星出彰彦飛行士インタビュー
NASAで実感、日本の「技術力」と「人の力」
2020年春ごろから3度目の宇宙飛行へ。日本人では約6年ぶり、2人目となるISS(国際宇宙ステーション)の船長を担う、星出彰彦宇宙飛行士が訓練のために帰国。DSPACEでは単独インタビューを実施!まずは星出さんの「気になる変化」から伺いました。
誰と宇宙に行っても、楽しめる
- —お久しぶりです。星出さんが急に生やしたお髭が記者の間で話題ですが、なぜ髭を?
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星出:
数ヶ月前にNASAの管制センターでキャプコム(宇宙飛行士との交信担当)を担当している時、ISSの宇宙飛行士と冗談でやりとりする中で挑戦を受けたんです。英語の「Don't touch my mustache(私のひげを触るな)」を早口で言うと、日本語の「どういたしまして」に聞こえるんですが、ある日、その言葉を口にしたら「お前に髭はないだろう」と言われて。「じゃあ髭を生やすよ」と言ってしまったんです(笑)
- —なるほど。プレッシャーのかかる宇宙滞在中にそんなやりとりがあるなんて、飛行士たちも楽しいでしょうね。さすがNASAに超溶け込んでいる星出さんです。ところで2020年春の宇宙飛行まであと約1年半ですが、一緒に飛ぶメンバーは決まりましたか?
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星出:
まだです。現在、米国では民間の宇宙船を開発中で、どれに乗るかがまだ決まってない。だから一緒に飛ぶクルーが決まらないのです。でも訓練初期はもともと個人でやる復習の訓練が多いので、訓練計画が遅れているわけではないんですよ。
- —なるほど、ちょうど民間宇宙船が飛び立つかどうかの過渡期ですものね。メンバーはいつ頃決まるんですか?
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星出:
わからないです(笑)
- —え、チーム作りはメンバー決定のあとになるわけですよね。大丈夫ですか?
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星出:
誰と一緒になっても大丈夫。(宇宙飛行士たちとは)今までも色々な場面で一緒に訓練をしたり仕事をしたりしているので、それなりに人となりはわかっていますから。
- —そもそも今、NASAの宇宙飛行士は何人ぐらいなんですか?
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星出:
現役だと今40人弱ぐらい。
- —一時期は100人ぐらいいましたがずいぶん減りましたね。その人数だとNASAファミリーみたいな感じでしょうか?
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星出:
そうですね。誰と飛ぶことになっても楽しみ。お互いに一緒に飛べればいいなと話しています。
「こうのとり」7号機—「すごいな、このチームは」
- —さて、星出さんはNASA管制チームでキャプコムとして活躍されています。「こうのとり」7号機ミッションでも、NASA管制センターで「こうのとり」のジャケットを着た星出さんを見て嬉しくなりました。7号機は発射まで4度も延期があったり、ようやく打ち上げ後もソユーズ打ち上げ失敗で作業の変更を余儀なくされたり、大変だったと思いますが、どうでしたか?
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星出:
「こうのとり」7号機本番では、本当に「うわ、すごいな。このチームは」と感じました。
- —このチームとは?
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星出:
日本のHTV(こうのとり)7号機の運用管制チームです。
- —どんなところが「すごい」と感じましたか?
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星出:
テンポですね。ぽんぽんと作業が進んでいく。あとは日米間のコミュニケーションもものすごいと感じました。
- —計画変更が相次いだ中でも作業がぽんぽん進んだとは。何が肝だったのでしょうか。
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星出:
「こうのとり」そのものには何も問題はなかったのですが、打ち上げが一日延期されると、ISS側の計画が変わります。次の打ち上げに対して、どのタイミングでどういう作業が必要になるのか日米間で調整してましたし、ソユーズ宇宙船のトラブルがあった時は(「こうのとり」が運んだ)バッテリ交換のための船外活動が延期になりました。調整が物凄く必要になって。その時も感心したのは日米間のコミュニケーションの取り方です。日本側の「こうのとり」7号機リードフライトディレクタ内山崇さんとNASAのリードフライトディレクタ・ゼブさん(Zebulon Scoville)の間では朝晩、恋人のように電話をし合ってたと本人たちが言ってました(笑)。だからこそチャレンジングな状況でも課題や考えの共有が図れて、チームの動きがスムーズでした。
- —星出さんも「結局は人なんですよね」とツイートされてましたよね。内山崇さんからは、星出さんの存在に助けられたと聞きました。日米の「こうのとり」合同訓練後の反省会では、本音ベースでもやもやを残さずに次につなげられるアドバイスをもらったし、本番でも、(星出さんを通して)NASA側の本音を聞いたり、その逆もあったりで、交渉の落としどころを探る情報収集にとても有難かったと。
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星出:
私はNASA管制チームでキャプコムを務めてましたが、訓練時から日本とNASA間のやりとりだけでなく、HTVチームの管制官同士の日本語のやりとりを聞いて、日本の動きを把握して必要な時はNASAのフライトディレクタに伝えていました。訓練後にはNASAと日本の全体の反省会がありますが、その後の日本チームだけの反省会にも出て、交信では言ってなかったけど、NASAで実はこういう話があったんだよと。「こういう時にこういう風に言ったら、多分こう動いたんじゃないかな」と伝えてました。それを経ての本番は、ものすごくいいコミュニケーションが取れていたと思います。
- —だから、かつてないようなトラブルがあっても、乗り越えることができたんですね。星出さんがキャプコムとして気を付けていたことはなんでしょう?
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星出:
疑問を残さないことです。それはキャプコムとしてより、NASAの管制チームに入り込んでいるJAXAの人間として、お互いの疑問がクリアになるようなサポートは認識していました。
NASAも注目した小型回収カプセル「あれで帰ってきたら!?」
- —小型回収カプセルの成功について、NASAの皆さんは?
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星出:
NASA管制チームは「こうのとり」7号機がISSから離脱するまでが仕事なんですが、みんな小型カプセルの着水までずっと待ってましたね。
- —NASAでも注目していたということでしょうか?
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星出:
してました!NASAの「こうのとり」に関わるメンバーだけでなく、NASAジョンソン宇宙センターを歩いていると、「小型回収カプセルいつ着水するの?」とか、「もう着いた?」とか声をかけられて。本当に注目されてました。
- —なぜでしょう?
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星出:
「宇宙から帰す」ことを米ロがやっている中で、「日本がやるんだ」というのが理由でしょうね。
- —見事、成功しましたね。
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星出:
すごいですよね。カプセルが着水して回収されて、刻一刻と進捗の状況をメールで追っかけてましたよ。「見つかったぞ、やった!」と。努力の甲斐があっただろうし、関係者はほっとして嬉しいところだったと思います。
- —将来の有人宇宙船に向けた技術が得られたわけですよね。期待は?
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星出:
大きな一歩だと思います。これが最初の一歩として有人宇宙船の開発に繋がっていくといいなと。
- —ISSからの回収も日本が独自でできますね。
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星出:
それも大きいと思います。冗談で「小型カプセルに入って、宇宙から帰ってきたら」と言われてました(笑)
- —星出さんが小型カプセルに乗って?
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星出:
「お前、こうのとり7号機で行かないの?」って。「宇宙に行って帰りはカプセルで帰ってくるんだろ」って(笑)
宇宙日本食に認証された「サバ缶」と対面
- —それはぜひ、「こうのとり」9号機でやって頂きたい!ところで米国の民間宇宙船ドラゴンが年明けに無人で打ち上げられます。星出さんも乗る可能性があると思いますが、開発はどんな状況ですか?
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星出:
淡々と進んでいる感じです。無人フライトの次は有人のデモフライトに繋がりますが、実は細かい技術についてはあまり知らされてないんです。実際に乗り込む段階になれば訓練は受けますが、まだ訓練は全然やっていません。
- —そうですか。NASAのツィートで宇宙食の試食会の写真があって、星出さんや野口さんと一緒にボーイングで民間宇宙船の開発をしている元NASA飛行士らが映っていましたね。
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星出:
ファーガソンですよね。彼は今、ボーイングの職員で民間宇宙船の開発をしています。ボーイングが開発中の民間宇宙船でISSに行く可能性があるので、ISSに滞在する間の食事を選んでいるわけです。
- —民間宇宙船で行くNASA元宇宙飛行士と一緒にISSで仕事をするって、まさしく官民が共同するカタチで面白いですね。宇宙食の話題が出たところで、星出さんに見て頂きたいものがあるんです。
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星出:
なんですか?
- —宇宙日本食に認証された若狭高校のサバ醤油味付け缶詰です。
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星出:
あー、これですか!
- —実は私は福井県出身で先日、若狭高校に宇宙日本食の取材に行ってきました。宇宙で美味しく食べてもらいたいと熱心に味の改良に取り組んでいましたよ(来月詳しく紹介予定)。星出さんは宇宙飛行中、お魚は食べてましたか?
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星出:
食べましたよ。
- —宇宙食ってお肉中心のイメージがありますが。
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星出:
前回宇宙に行って思ったのは、私は食にはあまり頓着しない質だったんですけど、食は大事だなと思いました。美味しいのはもちろんですが、バラエティが欲しい。同じものを毎日ずっと食べていたら飽きてしまう。色々な食があることが非常に大事だなと感じました。まさにその大きな一歩じゃないですか。
- —聞くところによると、お魚はロシア人飛行士に人気があるとか?
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星出:
そうですね。やっぱりアメリカは肉料理の文化で、もちろんお魚も食べますけどね。ロシア料理は日本の食文化に近いものがあって、生魚とかいくらもそうですよね。味付けとかなんか似ていて美味しいんですよ。
- —このサバ醤油味付け缶詰は、高校生たちが作っている点で面白い取り組みかと思います。
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星出:
そうみたいですね。何年ぐらいかかったんですか?
- —12年です。先輩から代々受け継がれて。
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星出:
壮大なプロジェクトですね。すごいなぁ。
- —もしお口にあえば、ぜひ宇宙で。
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星出:
ありがとうございます。
ポストISS-日本はチャレンジを!
- —現在、日本でもISS後の月探査が議論されています。月探査の中で日本は何を担うのか、重要な時期かと思います。
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星出:
そうですね。今まで開発してきた「こうのとり」「きぼう」やロケットなどの技術をベースに貢献し、さらに一歩踏みだして新しい分野にチャレンジするのが大事だと思います。小型回収カプセルも有人宇宙船への最初の一歩と申し上げたのは、設計だけでなく、実際にやってみて知見を得ることが大事。想定通りだった点、想定以上にうまくいった点、いかなかった点を検証して次につなげていく。
- —例えば日本が月着陸船を目指すという話がありますが、どう思いますか?
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星出:
それもありだと思います。たとえば今、ISSへの貨物船は米ロと日本で4つあって、どれかがうまくいかなくても他で補完し合えます。オプションを持てば確固としたプログラムになります。無人貨物船の場合と同様に、(月着陸船を)どこか他機関がやっていても、それに加えて日本もやれば、万が一何かあったときに補完し合える。
- —日本の今の技術力なら、月着陸船はできると思いますか?
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星出:
できるんじゃないですか?技術力やポテンシャルはあると思います。ただしそれを証明していかないといけないし経験が必要。やることによってさらに技術力はついてくるものです。「きぼう」にしろ「こうのとり」にしろ、そういう過程をふんでいる。
- —確かに。「きぼう」はちょうど打ち上げ10周年、こうのとりも来年で10周年です。
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星出:
「きぼう」も打ち上げ前はどうなるかわからず、恐る恐るという感じでやってみて、今は普通に運用していますよね。この10年の経験は何物にも代えがたいんじゃないかな。
- —2008年に星出さんが「きぼう」与圧部をISSに取り付け、「きぼう」というのれんを掲げました。次に行くときは新しいのれんを?
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星出:
考えないといけませんね!
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