2014年4月14日 vol.82
春の夜空に輝く火星
暖かくなった春の夜空の特徴は、星たちの色とりどりの輝きである。春の夜空のランドマーク、春の大曲線は、その代表だ。北東の空高く輝く大きなひしゃく・北斗七星の柄の部分の星がつくるカーブをそのまま伸ばしていくと、中天にかかるオレンジ色の一等星・アークトゥルスにたどり着く。そのカーブをさらに南へと伸ばしていくと、今度は白く輝く一等星・おとめ座の1等星スピカに行き着く。このふたつの一等星の色の対比は見事である。オレンジ色のアークトゥルスと純白の星のスピカを、海からの贈り物にたとえられて、珊瑚星と真珠星と呼ぶことがある(Vol.16「春の夜空を彩るアーチ:春の大曲線」)。その大曲線に、いま飛び込んで、アークトゥルスのオレンジ色に対抗するように赤く輝いているのが火星である。ちょうど現在は、白いスピカの傍で、スピカよりも明るく輝いているのに気づくだろう。スピカが、ウェディングドレスの純白さを思わせる白さなのに対し、この星の赤さはよく目立つ。この星こそが、ちょうどいま地球に接近している火星である。
火星は約2年2ヶ月ごとに地球に近づく。地球のすぐ外側を回る惑星なので、接近前後はとても近く、明るくなる。また軌道がずいぶんと歪んで、楕円のために、近づくタイミングによって、この接近距離が異なる。夏に接近する場合は、地球に5600万kmを割り込むほど近づく大接近となり、非常に明るくなって、一般の人の目を引くことになる。逆に冬に近づく場合には、接近距離は1億kmを越え、それほど目立たない。とはいえ、一等星にはなるので、冬の夜空でも彩りを添えることは確かだ。このコラムでも、火星の接近は何度か取り上げている(vol.1「赤い星達の競演 :火星とアルデバランとベテルギウス」とvol.25「凍てつく夜空に彩りを添える火星」)。接近するごとに、約2ヶ月ほど季節が進んでいくために、かつては秋から冬の夜空で輝いていたが、いまは春の夜空で明るく輝いているわけである。今年の接近距離は9239万kmで、あまり大接近とは言えない距離だが、それでも火星の明るさはマイナス1.4等となって、全天で最も明るい恒星シリウスに並ぶために、とても目立ち、都会からでも十分に見える明るさとなる。地球への最接近は4月14日。ちょうど、この夜には満月直前の丸い月も火星に近づき、スピカも含めた二等辺三角形を形作ることになる。
4月9日から7月13日までの火星のスピカに対する動き。火星はスピカの上を西(右)に動き、5月末には東(左)に向きを変え、スピカにどんどん接近していく。
アストロアーツ/ステラナビゲータにて作成しました。
ところで、火星は見かけの動きも速いので、毎晩見ていると、次第にスピカから西(右側)へ離れていくのもわかるはずだ。火星が西へ動くのは、地球がちょうど火星を追い越している時だからで、この動きを逆行と呼んでいる。一方、惑星が東(左側)へ動くのを順行と呼ぶ。火星は5月末には逆行から順行に移る。同時に地球からも遠ざかっていくので、その輝きは薄れていく。一方、一端離れたスピカへ再び接近していくことになる。スピカへの最接近は7月13日頃となる。この頃、火星は0.2等とずいぶんと暗くはなるのだが、ちょうどスピカの明るさにも近づくために、紅白の星がなかよく並んで西の空に輝くのが楽しめるにちがいない。