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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

星や宇宙を仕事にできる? 答えは「Yes」その極意とは

(提供:「星や宇宙を仕事に!〜つかめ、未来!」主催者)

5月18日(土)、東京・お台場の某会議室は熱気に包まれていた。テーマは「星や宇宙を仕事に!」。宇宙ビジネスが声高に叫ばれ、宇宙関連スタートアップの話題が日々、ニュースサイトをにぎわす。だが、星や天文関連の仕事はどうだろう? 星に関する仕事と言えば、頭に浮かぶのは天文学者やプラネタリウム解説員。天体観望会は科学館や天文台で無料で行われることが多いし、星や天文を個人が仕事にするって可能なんだろうか?

実際、全国にいるのです!星空ガイドや星空写真家、星をテーマに活動するYouTuber、VTuberたちが。そんなフロントランナーたちが、今まさしく奮闘中の方たちの悩みを聞き、課題解決に向けて語り合うイベントは、想像を超えて盛り上がった。結論は「星や宇宙で食べていくことはできる!」。どうやって? その詳細をレポートします。

なぜ今、イベントをやるのか

イベントを主催したのは女性二人。sorashiro(ソラシロ)代表で「星空のチカラを生きるチカラに」をテーマに星空体験をプロデュースするイワシロアヤカさん、移動科学館Science a GoGo代表の星空ナビゲーターrisaさんだ。二人は元々、同じ会社(望遠鏡メーカー)で働いていた仲間だ。

イベント主催者のイワシロアヤカさん(左)とrisaさん(右)。イワシロアヤカさんは高知県在住の星空案内人で認定ワークショップデザイナー。risaさんは大学で物理学を学び「科学をもっと身近に」を軸に活動。国立天文台ですばる望遠鏡の広報も務める。

イベントを行ったきっかけをrisaさんはこう話す。「私がフリーで事業を立ち上げたのが2023年4月で今年2年目。一人でやっているとアイデアを思いついても本当に面白いのか、なかなか相談できない。ボランティアでなく、星空の魅力を知ってもらいながらビジネスにしていきたいが、どうやって営業をかけたらいいのか、悩みがあった。そこで今回、たくさんの方と交流してもらって、『一緒にイベントをやろう』など新たな繋がりができたらいいし、これからビジネスをやろうとする人には『稼げるのかな』という問いへのヒントに、既に始めている人でモチベーションが下がっている人には上げるきっかけになれば」と語りかける。

約40名の会場参加者には「今は星に関係する仕事に就いていないが、宇宙の図鑑を子供のころから宝物にしていて、どうやったら星や宇宙に関われるのか知りたくて参加した」という男性も。会場参加費は早割で2000円と安くはないが、だからこそ何かを得て帰ろうという参加者の期待が感じられる。

「星空の罠」とは?

さっそく、二人のフロントランナーによるトークが始まった。約25年間、「星空×ビジネス」を開拓してきた都築泰久さんと、登録者2万人越えの星空写真家YouTuber、成澤広幸さんだ。

左は(株)サイトロンジャパンブランドマーケティング推進室室長の都築泰久さん。元ビクセン企画部担当取締役。「宙ガール」の呼称を発案、日食網膜症を専門とする眼科医のアドバイスをもとに世界天文年推奨「日食グラス」を企画制作、約200万枚の販売につなげる。右は星空写真家・タイムラプスクリエイター・YouTuber(登録者2万人~)の成澤広幸さん。オンラインサロン「成澤広幸の撮影研究塾『STAVE』」を運営。全国で撮影セミナー、動画編集セミナーを多数開催中。

都築さんの話で印象深かったのは、「星空の罠」。「ビジネスの原点として『人は価値のあるものにお金を払う』というフレーズが好きです。お金を払う価値を作るのは大変。ところが恐ろしいのは、星に関することはすぐ『いいね』と言ってもらえること。本当はこのくらい(のギャランティが)ほしいが、みんながいいねと言ってくれるから、我慢してしまい、ボランティアになったりビジネスや事業に行きつかなくなったりするのをいっぱい見てきた。『星空の罠』です」。

そんな「星空の罠」に対して、成澤さんが解決案の一つを提示した。「僕は市場感を気にしています。前職が営業で、マーケティングに首を突っ込んだこともあり、市場規模感を数値にしようと考えました。YouTubeを始めたのもそれきっかけ。チャンネル登録者数を(星や宇宙に関心ある)天文人口の一つとして表示できる。それをもとに、(メーカーなどに)これだけの需要があって、何%の人が購入すればこれだけの売り上げになると提案ができる」。

市場規模を数値化し、隙間産業を狙え!

チャンネル登録者数が2万人を超える成澤広幸さんのYouTubeチャンネル。動画を見る方の地域や年齢層などの分析データが得られ、天文人口の把握や市場リサーチに繋がるそう。(提供:成澤広幸Youtubeチャンネル)

市場規模、数値化。ビジネスでは基本なのに「そんな発想はなかった!」と一撃をくらった気持ちになる。そして成澤さんはもう一つ、大事な考え方を提示した。

「自分のことを『ミスターすき間産業』と呼んでいます。その分野でやっている人がどのくらいいるのか。例えばカメラの機材なら、『この価格帯は、誰もやってないよな』など、ブルーオーシャンを狙うようにしています」

成澤さんの話があまりに面白いので、登壇後にお話を聞いた。望遠鏡メーカーで約11年間勤務した後、フリーランスに。当時は新型コロナウィルスが感染拡大中であり、成澤さんが目を付けたのが動画だったそう。

「天文業界に動画分野が足りないと思っていたんです。企業が新商品を出すときにティザー動画がないなんて今は考えられないが、当時は少なかった。そこで退職金を動画機材に全部つぎ込んで、半年間動画スキルを磨きました。その上で2日に1回のペースでYouTubeで(星景写真や撮影機材などの)動画投稿を続けたら、半年たったころから声がかかり始めたんです。

『イベントのリアル開催ができないので情報発信をしてほしい』などカメラメーカーが多かったですね。当時は星という観点から動画で情報発信をしていたのが自分ぐらいで、カジュアルに共感を呼ぶ自分のキャラクターもよかったんだと思います。そこから講演依頼、カタログ撮影ツアーなど仕事の幅も広がり、今はオンラインサロンをメインにしています」

親しみやすい語り口の成澤さんだが、自分ができることや市場を整理して、「どうアプローチしたらブルーオーシャンに至るか」常に考えている。つまり戦略をちゃんと持っているのだ。そんな成澤さんに「天文分野はお金になりますか?」とストレートに聞いてみた。「なりますね。アマチュアはいるがプロはいない。つまりマネタイズの感覚がない。若手が育ってほしいと思っています」とのこと。マネタイズの感覚を磨けばチャンスはあるということだ。

営業活動はどうしたらいい? リアルな悩み相談

右から惑星科学者VTuberの星見まどかさん、アストロエンターテイナーのリコットさん、星空ガイドとして活躍するこむらなおみさん。

イベント後半では、星や宇宙業界で叶えたい夢に向かって邁進中の3人、惑星科学者VTuberの星見まどかさん、アストロエンターテイナーで現役大学院生のリコットさん、北海道の北湯沢で星空ガイドとして活躍するこむらなおみさんがフロンティア3人に悩みをぶつけた。

例えば、北海道の北湯沢温泉郷のホテル(最上階の天文台に大型望遠鏡あり!)を拠点に星空案内をしている、ほし屋さんことこむらなおみさんは「北湯沢は人口が少なく、ホテル以外の仕事を増やしたいが、どう広げていくか」が悩み。

その悩みに対して、天体望遠鏡通販会社を起業し、20年以上全国で星空を楽しむイベント「スターライトキャラバン」を開催している船本成克さんは「自治体に(星空観望会などの)企画書を出したら」と提案。ただし、ここではこれだけ星が見えると写真を撮って提示したり、予算が必要な場合は書き込むなど企画書をしっかり作りこむことが必要とアドバイス。

企画提案を受ける立場から都築さんは「企画を受け入れ易いのは実績があること、提案した人が何者かがわかること。ホテルでの実績を武器にして安心・信頼してもらった上で、提案するのが大事」と後押しする。

たくさんの人に届けるには? 次のステージに行くには?

東京大学大学院で系外惑星を研究しつつ、YouTuberとして活動するリコットさんは宇宙とエンタメをかけ合わせた「日本一のアストロエンターテイナー」を目標に掲げる。イメージは(科学実験の)米村でんじろう先生やさかなクンの宇宙版。「星や宇宙の業界では知られる存在になってきたと思うが、分野外からはまだ無名。最近は視聴回数があがってきたが、もっとたくさんの方に届けられる存在になりたい」という悩みが。

どうやったらたくさんの人にリーチできるか、という問いに対して成澤さんが提案したのが「別業界とのコラボ」。星以外のジャンルで(YouTubeの)登録者が多い分野がねらい目だと。「違う業界の人と話せば、『面白いことをやっているね』とか『そういえばうちの子供が星に興味があると言っていたな』などリコットさんのYouTubeを見てもらえると思う。3日に1回は動画をアップすれば、いけるんじゃないか」とエールを送る。

星見まどかさんは惑星を研究する惑星科学者VTuberとして約2年半活動している。仕事としてやっていくには収入が足りないが、一人でやるには時間的にも能力的にも限界がある。次のステージに行くにはどうしたらいいか悩んでいるという。

キャパオーバーと言えば、と回答を求められたのが都築さん。「仕事を始めるとやらざるを得なくなる。(できない仕事は)早い段階で切る、誰かに任せる。その見極めをした方がいい」とアドバイス。

成澤さんも「何を減らすかが大事」と言い、ご自分の例をあげた。「今はオンラインサロンを運営し、YouTubeの投稿頻度を下げている。オンラインサロンの仕事は基本的に変わらないが会員が増えれば(収入面では)楽になる。一方、YouTubeは力をかけてもなかなか収入は増えない。力をかけるにはどちらがいいか、バランス感覚が大事」。

星見まどかさんは「自分は一つ一つの仕事に完璧主義で臨んでいた。バランス感覚がなかったと思う」とふり返り、さっそく見極める力をつけていきたいと答えた。

ブース出展には宇宙日本食開発中の「チームゆら」が!

みかんゼリーの宇宙日本食認証に向けて、着実に歩みを進める「チームゆら」の皆さん。右から二人目が増田結桜さん。甘酸っぱい静岡産みかんの食感や風味を大事にしたいと奮闘中。

イベントでは、個性豊かなブース出展をしている方々との出会いがあった。その一つが「チームゆら」。小学校5年生の時に宇宙日本食開発を始めた増田結桜さん(現在は中2)が、大学生や社会人とチームを結成。静岡産みかんを使った「みかんゼリー」の宇宙日本食認証を目指している。以前から注目し、会いたいと思っていた!(宇宙日本食の話は、別の機会にぜひ詳しく紹介したい)。

イベントは黒字。星を見る「新しい文化」を作っていきたい

星空観察会の様子。(提供:risa)

あっという間の2時間半。「星や宇宙の仕事にどうやったら関われるか」知りたくて参加したという男性は「星や宇宙への自分の興味が仕事にできるとわかったし、今の仕事にも生かせそうだと知った。頑張っていこうかな」と語ってくれた。「確立された道がない中、模索している人がいることに勇気づけられました。刺激を受けて、私のやりたいことの方向性に気づいた気がします」との声も寄せられたそうだ。

主催者のイワシロアヤカさん、risaさんは「こんなにたくさんの人が集まって、この空間が盛り上がったことに自分たちが驚いている」と嬉しい悲鳴。「仕事にすると言っている以上、赤字にしたらかっこ悪い」とイベントが黒字になるよう価格設定も議論を重ねた。

植物園の夜間開園時の星空観察会でのイワシロさん。(提供:イワシロアヤカ)

価格設定はとても難しいと二人は口をそろえる。「例えば観望会にいくらぐらいお金を出してもらえるか。私たちは天体望遠鏡を買ったり学んだり、時間とお金をかけている。星を見ることで自分の五感や心がどう変わったか、ビフォーアフターを参加者に提示し、その価値に対してお金を払ってもらうのが普通だよという『新しい文化』を作っていきたい」と語る

最後に改めて聞いた。宇宙や星は仕事になりますか?「言えます。このイベントにしても私の飛行機代を入れた上で黒字にできています。地方に住んでいて小さい子供二人がいても、仲間と力を合わせれば、東京でこんな星のイベントができると伝えたい」(イワシロさん)。

イベントを取材して、星や天文の分野で頼もしく逞しい若手が育ち、仕事の幅や種類がどんどん広がっているのを実感した。彼らの活躍を応援したい。ともに星空を見上げることで私たちの日々の生活、そして心がきっと豊かになると思うから。

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