「宇宙で単身赴任中のおとーさん」に会ってきました。
アバターで。
地球から高度約400km上空。サッカー場ぐらいの広さがある国際宇宙ステーション(ISS)で約半年間働くおとーさんには、なかなか会うことができません。でも、会ってきたんです。瞬間移動可能な「アバター」で。
っていうのが近い将来可能になるでしょう。いや、すでに実現しつつあるのです。一足先に体験してきました!
11月20日、東京・虎ノ門ヒルズの「特設会場」が、ISSに瞬間移動する「どこでもドア」になった。ISS「きぼう」日本実験棟の窓際に設置された「space avatar(スペースアバター)」を世界で初めて一般の人が操作して、野口聡一宇宙飛行士とやりとりする技術実証実験が行われたのだ。特設会場におかれた円盤のような操作盤を動かすことで、「space avatar」にアバターイン。窓の外の地球を見たり、仕事をする野口飛行士や「きぼう」船内の様子を見て、コミュニケーションをとったりできる。
JAXAやNASAに行かず、街中から宇宙につながるのは画期的。4K高精細映像カメラを搭載しているから映像は鮮明だし、窓の外の景色については補正されていないリアルな映像を見ることができる。
このプロジェクトはANAグループのavatarin、凸版印刷がJAXAなどの協力を得て実施したもの。avatarin代表取締役社長の深堀昂氏によれば、「世界で初めて、一般の方がISSにおいたアバターを動かせたのは画期的。ISSはセキュリティが厳しく、従来は自由に一般の方がコマンドを送ることができませんでした。さらにJAXAの管制室から操作するのではなく、街中でも自宅PCもスマホでもどこからでも操作できる。一般の方に宇宙を使って頂ける可能性が初めて出てきた。大きな市場になるのではないかと思います」と自信と期待を見せた。
なぜ、一般の人が街中からISSの機器に接続できたのか。そこには工夫があった。「ここ(虎ノ門)からコマンドを送るとJAXAでコマンドが画像として映るディスプレイを用意しました。その画像をカメラが認識してコマンドを宇宙にあげます。有線で繋げるとウイルスの恐れがあるが、非接触なら一般家庭からでも自由に繋げることが可能です」(深堀社長)
実験実施までに大変だったことは?「一般の人がISSにコマンドを送った前例はないし、そもそも宇宙飛行士がいる空間で機器を動かすこと自体が簡単でない。JAXAやNASAとの調整が大変でした。まずは実現しやすい形ということで、(space avatar)はこの形になりました」
私も「space avatar」を操作させてもらった。野口飛行士の指示がわかったということの合図に、カメラを上下に動かしうなずくように操作。操作円盤をぽん!とおすと少しずつカメラが動く。通信がJAXAやNASAなどを介すことから実際にカメラが動くまで約20秒かかるが、確かに指示に従ってアバターが動いた!それを見た野口さんがまた頷く。「宇宙と直接コミュニケーションがとれた!」という実感がある。
船外の地球を見るのも楽しいが、発見は「きぼう」船内の様子や野口さんの動きが事細かに見えること。野口さんは11月17日(日本時間)にISSに到着したばかり。「きぼう」船内には物があふれているが、野口さんの動きはとてもスムーズで、宙返りなどをみせてくれた。顔色もよく表情も豊かで元気そう。相手の表情がよく見えるから、遠く離れてなかなか会いに行けない人とのコミュニケーションにはうってつけと感じた。
深堀社長によると、具体的な利用例としては映像記録ができるので、宇宙飛行士が現在行っている実験の記録等を「space avatar」が担い、宇宙飛行士の作業負担を軽くすることもできるし、エンターテインメントにも使えるだろうとのこと。
アバターを宇宙で使う「アバターXプログラム」については2年前にも取材した(過去記事は欄外リンク参照)。記事で「ISSに一体のアバターがいたら、ある時は地上の科学者がログインし、専門知識や特殊技能を要求される宇宙実験を自ら行ったり、別の時にはエンジニアがログインし船外活動で作業を実施したり、医師が宇宙飛行士の診察をすることも可能になる。つまり、自分が現場に行った感覚でとっさの判断を行い、操作することが出来る」と紹介した。今回は実証実験だから目の働きをする映像だけだが、腕や手をアバターに装着し、地上の操作者の手の動きとシンクロしてアバターが同じように動くなどの研究開発が進んでいる。
アバターが月面にあれば放射線環境の厳しい月面の作業を代わりにやってくれるだろうし、逆に地上にあれば、宇宙飛行士が地上の家族との団らんに参加して会話を楽しんだり、子供と手をつないだり抱っこできるかもしれない。もちろん私たち一般人が宇宙を楽しむエンターテインメントの利用にも期待が膨らむ。
深堀社長は「船外で宇宙遊泳体験ができるようにしたい」とのこと。それ、やりたい!「実は宇宙船の中にアバターを置くことについては、宇宙飛行士の時間を邪魔しないことなど制約が多い。船外なら宇宙飛行士の活動を邪魔することはない。放射線対策など環境は厳しいが、ぜひ形にしたいと思っています」(深堀社長)。楽しみだ。
JAXA筑波宇宙センター見学、病院での活用も
アバターロボットの活躍の場は広がっている。特設会場には、動き回るアバターロボット「newme(ニューミー)」が置かれていた。同じものがJAXA筑波宇宙センターにあり、虎ノ門におかれたPCからアバターイン(遠隔操作)することで、センター内を見学し、案内係の方の説明を聞くこともできた。
アバターロボットは現在のコロナ禍で利用が進んでいる分野があるという。例えば病院。「新型コロナウイルスで感染した方が入院した、8つの病院でも実際に使って頂いています。お医者さんが汚染エリアに入るのをなるべく制限し、医師がアバターロボットを操作して回診することができます」(深堀社長)
今まさに、利用が期待される場所だ。深堀社長は宇宙という極限環境で培った技術をどんどん転用して災害時や、通信環境の悪い離島でも活用したいという。もちろん、月面環境でも宇宙飛行士が行く前に建設などで活躍してくれるに違いない。
「宇宙単身赴任中のおとーさん」のこんな笑顔をくっきり見ることができて、なにより安心したかな。
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