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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

3年ぶり好条件の流星群、約80年ぶりの新星爆発!? —真夏の夜は星空を見上げて

猛暑です。くらくらする暑さに外出を控えがちになるこの夏。気温が下がる夜に、星空を楽しんではどうだろう。今年8月の星空は見どころ満載だ。3年ぶりに好条件のペルセウス座流星群、惑星たちの共演、そして78年ぶりに起こるかもしれない新星爆発があるという!

石垣島天文台で2020年8月13日1時27分に撮影されたペルセウス座流星群。方角は西の空で天の川と木星、土星が写っている。(提供:国立天文台)

ペルセウス座流星群は8月12日深夜から13日未明が好条件

まずは毎年夏の恒例であるペルセウス座流星群。国立天文台の情報によると、流星群の活動が最も活発になる時刻(極大)は、今年は8月12日23時ごろ。流れ星は放射点を中心に放射状に出現するが、放射点の高度が高くなるほど流星が多く見られるようになる。その時間帯は日本では12日深夜から13日の夜明け前にかけて。月が明るいと月明かりの影響で見られる流星の数が少なくなるが、今年は12日22時過ぎに月が沈む(東京の場合)。そのため深夜以降は好条件で楽しむことができそうだ。どうか晴れますように。

今年のペルセウス座流星群は月明かりがないこと、極大の条件などから日本では2021年以来、約3年ぶりの好条件だという! 最も多く流れ星が見られると期待されるのが8月13日3時台。天の川が見えるような空の暗い場所で、1時間に40個程度の流れ星が、市街地でも1時間に5個程度の流れ星が観察できると予想されている。その前後も流れ星は見られそうだ。ぜひ願い事を用意して、流れ星を探してみよう。

ペルセウス座流星群が最も多く見られると予想される8月13日3時頃の星空。流れ星の経路を逆方向に延長すると、ある一点に集まるように見える。その点が放射点。ペルセウス座流星群は放射点がペルセウス座の近くにあることからその名前がついた。だが流れ星はどの方角にも同じぐらいの数が見られるそう。(提供:国立天文台)

そもそも流れ星とは?

そもそも流星(流れ星)とはなにか。その正体は宇宙空間にある直径1ミリメートルから数センチメートル程度の塵(チリ)の粒。つまり砂粒や小石のようなものが地球大気に飛び込み、大気と激しく衝突して高温になり塵が気化する。大気や気化した塵の成分が放つ光が、地上から「流れ星」として見えているのだ。

ペルセウス座流星群では、なぜたくさんの流れ星が見えのだろう。流れ星の正体である塵は彗星などの天体(母天体)から放出される。ペルセウス座流星群の場合は、スイフト・タットル彗星が太陽に接近した際に大量に放出された塵の粒の集団が、彗星の軌道に沿って分布し、塵の流れを作っている。その塵の流れに1年に1回、地球が近づく際に地球大気に塵が飛び込んできて、流星群として見えるのだ。なぜペルセウス座流星群と呼ばれているかと言えば、流れ星の放射点がペルセウス座近くにあるから。

流星群が毎年見られるしくみ。(提供:NASA)

観察のコツは、まず場所選び。なるべく人工の光に邪魔されない空の暗いところ、空が広く見渡せる場所を見つけよう。流れ星を見るには特別な道具は必要ない。肉眼で見られる。だが目が暗闇に慣れるのにも時間がかかる。懐中電灯やスマホの明かりをつけないようにして、最低15分ぐらいは流れ星を探してほしい。

見上げる方角はペルセウス座付近に限らず、空全体を見渡そう。放射点付近の流れ星は飛跡が短く、放射点から離れた位置で飛ぶ流れ星は、飛跡が長く見えるそうだ。ずっと星空を見上げていると首が痛くなるので、できればシートをひいたりビーチチェアに横たわったりして観察するのがおすすめだ。

全国各地でペルセウス座流星群の観察会が行われる。また日本全国でお天気が悪い場合に注目したいのが、ハワイ島のすばる望遠鏡で連日行われている星空ライブ配信。国立天文台と朝日新聞がすばる望遠鏡のドームに超高感度カメラを設置、マウナケア山頂付近のリアルタイム映像を365日24時間配信している(欄外リンク参照)。ペルセウス座流星群が写りこむことが期待される。ただし日本とハワイは-19時間の時差があることに注意しよう。

国立天文台ハワイ観測所と朝日新聞が共同で運用する「星空ライブカメラ」は、すばる望遠鏡のドームから毎日、世界にライブ発信中。上の画像は 2021年のペルセウス座流星群を星空ライブカメラで捉えたもの。(提供:国立天文台・朝日新聞社)

宇宙飛行士の油井亀美也飛行士は子供の頃から毎年、ペルセウス座流星群を見るのを楽しみにし、中学生になると写真撮影や記録に取り組み始めたそう。「視界が開けた場所で横たわり、流れ星が天空のどこからどこまで流れたかという経路を星図に書き込んでいきました」と著書「星宙の飛行士」(実務教育出版)に記している。

国際宇宙ステーションに到着後にペルセウス座流星群を探したところ、眼下に広がる大気圏の中を、地上に向かって流れて行く流れ星を発見することができたという。その時、地上で見上げていた流れ星を宇宙では見下ろしていることに、不思議な気分がしたそうだ。そんな体験をいつかしてみたいものだ。

2011年8月13日、国際宇宙ステーションに滞在中のロナルド・ギャレン宇宙飛行士が撮影したペルセウス座流星群。(提供:NASA)

約80年ぶりに新しい星が出現する? かんむり座T星

ペルセウス座流星群のピークが過ぎた8月半ばには火星と木星が、20日から21日にかけて月が土星と接近する様子が見られる。また8月27~29日には月が木星、火星に接近し、3つの天体が寄り添うように輝くさまが夜空を彩るという。

火星と木星が最も接近するのは8月15日未明。2時ごろから夜明け前にかけて見やすい高度にのぼってくる。(提供:国立天文台)

そして夏以降、「約80年ぶりに明るくなることが期待される星」があるという! その星とは「かんむり座T」。教えて頂いたのは、DSPACEでおなじみの大川拓也さん。国立天文台広報普及員やJAXA宇宙科学研究所などの勤務を経て、現在はフリーランスで星空や天文関係のお仕事を精力的に展開されている。

約80年ぶりに星が明るくなるってどういうことだろう。大川さんによると、見慣れない星が、夜空に突然輝くように見える「新星爆発」と呼ばれる現象があるそうだ。しかし、新星といっても新しい星が生まれるわけではないし、星の最後の大爆発、超新星とも異なる。その正体は、かなり接近した二つの星からなる連星系だ。白色わい星という小さく暗い星に、隣の星からガスがどんどん流れ込み、やがて核融合反応を起こして爆発的に明るくなるという現象だ。明るさは一時的に1万から10万倍にもなると言われる。

白色わい星と赤色巨星が接近している連星では、白色わい星にガスがどんどん流れこみ、やがて核融合反応で爆発的に明るくなると考えられている。上はイメージ図。(提供:大川拓也)

新星の多くは数千年~数万年程度の間隔で爆発を繰り返すが、中には数十年ごとに爆発を繰り返すものがあり、再帰新星や反復新星などと呼ばれている。「かんむり座T」は1866年、1946年に爆発的に明るくなった記録がある。80年おきに爆発しており、もうすぐ次の爆発が起きると予想されている。

かんむり座Tはふだんは約10等級で肉眼では見えない暗い星。だが爆発が起こると2等級になるとも予想されている。しかしその明るさは長く続かず、日に日に暗くなる。新星が出現したらすぐに観察し、ひと時の輝きを目に焼き付けたい。

かんむり座はヘルクレス座とうしかい座の間にある小さな星座。(提供:大川拓也)

かんむり座は、2~4等の星からなる小さな星座でなかなか見つけにくいかもしれない。上の図を参考にうしかい座のアルクトゥルス(0等)を目印に、星座アプリなどで探してみよう。かんむり座Tは、かんむり座の半円形の星の並びのすぐわきに位置する。80年もの長い眠りから覚め、この夏に爆発が起こるかどうかは、誰にもわからない。だが今年中には起こるかもしれないと注目されているそうだ。

まだ爆発していないかんむり座T(2024年8月2日撮影)。望遠鏡で撮影した画像。画像の向きは矢印の向きが北。矢印の先の星がかんむり座Tでこのとき約10等級。(提供:大川拓也)

新星爆発が起これば、「夜空の王冠に宝石が加わったように見えるかも」と大川さん。その姿を目撃できれば、人生に一度の貴重な体験になるかもしれない。流れ星、惑星、新星。この夏は星空との対話を大いに楽しんではいかがだろうか。

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