星空の下で眠りたい「熟睡プラ寝たリウム」大受けの理由
2016年も色んなことがありましたね。1年間本当にお疲れさまでした!疲れをとるには睡眠が一番。満天の星空の下でぐっすりと眠ることができたら・・・。
そんなあなたの夢をかなえてくれるプログラムが、「熟睡プラ寝たリウム」だ。2011年の「勤労感謝の日」に明石市立天文科学館でスタート。6回目を迎える今年は、全国32館同時開催と年々盛り上がっている!以前から一度参加してみたいと思っていたが、今年は出張続きで疲れきった心身を癒したい!と新幹線に乗り、明石に向かった。
午後1時過ぎ、やってきました。明石市立天文科学館。さっそく中に入ると、「熟睡プラ寝たタリウム」のポスターが館内にバーン!今日は6人の熟睡伝道師(解説員)が眠りにいざなってくれるようだ。
プラネタリウム入り口にはすでに長蛇の列が!
入場を待つ人の中に、毛布のようなものを抱えた人を発見。さっそく話かけてみると・・・やはり毛布だった!その女性は看護師さん。今日のためにシフトを調整し徹夜明け、つまり「寝る気満々」で駆け付けたそう。寝るポーズまでしてくださるなんて、さすが関西。ノリがいい!いよいよ開場です。
直径20メートルのドームに入ると、中央に1960年から56年間稼働し続け、長寿日本一・日本では現役最古のカールツァイス・イエナ社製プラネタリウム(映画「planetarian~星の人~」の「イエナさん」で有名)が輝いている。阪神淡路大震災も生き延び、プラネタリウムの歴史を見続けてきた名機が醸し出す、圧倒的な存在感。美しい・・・。
どこに座ろうかときょろきょろしていると、なんといびき席が。このあと、かなりの方が座ってました。
ダンボのぬいぐるみを抱えてきた女の子も。一緒に寝るんだもんね!
ベテラン熟睡解説員で「1万人を眠らせた男」井上毅さんはパジャマ姿+マイ枕持参?!
300席のドームはほぼ満席。場内が暗くなり、いよいよ熟睡プラ寝たリウムが始まる。なのに、子供たちがはしゃいで静まらない。しかも3D眼鏡で遊んでるぞ・・・。「子供たち、このまま騒いだらどうしよう」という私の心配をよそに、プラネタリウムの陽は暮れていく。夕焼けから夜のとばりが下りるときの繊細な色の変化のなんと美しいこと。星が輝くと熟睡伝道師の異名をもつ鈴木康史さんが、低く落ち着いた癒しボイスで、ゆっくりと夜空の星を数え始める。
「ひとーつ、ふたーつ、みっつ・・・・」さらに絶妙のタイミングで、ピアノが奏でる静かなメロディが流れる。頭上には満天の星。その中からゆるゆると星を数えていくのを眺めているうちに、だんだん瞼が重くなる。いつしか子供たちの声が消え、代わりにいびきの波が押し寄せてくる。アカン、取材しないと・・・と思いつつ瞼があかない。睡魔が・・・。
いつの間にか、うとうと気持ちよくまどろんでしてしまったようだ。恐るべし、熟睡伝道師。あっという間に約50分のプログラムは終わった。もっとまどろんでいたかったなと思いつつ出口に向かうと、ダンボのぬいぐるみを抱えた女の子がぐっすり寝入っていた。
出口では、眠った人に「熟睡証明書」が、眠らなかった人に「完徹証明書」が手渡された。ご家族で、お友達と、科学館の常連さんたちと、それぞれ工夫をこらし寝る気、やる気、熱気満々。企画側と参加者側が一緒に楽しんでいる雰囲気があったかい。京都からいらした長澤さんご一家は「ほかの館の熟睡プラ寝たリウムも行きましたが、ここは『眠りの質』が違う。やはり元祖ですね」。50代の男性は「昔、子供と来たときに寝てしまって起こされたが今日は寝てても怒られない。癒されます」
大ヒット企画「熟睡プラ寝たリウム」はこうして生まれた
この楽しくて癒される大ヒット企画、「熟睡プラ寝たリウム」はどのようにして生まれたのか?それが知りたくてここ、明石までやってきたのだ。発案者の長尾高明館長と、「1万人を眠らせた男」井上毅ベテラン&名物解説員に聞きました。
- —熟睡プラ寝たリウム、最高の企画ですね。考案したきっかけは?
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長尾館長(以下長尾):
平成元年に天文科学館に異動の辞令をもらったんですが、それまでプラネタリウムを見たことがなかった。そこで日本各地のプラネを見て回ったんです。そしたら隣にいる約1名(=奥さん)が必ず寝る。椅子に座ったとたん、かーっと。起きてから「プラネタリウムに入ると寝てしまうんや」と申し訳なさそうに言うわけです。うちの科学館に来るお客さんでも「ごめんなさい、寝てしまいました」と謝る人がいる。寝ても問題ないんちゃうかなと思ってね。いっそのこと最初から寝てくださいとうたっていれば、罪悪感なしに寝られるでしょうと思いついたのがきっかけです。
- —なるほど。それにしても展開の仕方が面白いですよね。たとえばいびきシート。
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長尾:
だって隣でいびきかかれたらいやでしょ?いびきかく人も気にするんです。人の迷惑になるんじゃないかと。だから分煙じゃないけど、きちんと分けることにしました。
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井上:
いびき席を作ると絵面が面白いですよね。どこかで笑ってもらおうと。さっきも「いびき席はこちらです」と言った瞬間に、お客さんがぷっと吹いてて(笑)。
- —いびき席に座るのが恥ずかしいと思ったりしないんですか?
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長尾:
女の人もふつーに座ってますよ。自撮りしたりして。
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井上:
いびき席で寝ることに面白さを感じてるから。
- —マイ枕とかそれぞれの睡眠グッズも持参してこられる人がいますね。
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長尾:
枕とかブランケットとか、ひどい人は寝袋持ってくる(笑)。
- —え!本気ですね。
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長尾:
徹夜してくる人もいます。
- —いました!なんなんでしょう、その意気込みというか熱さは。
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長尾:
関西人のノリでしょうね。そっちがそう来るなら、こっちはこう出るでと。
- —今や関西だけでなく全国32館に広がってますよね。
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長尾:
関西の笑いが理解されて全国区になってきたんちゃいますか?最初は剣もほろろでしたけどね。「また明石があんなことやって」と。
- —どういうことですか?
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長尾:
2011年に始めたときはうち一館だけでしたもん。
- —最初にやった時の反応はどうでしたか?
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井上:
すごいよかった。めっちゃ手ごたえがありました。お客さんからは「何をするんだろう」という期待感を感じました。
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長尾:
翌年にプラネタリウム関係者が集まる「日本プラネタリウム協議会」全国総会で一緒にやりませんかと呼び掛けてね。「日本プラ寝たリウム学会」という学会も作った。そしたら4館が参加してくれました。まぁこんなもんかなと思っていたらどんどん増えて今年は32館。
- —学会まで!
-
長尾:
個人会員になると会報「熟睡通信」が届きますし、1年1回機関誌も出しています。ふざけているように見えて、ちゃんとマジメ(風)に取り組むのが明石流です。
寝かすためのテクニック、グッズへのこだわり
- —井上さんはこれまで1万人を眠らせてきたそうですが(笑)眠らせる技術「プラ寝たテクニック」があるそうですね?
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井上:
スライドも星座の絵もやめて、ポインターだけで40個の星座を静かに紹介していったら、よく寝ましたね。深夜ラジオの教養講座の古典の先生のような語りをイメージしています。
- —なるほど。退屈な感じ?笑わせたらだめなんですよね。
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井上:
そうなんですよ。笑ったら目が覚めてしまうので。ここでこれ言ったら絶対受けるというのがわかるから、我慢するのが苦しい。ふだんは眠らせないようにするために、あえて笑いを入れるのが一つの方法なんですけど。
- —今日はお子さんがしゃべっていて、どうなるかと思いました。
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井上:
(解説員の)鈴木くんは難しかったと思いますよ。腕がなるというか(笑)。ふだんの投影なら、子供の反応にこたえる形で進めていけばいいからやりやすいんですけどね。
(ここで熟睡伝道師、鈴木さん登場)
- —どうやって子供たちを寝かしたんですか?
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鈴木:
今日はあえて子供たちを放っておいて、寝てもらおうと。ここの解説員の上原さんも小学校の先生だったですが、学校の先生の話し方からずいぶん学ばせてもらいました。聞いてもらいたいときは話し方にメリハリをつけたり声のトーンを上げてから急に低くしたり、逆に眠ってほしいときは、声のトーンを少しずつ下げて行ったりとか。
- —あの「ひとーつ、ふたーつ」は効きますね。
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鈴木:
単純に一つ、二つと(てきぱき)数えると逆に頭がさえるので心が落ち着きそうな間合いを探しながら、声のトーンもいつもより意識的に落としてめりはりなく・・・。
- —そんなテクニックがあったとは。ところでグッズも熟睡バンダナに熟睡エプロンとユニークですね。
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井上:
館長がおもしろグッズ好きだから。
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長尾:
参加意識が芽生えるでしょ。熟睡エプロンなんて何の意味があるのと思うでしょ?女の人はスカートはいてますよね。寝てる間にだんだん足が開いてみっともないですよね。エプロンしていたら、たとえ足が開いても隠してくれる。
- —こまやかですね。熟睡バンダナも熟睡エプロンも完売なんですね。もう作らない?
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長尾:
作らない。再販すると売れ行きが悪いんです。どうせまた作るやろと。二度とお目にかかれないものだから売れる。
- —毎回のサブタイトルも凝ってますね。
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長尾:
今年は「ネムタナールの誘惑 昨夜あれだけ寝たのにプラネタリウムで寝てしまう プラ寝たリウムは別腹」。昨年は「熟睡か完徹か 究極のドーム睡魔戦(すいません)」。ドー「モ」すいませんちゃいますよ、ドームの中で寝るんですから。そこ、間違わんといてくださいね。
- —はい(笑)。一語一語にこだわりがありますね。ところで、明石天文科学館はこの熟睡プラ寝たリウムだけでなく、「シゴセンジャー」「ブラック星博士」「全国プラ『レア』リウム33箇所めぐり」など、ユニークな企画を連発されてますね。
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長尾:
うちのプラネタリウムは長寿日本一、言い換えると古い施設でもあります。機械が古くても解説者が素晴らしい、だから面白い企画を考える。天文学のハードルを下げていろいろな人に星の魅力を知ってほしいのです。
全国プラ「レア」リウム巡り、シゴセンジャー✕ブラック星博士、人気企画がいっぱい
長尾館長や井上さんたちと話していると笑いが絶えない。いつも面白いことを考えて、思いついたら即実行。たとえば、DSPACEで「星空の散歩道」を執筆されている、国立天文台副台長の渡部潤一先生も参加しているのが、全国の33のレアなプラネタリウムを3年3ヶ月で回るという「全国プラ『レア』リウム巡り」。お城や船の中にあったり、学園祭の時のみ年に2回しか見られない超レアなプラネタリウムを厳選、ガイドブックにまとめている。期間内に33か所回ると「達成証」が渡される。
また、子供たちに人気なのが、プラネタリウム投影イベント「軌道星隊シゴセンジャー&ブラック星博士」。時と宇宙を守るヒーロー・シゴセンジャーとダジャレ交じりの寒い星空解説でみんなの心を惑わすブラック星博士が、クイズで対決するプログラムだ。もともとは東経135度の子午線をお母さんが「こうしせん」と子供に話すのを聞いた井上さんが危機感を持ったのが始まり。「子午線をヒーローにすれば楽しみながら理解してもらえる!」とひらめいてシゴセンジャーを発案した。2005年の初登場以来、大人気で年5回のイベントの時は整理券が取れないほどだ。
シゴセンジャー&ブラック星博士デビュー10周年にはシゴセンジャーのキャラ弁コンテストを開催するなど、奇想天外な企画が次々飛び出す明石市立天文科学館。やっている人が心底楽しんでるから、参加する人も本気で楽しむ。そんな相乗効果が人気企画を生む秘訣なのかもしれない。その輪に参加したくなる。また来ますね~!