打ち上がったロケットを追いかけろ!
「射場管制官ガール」のお仕事
- 嶋根愛理(しまねえり)さん。管制室前で。種子島では車で約10分の宿舎に住む。上司は上の階!「みんな家族みたい。初めての一人暮らしも全然寂しくない」。打ち上げ後も次の打ち上げ準備に追われ、残業なく帰れる日はほとんどないとか。
- 「RCO」の札下の四角い箱にある右二つの赤枠のボタンが「緊急停止ボタン」左が打ち上げ410秒前に押す「準備完了ボタン」。「間違えるなよ~って言われます」(嶋根さん)
「リフトオフ!」とロケットが打ち上がった後、忙しく働き出すのが総合司令棟RCCで働く「射場班」だ。ロケットが安全に飛行するように位置を把握し、ロケットから送られてくるテレメータで状態を知り、ロケットを制御する。射場班で国内外のアンテナ局と連携して指揮を執るのが射場管制管(RCO)。高速で飛行するロケットを制御するため、0.1秒を争う状況で的確な指示を出す。今回の打ち上げでRCOを担当したのが嶋根愛理さん。入社2年目にして4回目のRCO。打ち上げ翌日、管制室を見ながら取材した。
- 昨日の打ち上げはどうでしたか?
嶋根:本当にスムーズで安心して運用できましたね。管制室正面のモニター画面の一つに打ち上げのシーンが写されるんです。ここのところ雲が多い打ち上げが続いてすぐに見えなくなっていたのですが、雲もなく夜だったので追いやすくて、カメラで光の点になるまで追いかけていましたね。飛行も事前の解析から大きくずれることなく、各局からの報告もほぼ予定どおりの時間に来たので、安心して管制ができました。
- 嶋根さんの席はどこですか?(と、管制室を見ながら聞く)
嶋根:前列中央のRCOと書いてある席です。打ち上げ前の一番大事な仕事に、種子島内3局、小笠原島、クリスマス島の5つの追跡局をまとめる射場系グループの準備が整っていますという「準備完了ボタン」を押す仕事があります。
- あの、大きな四角いボタンですね? いつのタイミングで押すんですか?
嶋根:打ち上げ時刻の410秒前です。最初は緊張しましたが、今は緊張する暇もなく(笑)、タイミングよく押そうと。遅れてもいいんですが、打ち上げ何秒前には何をするという手順が決まっているので、遅れると『異常がある』と思われてしまうんですよ。
- 発射前の管制室の雰囲気はどんな感じですか?結構ピリピリしてます?
嶋根:責任者がリラックスする雰囲気を作りますから、かえって本番のほうが和やかですね。逆に試験の時は問題がないかチェックするので真剣です。
- ところで嶋根さんは、管制官志望だったんですか?
嶋根:いえ。種子島に配属されたときはびっくり(笑)。大学では応用物理を、大学院では航空宇宙を勉強しました。大学4年生の時に宇宙科学研究本部(当時)の研究室に派遣してもらって宇宙太陽発電システムを研究し、宇宙開発に関わりたいと。入社のときは衛星通信とか運用に近いところを希望したんですけどね。
- 実際仕事を始めてどうですか?
嶋根:楽しくてしょうがない(笑)。現場で実際の運用ができる。最初に関わったのはH2Bロケットなんです。
- あの初号機でいきなりデビューですか?
嶋根:もちろん、OJT(オンザジョブトレーニング)で教育係の先輩が横についてくれています。ちょうど初号機は試験が多くて、小さい試験から徐々に関わらせてもらいました。ロケットも新しくて私も新人で一緒に育った気がして、思い入れが強いロケットですね。
- 4機目だともう慣れましたか?
嶋根:スキルは上がったと思うんですがまだマスターできていないと思うのは、見えない基地局の動きを把握することです。実際にやりとりしている相手の基地局をまだ見たことがない。私の指示でどんな動きになるのか。近いうちに見に行けると思うので楽しみです。
- この言葉はこだわっている、というセリフはありますか?
嶋根:はい。「リフトオフ確認」という言葉です。(横から広報マンが「カッコいいんです~これが」と耳打ちしてくれる)。本番しか言えない言葉だから気合入れてます。種子島の基地局は打ち上げ映像が見えますが、小笠原やクリスマス島の局は音声でしか打ち上げの状況がわからない。だからカウントダウンも私が言って、打ち上がった映像を確認したたら、「リフトオフ確認」と。これからそっちに飛んでいきますよ~と伝える。
- すごくいい声をしてらっしゃいますものね。
嶋根:女性の声のほうが通りやすいみたいで。きっとうるさいぐらいだと思われているかも(笑)。今宇宙ステーション「きぼう」のフライトディレクターをされている松浦真弓さんは初代女性RCOで、それ以来入社すぐの女性がRCOに就くことが多いです。私も「きぼう」や衛星の運用をやってみて、またロケットの追跡管制に役立てたいですね。