次は、三菱電機のやり投
選手
西村莉子さんに話を聞き
に行くぞ。
パワーをやりに乗せて飛ばす!
- やり投を始めたのは、いつごろなんですか?
- 高校生からです。小学生までは野球のピッチャーでした。中学生になると野球に加えて陸上競技の四種競技を始めたのですが、その中にはまだ、やり投はなかったんです(現在は国内のジュニアオリンピックで「ジャベリックスロー」という類似種目がある)。高校生になって七種競技になると種目が増え、そこにやり投が入っていた、というわけです。
- 野球をやっていたのなら、きっと肩も強かったんだろうなぁ。(腕を振り周しながら)ブンブンッ!
- そうなんです。七種競技の中でも、やり投が得意だったこともあって、社会人になってからは、この種目1本に絞りました。
- やり投選手にとって有利になるのは、身長の高さですか? それとも体重なんでしょうか?
- やっぱり身長というか、腕のリーチが長いと有利です。やりのリリースが高い位置からできますからね。ただ、やり投はアーチェリーのように的を正確に狙う競技ではなく、遠くへ飛ばすためのパワーが必要な競技です。だから、体重も重要なんですよ。
- やり投の専門になったら、競技に合わせた肉体改造もしないといけないんでしょう?
- ええ。七種競技の選手だった時代は、白いご飯(炭水化物)やお肉をそれほど食べていませんでしたが、やり投に種目を絞ってから増量を意識しはじめて、1年半で体重を11kg増やしました。やりにパワーが乗せられるようになったので、さらに今度はキレのある動きを加えてスピードも増したいですね!
- 今日はこのまま、練習の様子を密着取材させてくださいね。
練習で大事なのは体づくり。
- キツいのって、どんなトレーニングですか?
- 体幹や他の筋肉を鍛えるトレーニングかな。私が特に大事しているのは、ケガ防止のために脇腹の筋肉を鍛えることなんですよ。
- やり投では、特に肩の可動域を高めておくのと、股関節を柔軟にしておくのは大事ですね。助走では、最後に足をクロスさせて走りますから。
- 練習って、どんな時間配分なんですか?
- 時期によって内容は違いますが、2時間ほどは柔軟体操などの体づくりがメインで、やりを投げるのはその後の40分間くらいですね。フォームの確認や本番に向けて感触をつかむ目的なので、後でアイシング(氷で筋肉を冷やす)が必要なほどの全力では投げません。それに加えて、ジムで筋力トレーニングもしています。
- さっきゴムチューブで鍛えていたのは、大臀筋(お尻の筋肉)ですか?
- そうですね。私は右利きなので、投げるときに踏ん張る左足の力を鍛えるのがいちばん大切ですが、蹴り出す右足からお尻にかけての筋力も重要なんですよ。
- あれ? 今、これって何をしているところですか?
- 自分にベストな助走距離をスターティング・ライン(投てきライン)から測っているんですよ。やり投の選手は、やりという定規をいつも持っているから便利です(笑)。私は助走を長く取るので、外のトラックにまで差し掛かるところから走ります。手にしている今のやりで13本分です。
いよいよ投てき!慣れないと
難しい。
- さぁ、西村選手。助走に入りました。スターティング・ラインの5歩くらい手前でスローイン体制に。それから腕を……すばやく振り抜いたっ!!
- すっごーい、目にも留まらないスピードで飛んでいった!! 投げるモーションに入ってからの手足の動き、なんだかとても難しそうだわ。
- そうなんです。私は投げるとき、やりを顔にぶつけてしまうことがたまにあって、そのクセを修正しているところです。
- 風は影響しますか?
- 風向きを確認して、投げ出す角度を調整しています。やっぱり、追い風になると距離が伸びますね。
- 投げる瞬間のコツってありますか?
- やりをどれだけ高い位置でリリースできるかでしょうか。私は投げる瞬間、一瞬だけギュッと握るように力を入れます。指を「握り」の部分に引っ掛けているので、野球にたとえるとスライダーを投球するイメージで回転させています。
- 実際に体験するとよく分かるから、ワン太くん、一度投げてみる?
- えっ、いいんですか!? よーし、がんばるぞー。助走から、1、2の……あれぇ〜、右側にすっぽ抜けちゃった。この重たさで、こんなに長さがあるものを真っ直ぐに飛ばすって、実に難しいんだなぁ。
- 初めてにしては上出来だったけれど、野球のように肘を出して投げると、途端に肘や肩を壊してしまうのでダメですよ。
夢は、誰かの憧れになること。
- あらためて、やり投という競技の見どころを教えてください。
- やりを投げるまでに、ダイナミックな体の動きがあるところですね。スタンドにいる観客のみなさんだったら、真横から見るのが分かりやすいですよ。
- こんなに複雑な体の動きをするなんて、思わなかったよ。研究所に帰ったら、詳しく映像を見たいな。
- 競技者は、他の競技者を後ろから見て研究しますね。私は男性選手の動きをこうやってタブレット端末のムービーで再生して、パワーの乗せ方を研究しています。
- 西村選手にとって、やり投というスポーツの醍醐味(だいごみ)ってなんですか?
- やり投という種目は個人競技なので、自分が一人で努力を重ねた結果がちゃんと数字として出るのがうれしいです。そうは言っても、チームで大きな大会に出場して盛り上がるのも、また別の良さがある感じていますよ。
- 最後に、これからの夢を聞かせてください!
- 私にとっては「誰かの夢になるのが、自分の夢」なんです。自分の活躍を見てもらって、こんな選手になりたい!と憧れてほしいです。メダルを獲ったら海外メディアにインタビューされるから、カッコよく英語で受け答えできるようにしたいなぁ、と思っています(笑)
- その夢、応援しています!!
- あれれ? なんでスーツに着替えたんですか?
- これから会社に移動して、仕事をするんですよ。
- じゃあ、僕らは研究所に戻って所長に報告してきます。撮影した映像で、やり投の動きをもっと分析しなくっちゃ!
2020年2月公開