2012年1月24日 vol.74
ベテルギウスを監視しよう
この季節、南の空に大きくオリオン座が輝いている。この星座はオリオン大星雲をはじめ、さまざまな天体がひしめく、有名な星生成領域である。特に大質量星が生まれる場所としては、太陽系に最も近いこともあって、星がどのようにして生まれるかという謎を解くために、昔から天文学者の研究対象になるところだ(参照:vol.02/「冬空に輝く王者オリオン :青白き若き星たち」)。
ところが、このオリオン座、全く逆に星がどのように一生を終えるかという視点でも、いま注目を集めつつある。話題の中心は、赤く輝く一等星ベテルギウス。この星は、その一生の大部分を終えて、もうすぐ爆発するだろうといわれている。
太陽のような恒星は、その一生の終わりは比較的静かである。水素燃料が少なくなると、その体を膨張させ、表面温度が下がって赤くなる。そして不安定になって、膨張や収縮を繰り返しながら、外層部分を少しずつ宇宙へ放出していく。こうして、星の中心部分だった高温の核がむきだしになったものが白色矮星である。
ところが、ベテルギウスのように、太陽の8倍よりも重い恒星は、その死は劇的である。中心核に鉄が主成分の重い核ができてしまい、その自らの重みに耐えきれなくなって、限度を超えると急激にしぼむ。中心核が、中性子星やブラックホールになる瞬間である。しかし、中心核の周りのガスは、その急激な収縮に追随できない。その反動によって、猛烈な大爆発を起こして、光輝くのである。これが超新星爆発という現象である。宇宙の中で最も劇的な現象と言ってもよいだろう。どのくらいすごいかと言えば、一個の超新星爆発の明るさは、銀河の恒星の明るさをすべてあわせたほどに匹敵するほどである。つまり瞬間的ながら、一個の超新星が、ざっと太陽一千億分の輝きになるのだ。
近年、肉眼で見えた超新星と言えば、1987年の大マゼラン雲に出現したものが有名である。16万光年もの遠い距離にあったが、約3等星となって、肉眼でも見えるほどであった。この超新星からのニュートリノが神岡鉱山の地下にあるカミオカンデで捉えられ、ノーベル物理学賞という輝きも与えられた。
この超新星爆発が、ベテルギウスにもうすぐ起こると思われているのである。ベテルギウスの距離は640光年。16万光年で3等星なので、同じような規模になるとすれば、ベテルギウスの超新星爆発は、軽く満月を超える明るさとなり、昼でも見えるのは間違いない。
爆発する前、ベテルギウスはかなり不安定になるはずだ。だが、どの程度の不安定さが超新星爆発の予兆なのかはわかっていない。ある意味では、もうすでにベテルギウスは不安定ともいえる。というのも、その明るさを数ヶ月単位で変える不規則変光星となっているのである。実は、その変化は肉眼で観察しても十分にわかる。皆さんにもぜひ自分の目で観察してみて欲しい。観察は、難しい道具は不要である。肉眼で、ベテルギウスと他の星の明るさを比較するだけである。ベテルギウスの場合、同じオリオン座の一等星リゲル(0.18等)、西側の肩にある二等星のベラトリックス(1.64等)、おうし座のアルデバラン(0.87等)、こいぬ座のプロキオン(0.40等)などと比べてみよう。
ここでは比例法という方法を紹介しよう。ベテルギウスよりもやや明るい星とやや暗い星を見つけて比較し、その間を10等分して明るさを見積もる方法である。ベテルギウスよりも明るい星と暗い星のふたつの比較星を選ぶ。
イラスト:ベテルギウスと、その周辺の星(数値は等級)。ステラナビゲータ/アストロアーツで作成しました。
明るい方の星Aをおうし座のアルデバラン、暗い方の星Bをベラトリックスとした場合、ふたつの比較星の明るさを十等分して、ベテルギウスの明るさが、どちらの星に近いかを10段階で表す。ほぼ中間なら、(A5 5B)、ちょっとAに近いかな、と思ったら、(A4 6B)、さらにAに近ければ(A3 7B)などとする。なかなか難しいと思うが、えいやで推測するのである。こうして観察した結果を、年月日・時刻とともに記録する。ベテルギウスを2012年2月1日の21時30分に肉眼で観測して、目測結果が(A2 8B)となった場合は、下記のように書く。時間は30時制を用いる。
ベテルギウス 2012 0201 2130 (A)2V8(B)
A=0.87、B=1.64 である。この結果から、ベテルギウスの明るさは、
0.87+2/10×(1.64-0.87) = 1.024
と算出できる。小数点以下2桁までをとって、ベテルギウスの明るさは1.02等である。毎日、これをやっていると、ベテルギウスの明るさがどんどん変わるのがわかるだろう。ぜひ自分の目で不安定なベテルギウスを確かめてみて欲しい。
ところで、もうすぐ爆発するといわれているが、いったいいつになるのだろうか。正確なところは誰にもわからない。しかし、少なくとも10-100万年以内といわれている。これはベテルギウスの様な重い星の寿命である数千万年に比べれば、本当に「もうすぐ」なのである。