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星空の散歩道

2011年1月26日 vol.62

第2の池谷・関彗星は現れるか?

太陽観測衛星SOHOが2010年3月に撮影したクロイツ群の彗星。右上の太陽(白い円)は隠されている。(提供:NASA/SOHO)

太陽観測衛星SOHOが2010年3月に撮影したクロイツ群の彗星。右上の太陽(白い円)は隠されている。(提供:NASA/SOHO)

 池谷・関彗星という名前をご存じだろうか。もしかしたら、実際にご覧になった人が読者の中でもいるかも知れない。1965年9月に浜松の池谷薫氏と、高知の関勉氏が、ほぼ同時に発見した彗星である。当初は肉眼では見えない7等から8等の彗星だったが、どんどん太陽に近づき、明るくなっていった。というのも、この彗星が太陽をかすめる軌道を持つ彗星群:クロイツ群に属していたからである。クロイツ群とは、ほぼ同じ軌道を持つ多くの彗星の群れからなっていて、これに属するいくつかの彗星が、19世紀に極めて明るい大彗星となったことでも知られていた。池谷・関彗星も、1965年10月21日に太陽からわずか約45万kmを通過し、その様子はわれわれ国立天文台の乗鞍コロナ観測所でも撮影に成功した。その後、太陽に近づきすぎたせいで核がいくつかに分裂すると同時に、10月下旬には、明け方の薄明の空に肉眼でも長い尾を引く姿で現れ、20世紀の大彗星の一つとして、歴史に残るものとなったのである。

 このクロイツ群が、いま話題になっている。というのも、この群に属する彗星の数が、最近増加傾向にあるからである。もしかすると、池谷・関彗星のような「親玉」クラスの彗星が現れるのではないか、と期待する向きもある。

 これらの彗星を捉え続けているのが、NASAの太陽観測衛星SOHO(太陽・太陽圏 観測衛星:Solar and Heliospheric Observatory)である。1995年の観測開始以来、太陽そのものを隠して撮影するコロナグラフによって、太陽から吹き出るフレアやコロナ質量放出などの太陽の現象を詳細に観測するだけでなく、太陽に近づいて明るくなる彗星を、すでに2000個以上、発見している。彗星といっても、 ほんの数時間で消えてしまったり、中には太陽に衝突してしまうものもあり、その軌道が正確に決められるわけではないが、それでもクロイツ群に分類される彗星はかなり多い。SOHOが観測した彗星の数は、1997年にはせいぜい一年に69個であったが、徐々に増加し、2010年は約200個となっている。もちろん、これはアマチュア天文家が、常時SOHOの画像をインターネットで監視し、発見を競っているという理由もある(SOHO彗星のほとんどは、リアルタイムで公開される画像から、アマチュア天文家がいち早く彗星らしき天体を発見し、それをSOHOに報告するという独自のシステムである)が、どうもそればかりではないらしい。右肩上がりの漸増傾向に加え、2010年12月13日からの22日までの、わずか10日間でなんと25個もの彗星が観測されたのである。SOHOを運用する米国海軍研究所の研究者も、「これほどの頻度で彗星が観測されたことは、過去には例がない」と話している。そのため、池谷・関彗星のような巨大な「親玉」クラスの彗星が太陽に接近する前兆ではないかと推測する天文学者もいるのだ。

 彗星はしばしば分裂する。池谷・関彗星などのように大きな核が分裂して、細長い軌道を一周回すると、核の破片が細かなものほど前後に広がる。そうすると、「親玉」が帰ってくる前に小さな彗星の数が増えることが、当然のように予想されるわけだ。ただ、残念なのは、池谷・関彗星が出現した当時は、SOHOのような観測衛星が存在せず、池谷・関彗星が太陽へ接近する前に小さな彗星群が増加したのかどうかはわからないことである。逆に、親玉が完全に砕けてしまい、現在観測されている彗星群は、単にその名残の群れに過ぎない可能性もある。今後、この増加傾向が続くかどうか、慎重に見極めないと本当のところはわからないというのが、現状である。いずれにしても、クロイツ群に属する彗星の増加は、とても興味深い現象であることは確かだ。あわよくば、その先に池谷・関彗 星のような「親玉」が控えていて、21世紀を代表する大彗星になってくれることを期待したいものである。