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星空の散歩道

2014年11月19日 vol.89

幻の流星群、出現するか?

 2014年12月2日、幻の流星群が出現するかもしれない、と予測されている。「ほうおう座流星群」である。

 もともと、この流星群は1956年12月5日、第一次南極越冬隊をのせ、南極に向かっている「宗谷」がインド洋上で目撃した大出現が発見のきっかけだった。火球クラスの明るい流星が多く、ニュージーランドから南アフリカまでの広い範囲で目撃されている。しかも、流星雨といっていいほどの出現で、一時間に500個というレベルだったらしい。その放射点(流星が四方八方に飛び出すように見える天球上での点)の位置から命名された流星群である。

 しかし、不思議なことに、その後はほとんど出現しないまま、何十年と過ぎていった。流星群の母親である彗星についても、謎だらけだった。1819年に一度だけ姿を見せた周期5.1年のブランペイン彗星らしいとされていたのだが、この彗星もそれ以来行方不明になってしまっていた。どちらの意味でも”幻”の流星群となっていたわけである。

彗星から放出されたダスト・トレイルが地球軌道を横切る様子

彗星から放出されたダスト・トレイルが地球軌道を横切る様子

 ところが、この流星群について話が急展開したのは、ブランペイン彗星と軌道が酷似している小惑星が発見されてからである。2005年になって、その頃から盛んに発見されつつあった地球近傍小惑星の中に、ブランペイン彗星に似た軌道を持つ天体が見つかったのだ。2003WY25である。こうして200年を越える長さで軌道が決められた。そして、われわれ日本のグループが、この軌道を元に、彗星が太陽に近づく度に流星になる砂粒が放出されると仮定して、その群れ(ダスト・トレイル)を理論的に追いかける「ダスト・トレイル理論」の計算を行ってみた。すると、まさしく1956年には、大出現の条件が揃っていることがわかった。18世紀から19世紀にかけて、彗星から放出されたダスト・トレイルが集中して地球軌道を横切っていたのである。この小惑星がブランペイン彗星と同一天体であることを確かめただけでなく、ほうおう座流星群の母親が確定した。さらには、他の年には、ダスト・トレイルがほとんど交差していないこともわかった。つまり出現しなくて当然だったのだ。

 ところで、ダスト・トレイル理論では、過去の計算だけでなく、未来の予測についても可能である。そこで、未来に向かって地球軌道にダスト・トレイルが近づくかどうかを計算してみた。すると2008年、そして2014年が条件がよいことがわかった。われわれは2008年の出現されると期待された時期に、わざわざハワイにまで出かけて、観測を行った。もともと出現数はそれほど期待できない予測だったが、極めて弱い出現が認められた。そこで2014年である。こちらは計算上は2008年よりも出現条件はよい。なにしろ、20世紀前半に、彗星から放出された砂粒が成すダスト・トレイルがかなり重なって、地球軌道に交差している。このために、この幻の流星群の出現が今年は非常に期待されているわけである。

 ただ、いささか残念なのは、その出現のピーク時刻は午前8時から10時(日本時)と、日本では昼間であり、出現しても流星を眺めることができないことだ。さらに難しいことを言えば、20世紀前半にブランペイン彗星が、砂粒を出しているような彗星活動をしていなければ、理論的なダスト・トレイルが交差しているとしても、実際には流星は出現しない可能性もある。1956年の大出現の原因となったトレイルは、1760年から1819年までに形成されたものだ。この時期には母親であるブランペイン彗星が、彗星として砂粒を出していたことは確実だ。しかし、2014年に地球に交差するのは、1909年から1930年のダスト・トレイルだ。もし、彗星が20世紀にはその彗星としての活動を全く止めてしまっていたとすれば、砂粒の放出はないだろうから、流星群は出現しないことになる。逆に、この時期にも彗星活動があったとすれば、流星は現れる。その意味では、流星群を調べることで、その母親である彗星の過去の活動を推定することができる。これは筆者の考案した彗星研究の新しいアプローチである。

 われわれのグループでは、観察可能なスペイン・カナリア諸島とアメリカ東海岸とに遠征隊を編成しつつある。果たして、幻の流星群は出現するのだろうか。