「陸別だけじゃ だめなんだよ」
~東北では雪質・積雪、すべてが違った。
2009年。発売から2年目を迎え、順調に販売台数を伸ばす『ズバ暖』に初めての挫折が訪れる。クレームは東北からだった。「おーい、室外機が雪だるまだぞ。どうすんだ」。
東北日本海側、中でも秋田の横手市から山形の尾花沢市の一帯は「気温が低く、降雪量が多く、湿度が高い」。ヒートポンプにはきわめて厳しい環境にある。このクレームも秋田の販売店からだった。
駆けつけた山下に厳しい声が飛ぶ。「これ、ちゃんとフィールドテストやったのか?」「やってきました。」「どこで。」「北海道で一番寒い陸別です。」「一番寒いというだけじゃ通用しないよ。いいか、ここじゃ12月は旭川や札幌のような雪が降る。3月は新潟の雪が降る。時間とともに気温も雪質もどんどん変化していくんだよ。」だからこそ、このクレームなんだと。いくら寒くても、湿度の低い北海道では起きなかった問題。改めて現場の大切さを思い知らされた。
後に“現場の鬼” の異名をとる山下が誕生した瞬間でもあった。
豪雪、湿雪を乗り越えて
~室外機凍結のメカニズムを追った3年。
早速、「ここでテストをさせて下さい」とお願いし、そこから雪との戦いが始まった。
原因究明には3シーズンをかけた。自然現象で起きる症状は再現ができない。だからタイミングを逃さないためには現場に張り付くしかない。3日でも、4日でも。3年目の終わり、ついに凍結のメカニズムを解明。4年目に対策パーツを完成させ、最終テストの上、解決した。4年にわたって協力を仰いだ方からは「本気で直す気があるならどこまでも付き合うぞ」と力強い言葉をいただいた。その言葉が、降雪の中4時間5時間の屋外テストで芯まで冷えた山下の体を温めてくれた。
地元の方との同志のような関係。豪雪との戦い。これをきっかけに地域ごとのよりきめ細かなテストのもつ意味を再認識し、次々に改良を加えて『ズバ暖』は、地域を選ばず性能を発揮できるエアコンへと進化を遂げていくことになる。
北国すべての満足を求めて。 ~山形・新潟・富山・石川。地域の声を開発に。
たとえば、山形、新潟、富山、石川では、冬のドレン※1 対策が足かせで販売店が苦労していた。通常のドレンソケット※2 では径が細く、排水が凍りついてしまう。そこで、『ズバ暖』専用のドレンソケットを製品化。従来比2.5倍の太さで配管内凍結を防止した。
また室外機との接合部に隙間を確保し、万一配管が凍結しても室外機内に至らない設計とした。ここでも試作品を120個配布することによる、1シーズンのフィールドテストを行った上で、地域限定オプション部品として提供。この部品は、ドレン対策の救世主となり、こうしたきめ細かな対応は、さらにズバ暖のファンの輪を広げることにもなった。
豪雪地帯、湿雪地帯、極寒の地。あらゆる北国の冬に立ちふさがる壁を次々に乗り越え、『ズバ暖』は信頼される寒冷地エアコンへと育ち、北国全土で市民権を得ていった。
※1:ドレン・・・空気が熱を失って凝縮した水のこと。*寒冷地・積雪地域に室外機を設置する場合には、ドレン水 が凍結し、ファンが回らなくなる恐れがある。
※2:ドレンソケット・・・ドレンを屋外に適切に流すための部品。