2011年5月27日 vol.66
6月の日食と月食
6月2日の早朝、日本では 北海道・東北・北陸で部分日食が見られる。(ステラナビゲータ Ver.9/アストロアーツで作成しました)
今年の6月は、日食と月食が両方起こる、珍しい月である。まずは、部分日食。2日の早朝、日の出直後の太陽に注目しよう。もしかすると、ネズミがかじった程度に欠けている様子が見られるだろう。ただ、残念ながら観察できる場 所は限られている。
今回の部分日食で、太陽が大きく欠けて見えるのは、世界的には北極圏から北東アジア、北アメリカ大陸北部である。日本では福島県と福井県とを結ぶ線よりも北側でないと日食にならない。北に行けば行くほど、欠ける率は大きくなる。 それでも稚内で12%ほどで、札幌では9%、本州では青森で5%どまり。これだと、よほど注意してみないとわからないレベルである。
それに加えて、日食の起こる時間帯が早朝の日の出直後であることが観察条件を悪くしている。食の最大になる時刻は場所によって異なるが、午前4時44分頃から54分頃。確かに、稚内では太陽は地平線から10度の高さにまで上っている。北海道の大部分では日の出から30分ほど経過しているので、太陽の欠けた姿が観察できる。しかし、本州の金沢や福井では、食の最大時刻がほとんど日の出の時刻となり、実質的に観察するのは難しい。
観察できる北の地域の方は、ぜひ早起きして、日の出直後の太陽がほんのちょっぴり欠けている姿を楽しんでほしい。もちろん、部分日食なので、実際の観察には、太陽の光を弱める専用の日食グラスなどを用いることが大事である。 太陽を直接目で見ると網膜を傷つけてしまう可能性があるので、気を付けよう。
6月16日の早朝、月が欠けた状態で沈んでいく月没帯食が全国で見られる。(ステラナビゲータ Ver.9/アストロアーツで作成しました)
さて、この部分日食から半月ほど過ぎた6月16日早朝、今度は月食が起こる。月食が始まるのは午前3時23分。西に傾きつつある満月が次第に欠けていき、約一時間後の午前4時22分には皆既月食になる。時間的には明け方になるので、月はどんどん西の地平線に近づいていき、福島県よりも北では皆既月食になる前に月が沈んでしまう。いわゆる月没帯食である。今度は2日の日食と逆に南側の方が条件がよい。東京では、皆既食が始まると同時に月は沈むが、沖縄では皆既月食が最大となっても、まだ月は沈んでいない。
ところで、部分日食と皆既月食。ずいぶんと近い時期に起こると思う人はいないだろうか。実は世界的に見れば、日食と月食は、このように半月を隔てて、セットで起こることが多いのである。これは日食や月食といった現象が起こる理由を考えると分かる。
食が起きるのは月、地球、そして太陽の三者が一直線に並ぶときである。しかし、月が地球を巡る軌道面は、地球が太陽を巡る軌道面と約5度ほどずれている。そのため、通常は地球から見て新月が太陽の北側か南側を通り過ぎるので、食は起こらない。もし、両方の軌道面が完全に一致していたら、毎月のように月食や日食が起きることになる。(それはそれで楽しいだろうが。。)ただ、平面はかならず交わっている。月の軌道面も地球を中心に見ると地球の軌道面と交 差している。その交点は二カ所ある。この点の付近で月が満月や新月を迎えると、日食や月食になるわけである。今回も、この交差点のうちのひとつにさしかかった時期に前後して満月と新月を迎えたので、日食と月食が半月を隔てて、セットで起こったというわけだ。
ところで、半年後には、もうひとつの交差点にさしかかる時期が来る。その時には、やはり、部分日食と皆既月食がセットで起こる。ただし、日本では12月10日から11日にかけての皆既月食だけが観察でき、11月25日の日食は南 極大陸でしか見られない。
このように約半年の周期で、食が起こる可能性のある時期が巡ってくるのだが、それも同じ時期ではない。月の軌道面はその約5度の傾きを保ったまま、約17年ほどの周期でぐるっと一回転しているためだ。そのため、食の起きる時期も毎年少しずれていくのである。この連載の最中で例を挙げると、2008年の月食は8月なかばだった。(参照:vol.33/「夏の夜明けの月没帯食」)それが3年で6月までずれこんだわけである。こうして、周期性や規則性を考えると奥が深いことが分かってくるはずである。日食や月食を眺めながら、宇宙の神秘に少しでも想いを馳せてみよう。