クルードラゴン初飛行成功!次はスターライナー
「宇宙の歩き方2019」①
ついに「その日」がやってきた!3月2日、アメリカ国土からアメリカが開発した有人宇宙船(今回は無人)が打ち上げられたのだ。スペースXが開発中の有人宇宙船クルードラゴンが3月2日16時49分(日本時間)、宇宙服を着たダミー人形「リプリー」や地球のぬいぐるみ等を乗せ、NASAケネディ宇宙センターから飛び立った。発射翌日にはISSへの自動ドッキングに成功。約5日後の8日16時ごろISSを離れ、同日22時45分、大西洋に着水した。
「新しい時代の幕開けだ!」とアメリカ国民は大喜び。2011年7月にスペースシャトルが引退してから7年半、アメリカは有人宇宙船を打ち上げることができず、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の送迎は、ロシアのソユーズ宇宙船に頼らざるを得なかった。宇宙大国アメリカにとって、屈辱的な状況が長く続いていたのである。
打ち上げまで計画より長い時間がかかった理由について、関係者は「NASAとSpaceXが有人機としての安全な運用を実現するために、確実な作業をきちんと進めてきた結果」と語る。新しい宇宙船には、野口聡一飛行士(今年末打ち上げ予定)、星出彰彦宇宙飛行士(来年春打ち上げ予定)が搭乗する可能性がある。そのため日本もNASAと緊密な連携をとりながら、安全確認を進めてきたそうだ。
ようやくこぎつけた今回の飛行成功について、JAXA理事であり宇宙飛行士の若田光一さんは「素晴らしいですね。僕も乗りたいぐらいですよ!」と目を輝かせた。
ダミー人形リプリーには様々なセンサーがとりつけられ、飛行中の振動や重力加速度などの環境について詳細な解析が行われる予定だ。さらに、今回帰還した宇宙船を使った緊急脱出テストも実施される。順調にいけば、宇宙飛行士二人が乗った有人試験飛行が7月末に行われる予定だ。その時は今回以上に、アメリカ中が熱狂するだろう。
クルードラゴンだけではない。4月にはボーイング社が開発中の宇宙船スターライナーも無人飛行を行う。結果次第ではあるものの、早ければ8月に有人試験飛行を行う予定だ。
そして注目してほしいのは、これらの民間宇宙船は近い将来、私たち一般人の宇宙旅行に使われる可能性が大きいこと。例えばボーイングは宇宙ホテル建設を目指すビゲローエアロスペースや、宇宙旅行会社スペースアドベンチャーズ社とすでに協力関係を結んでいて、具体的に民間宇宙旅行を視野に入れているし、スペースXのイーロン・マスクCEOも宇宙旅行に言及。楽しみではないか!
つまり、2019年はアメリカの有人宇宙船復活のみならず、私たちの宇宙旅行実現に向けて、大きくジャンプする年になるということだ。そこで、二つの宇宙船にどんな特徴があるのか、写真を中心にまとめてみよう。
ISSや宇宙ホテルへの往復—「クルードラゴン」vs「スターライナー」
まずは3月に無人の試験飛行を成功させた、スペースX社のクルードラゴンから。クルードラゴンは7人乗りの宇宙船(ISSへの宇宙飛行士送迎は4人の予定)で、高さ8.1m、直径4m、人が乗るカプセル部分の容積は9.3m3。4つの窓があり、緊急脱出システムを装備。ファルコン9ロケットで垂直に打ち上げられ、ISSに自動ドッキング。地上への帰還時は海にパラシュートで着水する。
クルードラゴンの内装は「スポーツカーのよう」とも評される。スペースシャトルやソユーズ宇宙船は多数の機械式スイッチ類があったが、クルードラゴンにはほとんど見当たらない。3つの大きなタッチスクリーンにリアルタイムの飛行状況や船内の環境データ等が映し出される。基本的にはクルードラゴンは自動運行し、地上のミッションコントロールセンターが飛行状況をモニターするが、緊急時には宇宙飛行士が操作を担う。
船内は無駄な装飾がなく、シンプルなデザインが特徴。最高品質のカーボンファイバーが乗員用のシートに用いられている。打ち上げや帰還時、さらには緊急脱出時でさえ、受ける重力加速度は「ディズニーランドの乗り物で受けるぐらい」とスペースX社は機体公開時に説明したとか。実際、どのくらいの重力加速度を受けるのかについては、今回の無人試験機に搭乗したリプリーの解析結果を待ちたいところ。打ち上げと帰還時に着る宇宙服もスタイリッシュかつ機能的なデザイン。ヘルメットは3Dプリンタで作られ、とにかく軽い。
スペースシャトル船長が開発・初飛行を担う「スターライナー」
一方、ボーイング社のスターライナーは直径約4.5m、高さ約5m、人が乗るカプセルの容積11m3で、クルードラゴンより平べったい恰好をしている。カプセルは最大10回、再利用できる。船内は革新的な無溶接設計でボーイングの787機等で採用されたLED照明「Sky Lighting」を装備。開放感のある空間を作り出しているとのこと。無線インターネットが備えられているほか、乗務員用にタブレット型の操作パネルが採用されている。
クルードラゴンもスターライナーも形はカプセル型だが、違いの一つは帰還が水上か陸地かという点。スターライナーは陸地に着地する計画だ。また、民間航空機業界のベストプラクティスが採用され、緊急時にパイロットが手動で制御することもできるとのこと。緊急時にパイロットが操縦する点はクルードラゴンも同じだが、スターライナーの操縦席まわりの写真を見ると、確かに航空機メーカーならではの知見が生かされているようだ。このあたりはクルードラゴンとの大きな違いと言えるだろう。
クルードラゴンとスターライナー、見た目は同じようなカプセル型だが内装や宇宙服、そして設計思想は異なる点が多いようだ。これから始まる両社の試験飛行は、「もし、自分が乗るなら」という視点で注目すると、より楽しめるはず。
「宇宙の入り口への旅」も実現間近
ところで、宇宙旅行と言えば、宇宙への入り口(高度80~100km)へタッチして帰る宇宙旅行(サブオービタル飛行と呼ばれる)の方が身近かもしれない。2月にはヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船スペースシップ2が初めて乗客ら3人を乗せ、高度89.9kmに到達(国際航空連盟(FAI)は高度100kmから上空を、米空軍は80kmから上空を宇宙と定義している)。同社は25万ドル(約2800万円)で宇宙旅行を販売しており、約700人が宇宙旅行スタートを待ち望んでいる。ライバルはアマゾンドットコムのジェフ・ベソス率いるブルーオリジンだ。同社の宇宙船ニューシェパードは無人ではあるが既に10回の試験飛行を繰り返し、高度119kmに達している。公開されている動画を見ると、その飛行は極めて安定している。
ブルーオリジンは今年中には人を乗せ有人飛行を行うと共に、宇宙旅行を販売スタートすると見られている。同社のウェブサイトで「宇宙飛行士になろう」という文字をクリックすると宇宙旅行についての詳細ページに飛ぶ。すべての座席が窓に面した船内など、宇宙旅行の詳細が紹介され、最後には「あなたの席を予約しましょう」と巧みに誘う(思わず予約してしまった!)。代金はまだ提示していないものの、宇宙旅行開始は時間の問題だろう。これら宇宙船の詳細についても、近いうちに紹介したいと思います。
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