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2010年9月11日 種子島 準天頂衛星みちびき 打ち上げレポート 2010年9月11日、準天頂衛星みちびきが種子島宇宙センターより打ち上げられました。現地に飛んだ「読む宇宙旅行」の林公代さんが、打ち上げの様子や打ち上げを支える方々のお話をご紹介します。

「一人ひとりに恩恵をもたらす衛星です」
-「みちびき」熱制御担当に聞く

打ち上げ前日9月10日17時、種子島宇宙センターに到着。さっそくインタビュー開始だ。まずはJAXA「みちびき」プロジェクトチーム内紅一点のエンジニア、明神絵里花(みょうじんえりか)さんを直撃した。

「みちびきさん」を手にする明神絵里花さん。2003年入社。高知県出身で九州大学での専攻は航空工学。高校1年生の時にホーキング博士の本で宇宙に興味を持った。切れ長の目が素敵なカッコいい女性です。
「みちびきさん」を手にする明神絵里花さん。2003年入社。高知県出身で九州大学での専攻は航空工学。高校1年生の時にホーキング博士の本で宇宙に興味を持った。切れ長の目が素敵なカッコいい女性です。

明神さんは衛星本体の「熱制御担当」。人工衛星は日が当たるときの表面温度は100度以上、日が当たらないときは100度以下という激しい温度差に晒されるのに、電子機器は常温で使用しないといけないという厳しい条件がある。保温などの熱設計がとても大事なのだ。

「私がこのプロジェクトにかかわったのは2007年4月からでちょうど衛星バス(本体)の基本設計をしているところでした。みちびきは設計寿命が10年以上と長い衛星なので、既存の技術を生かしながら、確実に長生きするようにというのが大命題でしたね」

なるほど。さっそくいくつか質問させていただいた。

- 開発でご苦労されたのはどんなところですか?

明神:うーん・・各段階で苦労していますが(笑)、昨年の10月に三菱電機さんの鎌倉製作所で熱真空試験をしたんです。直径約11.5mの大きなスペースチェンバーを真空にして、高温と低温をくり返して宇宙と同じ環境にするんです。その中に衛星のフライト品(実際に打ち上げる実機)を入れて、環境に耐えられるかどうかを見るんですが、約1ヵ月間24時間みなで交替しながら立ち会うのが長くて、しかもずっと緊張して大変でしたね。

- 24時間とは、大変ですねぇ

明神:「みちびき」が飛ぶ軌道は通常のGPS衛星よりも2倍ぐらい高度が高くて、大きな電力で送信しないと地上に電波が届かないんです。そのために高電圧機器を扱っているので、放電しないかすごく気にしていましたね。バチバチと放電すると機器に損傷を与えてしまいますからね。絶対に放電しないように、チェンバー内の空気を抜いて衛星内に空気が残っていないか、ちゃんと高真空になっているか何度も確認してから、高電圧の電源を入れたりして、緊張の一ヶ月でした。うまくいったときはうれしかったですね。

「みちびきさん」を手にする明神絵里花さん。2003年入社。高知県出身で九州大学での専攻は航空工学。高校1年生の時にホーキング博士の本で宇宙に興味を持った。切れ長の目が素敵なカッコいい女性です。
「みちびきさん」を手にする明神絵里花さん。2003年入社。高知県出身で九州大学での専攻は航空工学。高校1年生の時にホーキング博士の本で宇宙に興味を持った。切れ長の目が素敵なカッコいい女性です。

- 明日の打ち上げに向けて種子島ではどんな作業をなさるのですか?

明神:衛星のセットアップ(準備作業)ですね。今、衛星は電源を入れていない状態ですが、打ち上げの7時間前から火を入れていきます。

- 火を入れる、とは?

明神:はは、電源を入れることです。ちょっとずつ機器に火を入れながら温度などのテレメトリデータを確認して最後の設定をしていきます。7時間前には、衛星は射点に移動していて近寄れないので、第2衛星フェアリング組立棟という部屋から遠隔操作で行います。最後は打ち上げの15分前にバッテリー切り替えがあって、射場設備の電源から衛星内部の電源に切り替えて、衛星を「自立」させます。「よし大丈夫」と確認したら、もう何もできない。

- いよいよですね。現在の心境は?

明神:昨日からドキドキしてきましたね。でも心配はありません。リハーサルでしっかりとやってきたし、三菱電機さんも手慣れていて十分に訓練を積まれた方たちなので信頼しています。打ち上げの瞬間に三菱電機さんからJAXAに衛星が納入されて、私たちが運用していくことになります。

- 運用はどちらで?

明神:筑波宇宙センターに管制室があります。打ち上げが成功しても、衛星はそこからが長いんです。衛星のエンジンを噴射させて軌道の変換がうまくいかないと、目標とする準天頂軌道に衛星が入らない。全体で2週間ぐらいかけて最終的な軌道にいれていきます。その後も3カ月かけて、衛星の機能の確認をしていきます。

- これからですね。今後への期待とズバリ衛星の「売り」を。

明神:初号機は絶対に成功させないといけないと思っています。それから一般の方々に「みちびき」の効果をわかっていただくためにPRしていきたいですね。カーナビで10mの精度が1mに、といっても違いが実感できないかもしれませんが、人が歩くときに1mの違いは大きい。路地一本違ったりしますよね。さらに低速移動体では数cmオーダーで精度を高めようとしているので、自動的に田植えができる。もちろん津波を従来より遠い場所で検知するなど災害の検知にも役立つし、検知した災害情報を送ることもできる。「一人ひとりに恩恵を与えられる」衛星だという点が、ほかの衛星と違う点だと思います。