矢野顕子さん語る
「宇宙を知ることは『生きる歓び』を培うこと」
宇宙大好きミュージシャンは数多いが、宇宙への知識欲が旺盛で、行動力を伴う点でダントツなのが矢野顕子さんではないだろうか?矢野顕子さんは2015年に発売したアルバムのタイトルに「Welcome to Jupitar」と名付けるほどの宇宙好き(木星が大好きだそう)。ツイッター@Yano_AkikoではNASAなどの宇宙情報を、独特の視点を絡めて発信。また、国際宇宙ステーションに対する日本の年間予算約400億円が話題になったときには「400億くらい、俺が出してやるわいって言いたい。。。」と太っ腹な応援ぶりも披露した。「素敵!」と惚れ惚れしながら、私は矢野さんの言動に注目していた。
そんな憧れの矢野顕子さんが、なんとDSPACEの2015年6月のコラム「病院がプラネタリム—変化していく子供たち」をツイートで引用し、「私も一緒に(病院プラネタリウムを)、観てみたいなぁ」とコメントして下さったのだ。大感激しつつも「世界的ミュージシャンの矢野さんが、本当に来て下さるのだろうか?」とどこかで私は信じられない想いを抱いていた。ところが2015年12月末、さとがえるコンサート2015を終えた貴重なオフの日に、矢野さんは埼玉県熊谷市の埼玉県立循環器・呼吸器病センターに、本当に現れたのです。しかもバスで30分近くも揺られて!「バスが好きなんです~」とほっこりにっこりほほ笑む矢野さんは想像通りしなやかで、なんて行動力のある女性なのでしょう。
矢野さんは、病院プラネタリウムの活動を行っている宙先案内人の高橋真理子さんとすぐに意気投合。さっそく、患者さんとプラネタリウムに入った。患者さんや病院の皆さんと一緒に星空を見上げ、高橋さんの問いかけに声をあげ、音楽に身体を揺らし・・小さなプラネタリウムの宇宙旅行を全身で喜び、「この素晴らしい活動が広まるといいですね」と言ってくださった。
実は「病院プラネタリウム」の記事は、書いた私も驚くほど反響が大きかったのだけれど、実際に体験したいとコンタクトして下さったのは矢野さんが初めて。なぜそこまで関心を持たれたのか興味があり、矢野さんに色々お聞きしました。その答えは、私がずっと抱えてきた問題意識と共通するものがあったのです。
あまりの星の多さに吐き気がするほど—宇宙に興味を持ったきっかけ
元々、昆虫や宇宙が好きで自称「小学生男子」だったという矢野さん。でも宇宙にぐっとのめりこむきっかけは、数年前に受けた白内障の手術だそう。それまで眼が悪かったのに、手術後ははっきりと見えるようになったのだ。
「ピアノのスタジオが、(NYの)マンハッタンから2時間ほどドライブした山の中にあるんです。そこは夜になると、あまりの星の多さに吐き気がするほどでした」と矢野さん。その星空を見ているうちに徐々に親近感がわき、星座や惑星に興味がわいてきたという。
「調べていくうちに、星座が地球から見て線をつないでいるだけで、たとえばオリオン座の星々は、実際には数百光年も離れていることを知りました」
一方、国際宇宙ステーションに興味を持ったのは、野口聡一宇宙飛行士がISSに長期滞在した頃だった。NASAのウェブサイトを見るうちに、「宇宙へマジで行きたいかも」という気持ちがわき上がってきたそうだ。その後、テキサス州ヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターを訪問。「アポロ時代に使われたミッションコントロールセンターを見て、『iPhoneより少ないデータ量で月まで往復させたの?』と驚いたし、ISSの日本実験棟きぼうのモックアップを見て、『宇宙に行くためにこれだけ努力しないといけないんだ』と知ったんです。『人間の力』を感じましたね」
そんな矢野さんは、NASAのISSを見るためのアプリで、ISSが通る時間をチェック。グリニッジビレッジからハドソン川まで走って行って、ISSに手を振る。「一等星みたいに見えるんですよ。ハドソン川沿いの空中公園にはアマチュア天文家が望遠鏡を並べていて、『土星見えるよ~』と気軽にのぞかせてくれるんです。まるで『いい魚あるよ』みたいな感じで(笑)」。宇宙の事を話す矢野さんは、本当に楽しそうだ。
宇宙のことをつぶやくとフォロワーが減るのはなぜなのか。
NASAやJAXAなど世界の宇宙飛行士たちのツイートや、宇宙から撮影した地球の画像を見ているうち、地球が薄い大気に覆われていることを知った矢野さん。「もし地球に大気層がなくて、宇宙線がそのまま降り注いだら、生物は生きられない。つまり、『大気圏がなければ死ぬ』ということをもっと知ってほしい」と力を込めて言う。
「それなのに、私が宇宙のことをツイートすると、フォロワーが減るんです」と残念そうに語る。ファッションやコスメには興味を持っても、宇宙は何か特別の、遠いところのことと思ってしまうようだと。
「若い男性や女性にもっと宇宙に興味を持ってほしいのに。どうしたら宇宙にもっと興味や関心を持ってもらえると思いますか?」矢野さんにストレートにそう聞かれて、私はドキッとした。それこそ、私がずっと抱えていた課題でもある。
矢野さんは続ける。「毎朝必ず太陽が出て、陽が暮れる。薄い大気圏があって水が循環しているのは今のところ地球だけ。当たり前に思っているけれど、決して当たり前じゃない。太陽や地球、月が奇跡のような条件で存在していて、地球に薄い大気圏があることで生かされている。それを知ることは、生きていることの感謝につながると思います。へりくだるわけではなくね。宇宙のことを知ることは、『生きていることの歓び』を確認し、培うことだと思うのです」
「だから、地球や宇宙は遠い存在ではない。地球や宇宙について正しい知識を持つことは息をすること、つまり『現実を生きること』とつながります。世界の人が、(地球の大気層のはかなさについて)知れば、空気を汚していいとは考えないはずです」
矢野さんのお話を聞きながら、私は自分が恥ずかしくなった。宇宙や地球環境について色々な人に取材し、危機感を持っているはずの私が、より多くの人に伝えようという努力をちゃんとしていただろうか?矢野さんは「宇宙についていろんな人に関心を持ってほしい」という想いから、病院プラネタリウムを訪ねてきてくださり、私たちに熱い問いかけをして下さったのに・・。矢野さんから、大きな宿題を頂いた気がした。
努力しないで宇宙へ行きたい!と言いながら・・・
そして今、矢野さんは、宇宙へ行きたいと真剣に考えているようだ。
「サラ・ブライトマンが宇宙旅行に申し込んだ時には嫉妬しました」。笑顔でそう話す矢野さんに「宇宙旅行に申し込まないんですか?」と聞くと「努力しないで行きたい(笑)」と。しかし、そう言いながらも矢野さんは火星有人飛行への医学的影響について詳しくて驚くほどだし、何より最近、水泳のレッスンを始められたようだ。この1月に初めて水に浮くこともできたそう。おめでとうございます!泳げるようになりたかったのは、宇宙飛行士になるために水中の訓練があることを知ったからだそう。カッコいいなぁ。
目標に向かって一歩一歩、諦めず、楽しみつつ歩んでいく矢野さん。しなやかに軽やかに、いつか宇宙に本当に飛んでってしまいそうだ。私も水泳が苦手だけど諦めずに頑張ってみようかな。そして矢野さんから頂いた宿題にも、取り組みますよ!
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