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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

能登半島地震、衛星データはどう活用されたのか? SPACETIDEで議論白熱

発災から約1か月以内の石川県輪島市の様子。(提供:石川県ホームページ)

2024年1月1日16時10分に発生した能登半島地震。「だいち2号」が当日23時過ぎに緊急観測を行ったことを、以前の記事で紹介した。現場に簡単にアクセスできない災害時、人工衛星データは貴重な情報源になるはずだ。では実際に災害現場で、衛星データはどう活用されたのか、今後に向けた課題はあったのだろうか。

7月8~10日に行われた国際宇宙ビジネスカンファレンスSPACETIDEで9日、「より早く、沢山の人を救うため。衛星ネットワークは何を実現すべきか? 能登半島地震のケース」と題したディスカッションが行われた。これまで衛星開発者の声を取材することが多かったが、衛星データを「使う側」の意見や問題提起がとても興味深かったので紹介しよう。

右から東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 渡邉英徳教授、JAXA ALOS-2ミッションマネージャ 祖父江真一氏、国立研究開発法人防災科学技術研究所 総合防災情報センター長 臼田裕一郎氏、(株)Spectee CEO 村上建治郎氏、一般社団法人SPACETIDE 理事兼COO 佐藤将史氏。

国だけでなく民間衛星のデータが次々届いた

衛星データを活用する側では、2016年頃から災害現場で本格的な活動を行ってきた、防災科学技術研究所の臼田裕一郎氏が現場の臨場感を伝えた。

臼田氏は能登半島地震が起こった直後、ISUT(アイサット:Information Support Team、災害時情報集約支援チーム。内閣府と防災科学技術研究所などから構成される)として現地入りしている。

ISUTは地震発生から2分後にオンライン参集し、その日のうちに現地入りしている。(提供:国立研究開発法人防災科学技術研究所。臼田裕一郎氏の発表資料より)

ISUTは、被災地での「情報共有」活動を行う。現場では救助や避難所支援など様々な団体や機関が活動しており、それぞれもっている情報が違う。「お互いにシェアすれば活動はもっと早くなる」という目的のもと、2016年の熊本地震から活動を本格化した。

能登半島地震では現地に「ミニ霞が関を作る」という国の施策のもと、様々なチームが立ち上がり、ISUTは被災地情報集約という立場で参加。16時10分に地震発生、2分後にオンライン参集、30分後にはISUT派遣が決定し、自衛隊ヘリに乗って当日夜に現地入り。元旦にも関わらずものすごいスピード感だ。「地震情報、通信途絶、道路情報、空中写真などから被害状況の抽出などを行い、自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)をはじめ関係者に情報を届けた」と臼田氏は活動内容を語る。

その情報の中に衛星データは含まれていたのだろうか?「衛星画像は非常に多く集まった。2018年頃は衛星データが現場に届かず『衛星データはまだか』という声があがり、そのうち飛行機が航空写真を撮り始めると誰も衛星データの話をしなくなっていたのが大きな課題だった。今回は最初に『だいち2号』、その後さまざまな民間企業から衛星データが届いた。公開できる画像は防災クロスビューというウェブサイトで一般公開している」(臼田氏)

「防災クロスビュー」は、災害の発生状況から進行状況、復旧状況、過去の記録、将来予測に至るすべての災害情報を重ね合わせて、災害の先を見通し、防災にフル活用可能なシステム。官民の衛星データもここにどんどん集約していった。(提供:国立研究開発法人防災科学技術研究所、Axelspace、QPS研究所、Synspective、JAXA、Umbra。臼田裕一郎氏の発表資料より)

課題「この道路は通れない可能性がある」とわかれば

ただし、課題もある。「衛星画像だけ届けられても現場の人は解析ができない。現場で何が起こっているか、何が問題かまで解析や情報抽出して届けてくれるといい。もっと言えば、土砂災害がどこで起こった、津波がどこまで来たというだけではなく、『どの道路は通れない可能性がある、どの道路は影響がなさそう』とわかると、現場はものすごく活用するだろう」と臼田氏は期待を述べる。

だが、「完璧な精度のデータでなくてもいい」ともいう。「現場的には精度が悪くてもいいからいったん早くデータが欲しい。この道がダメならおそらくこっちの道もダメだろうという判断が現場でもできる」(臼田氏)。やはり迅速性が鍵のようだ。

この点について、JAXA ALOS-2(だいち2号)ミッションマネージャの祖父江真一氏は「関係省庁には解析したデータを速報的に発災翌朝に提出している」という。だが、それら解析データが広く一般にJAXAホームページなどで公開されるのには時間遅れが発生している。一方、民間で衛星データを必要とする人たちもいる。

民間の立場で衛星データ活用について語ったのは、(株)Spectee CEOの村上建治郎氏だ。

2019年の佐賀県武雄市の河川氾濫について、(株)Specteeが衛星データとSNS情報から作成した3Dマップ。(提供:(株)Spectee)

Specteeの創業は2011年。東日本大震災が発生した年であり、元々は個人向けに「ここでボランティアを募集している」「ここでこんな物資が足りてない」という情報を被災地から集約して届けるところからスタートした。現在のミッションは「危機を可視化する」。

村上氏によると、2022年に世界の震災による被害は約45兆円にのぼるという。その中でも、日本は災害大国で毎年のように地震や水害などが発生している。少しでも被害を最小化したい。そこでSNSの動画などの情報、気象データ、道路や河川のカメラ、衛星データなど様々な情報をリアルタイムで解析し、「今、どこで何が起きているか」地図上にプロット。アラートをかけたり、予測値を出したりしているという。

これら情報サービスは200以上の自治体を含む1000以上の官公庁や民間企業の契約実績があり、海外向けも進行中。今年10月にはフィリピンでサービスを始める計画だという。衛星データを活用した実証実験にも取り組んでおり、2019年に起きた佐賀県武雄市の河川氾濫では衛星データとSNS情報を組み合わせてリアルタイムで被害状況を「見える化」し、3Dマップに落とし込んだ。衛星だけだと、水害の範囲がどこまで広がっているか、その端が判断つかないケースがあり、SNSの情報をもとに補正する。

(提供:(株)Spectee)

村上氏は衛星データの問題について二つの点を指摘した。まずは速報性。「他の情報と比べると衛星データはリアルタイム性がどうしても落ちる。できるだけ早く情報が欲しい」。そして「衛星データへのアクセス」という点。「いくつか提携している会社があるが、(災害が起きた)その瞬間、その場所上空を飛んで撮影しているデータがどこにあるのか。普段から取引がない会社だと情報にアクセスすることも難しい。有償かどうかという問題もある」(村上氏)。

望ましい形としては「(衛星データが)プラットフォーム化され、マーケットプレイスのような形で自由にアクセスし、衛星データを取得できる仕組みがあれば」という。

この点について防災科学技術研究所の臼田氏は「政府サイドでは衛星データが特別に提供され、アクセスできる人はいるが、民間や様々な人たちが自由にアクセスできるわけではない。政府が海外の衛星も含めてデータを購入するなら、そのデータを一つの場所に集めて、解析ができる民間企業や大学の先生にアクセス権をあらかじめ与えておき、データが入手できたらすぐ(解析に)動ける形がとれると、災害対応が全然変わってくると思う。これからの大きな課題です」と衛星データ活用への具体策を語った。

災害時、現場になかなかアクセスできない状況で、宇宙から定期的に観測できる人工衛星のデータはもっと活用できるはずだ。別の観点からの事例を臼田氏は紹介した。

被災者支援で衛星データは使えるか

(提供:防災DX官民共創協議会の取組資料より)

臼田氏はISUTとして情報共有を進めつつ、防災DX官民共創協議会理事長として民間企業と現地で活動している。行政ではできないことを民間の力でどう対処するかという観点から、JR東日本の協力を得て交通系ICカード「Suica」を被災者に配布した事例を紹介した。「(被災者の方々が)Suicaを受信機にタッチすることで、被災者がどこの避難所にいるか、食事は受け取れているか、入浴施設を使っているかなど一人一人の情報を集め、行政としてどんなサービスに繋げていくか検討した」という。

課題は被災者支援で衛星画像の議論が起こらなかったこと。ただしニーズはあったそう。「建物がどう壊れたか、罹災証明のために職員が一軒一軒、建物を目で確認しにいく。職員が現地に行く代わりに衛星データが活用できないか。その議論が今回はチームの中で出てこなかった」。活用のためには衛星データがどこまで何ができるか、担当者の理解も必要だ。議論を聞きながら、まだまだ衛星データを活用できることがありそうだし、平常時からの普及活動の必要性も感じた。

発災から概ね1か月以内の能登町の様子。建物の被害状況の把握などに衛星データが活用できるかもしれない。(提供:石川県ホームページ)

様々な衛星が連携して観測するには

能登半島地震で、いち早く観測データを提供したのはJAXAの衛星「だいち2号(ALOS-2)」だった。「だいち2号」の特徴についてミッションマネージャの祖父江真一氏は「(地球上どこでも、現地時間の)昼の12時と夜の0時に観測すること」をまず挙げた。

例えば2015年9月、鬼怒川流域で夜、洪水が起こった際も、夜中に「だいち2号」が観測しデータ解析、数時間後の朝にはポンプ車をどこに出せばいいか情報を提供したという。「レーダ衛星のデータは白黒で判読しづらいが、浸水した場所は暗く映ります。過去のデータとの比較で、どこが浸水域になったか面的に把握できる」。

「陸域観測技術衛星2号「だいち2号」データ利用シンポジウム」「だいち2号」の防災対応の取り組み資料より(提供:JAXA 第一宇宙技術部門 Earth-graphy)

能登半島地震は元旦に起きた。地震発生約30分以内に、JAXA担当者は国交省からの連絡を受けた。「24時間いつ災害が起こるかわからない。私はJAXA筑波宇宙センターから3kmの地点に住んでいて、いつ呼び出されても行けるようにしている。気が休まらない仕事です」。今回も「だいち2号」は地震発生当日の23時10分に緊急観測を実施、3時30分には発災前後の画像から変化した場所を抽出した「災害速報図」を提供、5時20分には推定被害情報を防災機関に提供している。

民間の衛星との連携についてはどうだろう。「まずは広域に観測してどのあたりに被害があるかを調べることが重要。その上で被害が想定される場所を、(民間の衛星で高頻度に観測し)データを下さいという連携観測を官民でやっていかないといけない」(祖父江氏)。

今後の課題について、祖父江氏は東日本大震災時の経験から、別の観点を提示した。「一番困ったのは(衛星からデータを受け取る)地上局の電力がないことでした。衛星は生きている、データはとれている。でもデータを下ろすための地上局を動かす電気がない」。具体的には埼玉県鳩山町の地球観測センターで「ALOS」からのデータを受信していたが、受信用パラボラアンテナを動かす商業発電が使えない状態になった。自家発電を起こすための燃料を工面するのに苦労したという。災害時の通信網はよく話題になるが、電力については盲点だったかもしれない。

東京大学の渡邉英徳教授は能登半島地震発生後、国土地理院の航空写真を使って被災状況がわかるマップを作成、Xで発信を続けた。SNSではデマ情報も混在する中、信頼できる情報源としてテレビ局などの取材が殺到した。「全貌が掴めない災害時、テレビ局は何もわからない。衛星や航空写真がよりどころになると一般にも伝わっている」。

ディスカッションの進行役を務めたSPACETIDEの佐藤将史氏は野村総合研究所時代、防災の仕事に従事し、政策提言していた経験をもつ。「衛星データをわかりやすい情報に加工できる人が繋がり合っていれば、必要な人たちにもれなく情報提供できるのでは。大きな政策課題として議論を続けたい」と締めくくった。

能登半島では今も困難な状況に置かれている方たちが大勢おられる。宇宙開発は災害に対して何ができるのか、その視点を忘れずにいたい。

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