8その2

「AIひび割れ自動検出技術」ができること・その2
“3つの眼”が可能にした、インフラ整備の
最先端

1 ニーズがAIを育てる

AIの学習に"卒業"はあるのか

天見高之(以下:天見):

AIひび割れ自動検出技術はもちろんのこと、AIにとっての教師データというのはもっとも重要な要素です。低解像度の教師データを与え続ければ、そのぶん検出精度も落ちるでしょうし、早い段階で一定以上の成長は見込めなくなると思います。

とはいえ教師データというのは与え続ければいいというものでもなくて、ユーザーのニーズにあわせ、どこかでやめどきを見極めないといけないということはありますね。教師データというのは人間が用意するものですから、そのぶんコストもかかりますし、AIにも学生でいうところの"中退"の時期を決めなきゃならない(笑)。

入江恵(以下:入江):

それは“卒業ライン”って言ったほうがいいんじゃない(笑)?でも、確かに“過学習”が(AIにとって)あまりいい結果にならないということはありますね。

天見:

過学習というのは特定の教師データばかりを必要以上に与えすぎることです。そうすると、AIが導き出す答えにも偏りが出てしまう。こちらが欲しい答えにフィットしすぎた教師データを与え続ければ、今度はイレギュラーな事態に対応できないAIになってしまうのです。

AIを"スタッフの一員"として

入江:

ただ、こうした結果は、あくまで"やってみないとわからない"ものなんですよ。AIの学習プロセスというのはまだまだわからないことも多いので、どの教師データがどの結果に関与しているのかの判断が難しい。お客さんから「なんでこういう結果になったの?」という質問をいただくこともありますが、現時点ではどうしても答えきれない部分があります。

天見:

AIひび割れ自動検出技術の場合、最終的な検出結果を確認するのは人間であって、トンネルの補修工事を担当するのも人間なわけです。そのいっぽうで、車の自動運転や発電所などのインフラ施設の異常検知に使われているAIに関しては、AIの答えをどこまで無条件に受け入れるかの判断が難しくなってきますね。

ただそれも、AIの予測に頼る部分と人間が精査する部分のバランスだと思います。完全にAIに委ねてしまうのではなく、AIの予測をひとつの有用なデータとして人間が活用していけばいいと思うんです。今後は、人間がAIを"スタッフの一員"として迎えるような柔軟性というのも必要になってくると思いますね。

CHECK!

ユーザーのニーズにあわせ、AIを育てる。
AI技術を使用する人間にも、柔軟性が求められる

2 人を支援するAI

ツールとしてのAI

入江:

AI技術に不信感を抱く方の中には「人にとってかわる」「人の仕事を奪ってしまう」という考えを持っている人が少なくないと思いますが、わたしたちの技術は"人の支援"を目的にしたものです。AIというのは、これまで人の労力に寄りすぎていた部分を手助けしてくれる、便利なツール。そんなふうに捉えてもらったほうがいいかもしれません。

天見:

AIひび割れ自動検出技術もより広範囲に活用できるツール化を目指しています。今後はひび割れ以外の変状変化もAIで検出できるようにしたり、変状箇所の情報から道路、トンネル全体の健全性をAIで自動判定できるよう研究を進めていければと考えています。

入江:

やっぱりそれらも人の支援ですし、ゆくゆくは社会インフラにおける維持管理コストの低減などにもつなげられればと思っていますね。

AIとの共存

入江:

今後、ロボット技術がますます発展し、人の手を助けるようになれば、同時にAI技術もさらに広い分野へと進出するはずです。わたしたちの日常生活にも、AIはより密接に関わってくるようになるでしょうね。え? あったらいいなと思うAIですか?

天見:

う~ん、僕らにとってはなかなかに難しい質問なんですよね...。大学ではSF映画と同じようなものを語る人たちもいましたけど、知れば知るほど難しい部分も見えてくるもので。この仕事に携わることでAIに対する信頼度は上がりましたし、思っていた以上に手軽に使えるということも実感できてはいるのですが...

入江:

SFのような話でいいのであれば、わたしが仕事で娘にかまってやれない時間を埋めてくれるメイドさんのようなロボットAIが欲しいです(笑)。そういったロボットAIの未来というのは現時点では夢物語ですが、人間の長い歴史と比べれば、AI技術はまだ始まったばかりですからね。

わたしたちのAIひび割れ自動検出技術にしても、開発中はどの程度の反響があるのかわかりませんでした。ただ、広報発表の際にはさまざまな問い合わせをいただいて、みなさん本当にこれまで人手で困っていたということが実感できましたし、そういった方々に機能を説明した際には、それこそ数年前のわたしたちがAIに対して「おぉ!」と思ったのとまったく同じように「おぉ!」と驚いていただけたのです。

天見:

みなさんこれまで「なにができるのか」「どこまでできるのか」ということを、想像できていなかっただけなんです。

入江:

そういう意味では、わたしたちを含めた社会全体がAIの可能性を認識し、興味や理解を深めていくことが大切だと思っています。理想はAIとの共存共栄。わたしや天見くんと同じように、みなさんにもAIの可能性に驚いてほしいと思っていますね。

三菱電機株式会社 天見高之 入江恵

CHECK!

「なにができるのか」「どこまでできるのか」
AI技術の発展には、社会全体の理解が必要