっていくと思われます。
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