第7回その2
「配筋検査システム」
の可能性・その2
私たちの生活基盤を、
AIが診てくれる
現場の声が、AIを育てる
「アジャイル型」の製品開発
さきほどサブスクのお話をしましたが、このシステムの革新性は「アジャイル型」と呼ばれる開発工程を踏めている部分にもあります。
「アジャイル型開発」というのは、いわゆる「ベータ版のリリース」のようなものです。これは日々進化するAIやソフトウェアの開発にとっては非常に有効な開発方法で、まずは基本的な機能を搭載したものをリリースし、そこに現場からの要望を少しずつ盛り込んでいくことで、システムを「バージョン2.0、3.0…」と育てていけるという利点があります。
事実、今も現場からは多数の声が寄せられています。たとえば「ドローンにカメラを搭載し、現場までいかずとも撮影や計測ができるようにしてほしい」という要望は10件を超えていますし、橋の建造のような土木の現場からは「塗膜(さび止め塗料の厚み)を計測できるようにしてほしい」というリクエストがきています。
そうした「生の声」を製品開発の指標にできるというのは非常にありがたいことですし、チャレンジ精神を揺さぶられますね。
現場からの「できないの?」に応える
やはり現場の声というのは非常に重要です。リリース以来の反響もあり、私もたくさんの建設現場に足を運ばせてもらいました。とくに地方の高速道路などは、実際にこの目で見てみると、気が遠くなるほどの配筋があるんです。私はそういった現場でもこのシステムの性能を披露して、確かな反響と手応えを得てきました。
自分の勝手な想像から、建設現場は屈強で強面の方から強くご指導いただくという印象を持っていたのですが(笑)、現地デモなどで訪問した際にはとても温かく迎えてくださったという点も印象に残っていますね。最初は「AIだからってなんでもできるわけじゃないだろう」と半信半疑だった現場監督さんが、「まぁ……使えないこともないかもな」と笑ってくださったことは忘れられません。「これで少しは早く飲みにいけるかもな」と冗談を言っていただけたり(笑)。
そういった方々の仕事をしっかりサポートするためにも、システムというのはなるべく柔軟に進化させていく必要があると感じています。現場からの「できないの?」という声がシステムを育てるんです。
やはりAI技術のよいところは「機能の拡張性」ですからね。「AI配筋検査システム」も現時点では格子状の配筋を計測対象としていますが、将来的には地震対策のために施工される「せん断補強筋」などの計測ニーズにも応えられればと考えています。
現場の声が、チャレンジ精神を揺さぶる。
多くのリクエストが、システムを成長させる。
建設現場にも、もっとAIを
「kizkia®(きづきあ)」と「シームレス音声認識技術」
今後AI技術はもっともっと建設の現場に入っていくはずです。たとえば当社の映像解析ソリューション「kizkia®」は、ディープラーニングによる映像解析技術によりさまざまな人間の行動をリアルタイムに検知し通知することができます。立ち入り禁止エリアへの侵入や働く人の体調不良などもAIが見分けてくれますので、建設現場の事故防止にも役立つはずです。
ほかにも「シームレス音声認識技術」というのがありまして、これは不特定多数の人が何語を話すか分からないという状況でも、AIがひとりひとりの音声を認識してくれるというものです。建設現場には外国人の方も増えてきていますから、近い将来、この技術も役に立てるはずだと信じています。「彼らに安全管理の説明をしたいけど、なかなか言いたいことが伝わらなくてね」という現場監督さんも、リアルタイムで円滑なコミュニケーションが取れるようになれば、すごく助かると思うんです。
「AI配筋検査システム」の未来
もちろん「AI配筋検査システム」もさらなる進化を目指します。というのも、この配筋検査方法に関しての国によるルール化が、令和5年に予定されているんです。私たちにとってはそこが大きな勝負であり、この技術を飛躍的に広め、より大きな社会貢献につなげられるチャンスでもあります。
また同時に「AI配筋検査システム」は、働く人に優しい未来にとっての第一歩であるとも考えています。
ビルやマンション、橋やトンネルなどは、私たちの生活に欠かせない重要なインフラです。しかしその建設現場は、ときに風雨にさらされ、真夏の作業を余儀なくされることもあり、とくに高層ビルなどの建設においては、生死に関わる危険と隣り合わせになる場面も少なくありません。
私たちは、そういった危険をロボットや無人建機の導入や、ドローンによる監視技術により回避することができ、人間は、より人間らしい「創造」に集中できるような未来がくればと願っているんです。
三菱電機グループには、この未来を実現するための技術がたくさんあります。
AI技術の進歩によって、旧来のわたしたちが悩まされていた苦労や危険が劇的に改善されていく様子を想像すると、今から楽しみでなりませんね。
より多くのシチュエーションで人間を助けてゆく、AI技術。
小さな技術の進歩の集合が、大きな社会貢献につながる