FA業界コラム
三菱のサーボが業界最後発からトップクラスにのぼりつめた 理由堤清介氏
2023年2月公開【全3回】
第3回 顧客と「画期的な装置を一緒に作る」が大前提
第2回までに見てきたように、当社は業界に先駆けたさまざまなサーボの新技術を開発してきました。それが後発の立場からシェアを伸ばすことができた理由ですが、私はもう一つ、大きな理由があったと思っています。それは「徹底したお客様志向」です。高機能、高性能なサーボを作って売ればいいというわけではありません。そのサーボを使って「画期的な装置を一緒に作り、お客様の事業拡大に貢献する」という姿勢で取り組まなくては、お客様に支持されるはずもないのです。
必要なモータがなければ、モータから開発する
以前ある装置メーカーで、油圧の機構を、サーボを使って電動化するプロジェクトに参加したことがあります。
プロジェクト開始前、お客様の担当者と決めた目標は「世界最大の装置を作ろう」でした。実現するうえでの最大の課題は、油圧なら出せる大きな力をモータで瞬時に出すのが難しいことでした。モータ自体の出力を大きくすれば対応は可能ですが、当社はその大きな出力に対応したモータを持っていません。そこで、このお客様のために新しいモータの開発から取り組み始めたのです。「画期的な装置を一緒に作る」というスタンスに立てば当たり前のことでした。
その後、完成した装置をお客様は米国での展示会に出展しました。すると、米国の大手装置メーカーから当社に「このモータを売ってほしい」というリクエストが来たのです。おそらくお客様が出展した装置をつぶさに見て、そのカギがこのモータであると知り、名板に印字されている形名等から調べたのでしょう。結局、その米国のメーカーが求める400V対応シリーズへの対応は困難なことから、販売は断念したのですが、陰で当社が貢献していることを知ってもらえたことは嬉しかったですね。
他社が手本にするほどの装置を一緒に成し遂げたそのお客様とは、その後も良好な関係が続いています。なぜかお客様の装置の開発企画に参加したこともありました(笑)。当時の担当者とは今でも個人的なお付き合いがあるほどです。
ある装置メーカーでは、商品を盛り付けたトレイをラップで包む機械の開発プロジェクトが立ち上げられたのですが、トレイの上の盛り付けをどう維持するかという課題にぶち当たっていました。包装するためにトレイを持ち上げ、止める際に、盛り付けが崩れてしまいがちだったのです。持ち上げる動作にゆっくり時間をかけて行えば崩れませんが、それでは生産性が落ちてしまいます。
お客様はラッピングの途中で盛り付けが崩れないかを確認するために、高速度カメラを導入されました。生産性を高めるためにお客様がそこまで取り組むのであれば、それを支える私たちも覚悟を決めなくてはなりません。盛り付けが崩れず、かつ短時間でラップするモータの最適動作パターンを見つけるために、当社ではシミュレーションを取り入れることにしました。
とはいっても、まだ当時のPCの性能は低く、映像をシミュレーションするようなソフト自体存在しない時代です。シミュレーションを実施するなら、ソフトから開発しなくてはなりません。納期も迫る中そんなことが現実的なのか、お客様も疑心暗鬼だったかと思いますが、それでも私は「任せてください」とお客様に宣言し、シミュレーションのプログラム開発から取り組むことにしたのです。
結局、プログラム開発から最適動作パターンを見つけるまで、わずか1カ月程度で完結することができ、お客様から大きな評価をいただきました。ちなみに、そのときのご担当者とも、今なお情報交換などをさせていただいています。
「現場では私が社長です」
「画期的な装置を一緒に作る」姿勢を貫こうとすると、時にはお客様と口論になることもあります。ある装置メーカーで液晶パネルの製造装置を開発するプロジェクトでは、パネルの上に薄く均一に膜を塗布しなくてはならないという難しい課題がありました。膜があまりに薄いため、モータから来る振動はもちろん、工場の横をトラックが通っただけでも、その振動が装置に影響し、薄さがバラつくぐらいです。
揺らさない制御の開発は難航し、なかなか前に進まない状況にお客様から「社長呼んでこい」と詰め寄られましたが、私は「現場では私が社長です」と突っぱねました。サーボは技術志向の製品です。お客様と「画期的な装置を一緒に作る」という強い信念が本当にあるのなら、技術と現場を一番知っている技術者に最大の権限があると言い切って当然なのです。「現場を知らない社長を呼んで来ても判断できないでしょ」という私からの反論に、お客様も納得されました。
その後、無事に課題を解決して実現した装置のカタログには、当社のサーボを使っていることが明記されていました。それを見たときは本当に嬉しかったですね。それはお客様の信頼を得ることができた証ですから。
サーボに求められるのは、お客様の装置の付加価値を向上させ、お客様がより多くの利益を得られるようにすることです。より多くの利益を得る方法は、装置が「多く売れる」か、「高く売れる」か、それとも「安く生産できる」かのいずれかです。いくらサーボで新しい技術、新しいソリューションを開発しても、このいずれにもあてはまらないのであれば意味がありません。
技術の切り売りも、お客様の利益拡大にはつながりません。以前、サーボシステムを納入したお客様から、「次は内製したいからサーボ制御プログラムを売ってくれ」と言われたことがありました。それもかなりの高額だったのですが、お断りしました。当社のサーボアンプのハードウエアに、当社のソフトウエアで構成したサーボ制御を搭載しているからこそ、性能が発揮できるからです。
また、お客様の利益拡大なくして、当社の利益拡大もあり得ません。単にソリューションをつくるのではなく、お客様の利益拡大を成し得ることが、当社の存在価値を示す最大の手段なのです。
このように、当社が提供するソリューションが利益拡大につながることをお客様に理解していただくためには、お客様との距離感を詰めて、常に「お客様に近い存在」であることが必要です。近い存在でなくては情報を知ることができないからです。以前私は、お客様が作家の塩野七生の「ローマ人の物語」を読んでいると聞き、共通の話題を持とうと、そのシリーズ全43巻を読み進めていました。その途中で、お客様と食事をともにさせていただき、作品について語り合ったことが何度もあります。その後もいろいろな本を紹介していただき、気づけば、読了した本は100冊以上になっていましたね。
つねに「お客様の利益拡大を第一目標」に置くと同時に、つねに「お客様の近くに寄り添える存在」を目指す。何よりもそれを長年追求してきたことが、今、サーボ市場で当社が高いシェアをいただいている理由だと思います。
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